「Made in America」の幻想?トランプ関税が製造業を弱らせる理由
2025年4月に発表されたトランプ政権の大規模関税は、「アメリカ製造業の復活」と「Made in America」の再興を掲げています。しかし、この「製造業回帰」の物語は、実際にはアメリカの産業基盤を弱らせかねないという指摘があります。
中国の英語ニュースメディア・CGTNは連載企画「Return of American Manufacturing?」の一環として、ワシントンが描く「製造業の還流」という幻想が、なぜアメリカ自身の製造業を傷つけるのかを論じています。本稿では、その論点を日本語で整理し、国際ニュースとしての意味合いを考えます。
トランプ政権の大規模関税と「製造業回帰」の物語
トランプ米大統領は今年4月、ほぼすべての輸入品を対象とする新たな高関税を打ち出しました。狙いとして掲げられているのは、次のようなものです。
- アメリカ国内への生産拠点の呼び戻し
- 雇用の創出と中間層の復活
- 「Made in America」というブランドの再生
分かりやすいメッセージで有権者にアピールしやすい政策ですが、そのロジックはきわめて単純化されています。「海外製品を高くすれば、企業は国内で作るようになるはずだ」という発想です。
しかし、この前提は、現代の製造業がいかに深くグローバルなサプライチェーン(国際的な供給網)に依存しているかを見落としている、という批判があります。
高関税のロジックが見落としている「中間財」という現実
CGTNの解説が強調するのは、アメリカが輸入しているのは完成品だけではない、という点です。アメリカの製造業、とくにハイテクや先端製造分野は、次のような「中間財」に大きく依存しています。
- 部品・コンポーネント
- 生産設備や精密機械
- 原材料
全米製造業者協会の数字によると、アメリカの輸入品のおよそ6割は、国内生産に使われる中間財だとされています。つまり、多くの輸入品は「アメリカ製造業を支える材料」そのものです。
ここに高い関税をかければ、どうなるでしょうか。中間財のコストが上がることで、アメリカ国内のメーカーの生産費用がそのまま押し上げられます。その結果、
- 国内市場でも価格競争力を失いやすくなる
- 輸出製品の価格が上昇し、海外市場で不利になる
という逆効果が生まれます。「守るはずの産業を、かえって弱らせる」構図です。
電子機器に見るグローバルなサプライチェーンの実像
こうした構造は、とくに電子機器分野で分かりやすく表れます。CGTNの論考では、象徴的な例として米アップルが挙げられています。
アップルの製品は、設計こそカリフォルニアで行われますが、実際のものづくりは、世界中に広がるサプライチェーンの上で進んでいます。
- 精密部品や高度なコンポーネントは、日本や大韓民国(韓国)など、アジアの国や地域から供給される
- 最終組み立ては、中国本土(中国)やベトナムなどで行われる
このような国際分業は、
- コストだけでなく、生産効率や熟練した人材の蓄積
- インフラの整備状況や、関連企業が集積した産業クラスター
といった要素によって形づくられています。単に関税を引き上げただけで、こうした複雑なネットワークをアメリカ国内に一気に呼び戻すことはできません。
「製造業の還流」という幻想がもたらすリスク
それでもなお、ワシントンが「製造業の還流」という物語を強調し続けると、どのようなリスクが生じるのでしょうか。CGTNの論調からは、少なくとも次のような懸念が読み取れます。
- コスト増による競争力の低下
中間財への関税は、国内メーカーのコストを直接押し上げます。そのしわ寄せは、価格上昇か、企業の利益圧縮、あるいは雇用や投資の削減という形で表れます。 - サプライチェーンの混乱
企業は長年かけて構築した国際的な調達先や組み立て拠点を、短期間で組み替えることは困難です。関税による急激な環境変化は、調達の不安定化を招きます。 - 長期投資の先送り
政策の先行きが不透明になると、企業は新工場や新技術への投資を慎重にせざるを得ません。結果として、製造業の基盤強化が遅れる恐れがあります。
こうした点を踏まえると、「高関税さえかければ工場が戻ってくる」というシンプルな物語は、現場の実態から乖離した幻想だといえます。
日本とアジアにとっての意味合い
このアメリカの政策は、日本やアジアの読者にとっても他人事ではありません。日本企業を含む多くのアジア企業は、アメリカ市場を重要な販売先とすると同時に、アメリカ企業のサプライチェーンを構成するパートナーでもあるからです。
アメリカの高関税政策が続けば、
- アメリカ向けの部品輸出に新たなコストや不確実性が生じる
- 企業が生産拠点の再配置を迫られ、サプライチェーンの再編が進む
といった変化が起こり得ます。一方で、中長期的には、効率的で信頼性の高い供給網を維持・強化できる国や地域に、より多くの投資が向かう可能性もあります。
日本の読者にとって重要なのは、「関税で製造業を守る」という発想が、本当に産業競争力の強化につながるのか、という問いを自国の政策にも引き寄せて考えてみることです。
「Made in America」を本当に強くするために必要な視点
CGTNの論評が投げかけるメッセージは、アメリカ製造業をどう見るかという議論を超え、グローバル経済の中で各国がどのように産業戦略を描くべきか、という広い問いにつながっています。
少なくとも見えてくるのは、次のようなポイントです。
- グローバルなサプライチェーンは、簡単に「国境の内側」だけに閉じ込められない
- 中間財への高関税は、自国メーカーの競争力をむしろ削ぐリスクがある
- 製造業の強化には、関税よりも、技術、人材、インフラといった長期投資が欠かせない
2025年の今、「Made in America」をめぐる議論は、アメリカ国内だけの問題ではありません。日本を含む世界の国と地域が互いに結びついたサプライチェーンの時代に、どのようなルールや協力の枠組みが望ましいのか。今回のアメリカの関税政策は、そのことを考えるきっかけにもなっています。
スローガンとしての「製造業回帰」の響きにとどまらず、その裏側にあるコスト構造と国際的なつながりを見つめる視点が、これからの国際ニュースを読み解く上でますます重要になっていきそうです。
Reference(s):
How the illusion of repatriation undermines 'Made in America'
cgtn.com








