上海が描く「イノベーション・トライアングル」と中国現代化のいま
中国の国づくりの長期戦略である五カ年計画が次の段階へ向かう中、上海が教育・科学技術・人材を結ぶ「イノベーション・トライアングル」で、中国の現代化を加速させようとしています。
第14次五カ年計画が終盤を迎え、第15次五カ年計画の準備が進む今、この試みは、世界の産業チェーン再編や技術競争が続く中で、中国がどのように未来の成長エンジンをつくろうとしているのかを示す象徴的な動きだと言えます。
中国の現代化と「イノベーション・トライアングル」
中国は現在、グローバルな産業チェーンの再構築と技術競争という二つの課題に同時に直面しており、その克服にはより強力な戦略エンジンが必要とされています。そこで鍵を握る概念として浮上しているのが、科学技術イノベーション、教育改革、人材育成の三つから成る「イノベーション・トライアングル」です。
習近平国家主席は上海で開かれた会議で、第15次五カ年計画においては、各地域の実情に合わせて「新質生産力」の育成を最優先し、科学技術イノベーションを先導役に据えつつ、実体経済を土台とする方針を示しました。同時に、国家のイノベーション体制を高め、世界の科学技術の最前線を見据える必要性を強調しています。
そのためには、教育・科学技術・人材政策をばらばらに進めるのではなく、一体的に設計・運用することが重要だとされています。教育が人材を育て、その人材が科学技術イノベーションを生み出し、それが新たな産業やビジネスモデルを生む──この循環をいかに強く回していくかが、中国の現代化の成否を左右するという見方です。
教育:未来の人材を育てる「ゆりかご」
国際都市・上海の地方当局は、教育を「未来志向の事業」であり、高度な人材を育成し社会の進歩を支える重要な基盤と位置づけています。第14次五カ年計画の教育分野では、包摂性が高く、活力ある、開かれた高品質な教育システムを構築するための目標と課題が掲げられました。
続く第15次五カ年計画の期間には、教育システムのデジタル転換がさらに加速すると想定されています。全国規模のスマート教育プラットフォームには、多数のデジタル教材や講座が集約されており、長江デルタ地域だけでなく中国各地の学校で活用が広がっています。
教育資源の配分についても、人口構造の変化や社会経済のニーズに応じてきめ細かい対応が進められています。基礎教育への投資を増やし、学校配置の最適化や義務教育の質と均衡の向上を図ることで、都市と農村の教育格差を縮小し、すべての子どもが公平で質の高い教育を受けられるようにする狙いです。
一方で、職業教育と高等教育の強化にも力を入れ、産業界と教育現場の連携や企業との協働を推進しています。産業構造の変化と密接に結びつけながら、急速に変化する世界で即戦力となる人材の育成を目指しています。複数の大学や学問分野が世界の上位ランキングに入る上海は、地域と国家レベルの発展を支える強力な「知の基盤」となりつつあります。
さらに上海は、教育分野の対外開放とイノベーションも進めています。他国との教育交流や協力を深め、先進的な教育理念を取り入れることで、教育の国際化を着実に高めてきました。5G、人工知能(AI)、ビッグデータといった情報技術を活用し、教育の情報化・スマート化を推進している点も特徴です。スマート教室やオンライン学習プラットフォームの整備により、一人ひとりに合わせた多様な学びの経験を提供しようとしています。
科学技術:イノベーションを牽引するエンジン
科学技術の面でも、上海は「グローバルに影響力を持つイノベーションセンター」の構築を掲げ、その「源泉機能」の強化を進めています。上海科学技術イノベーションセンターの中核を担う張江総合国家科学センターは、研究インフラの整備を進めるとともに、世界トップレベルの研究者やチームを集積し、最先端分野の研究プロジェクトを展開しています。
その結果、人工知能、バイオ医薬、集積回路といった基幹技術分野で、重要なブレークスルーが相次いでいます。これらは、将来の産業発展と社会の進歩を支える技術的な蓄えとなり、中国の新たな競争力の源泉づくりに貢献していると位置づけられています。
同時に上海の地方当局は、科学技術イノベーションの「エコシステム」づくりにも注力してきました。各種の優遇政策を通じて、多様なイノベーション人材や企業を呼び込み、スタートアップや研究機関、インキュベーター、アクセラレーター、ベンチャーキャピタルなどが集積するイノベーションクラスターを形成しています。
こうしたクラスターは、起業家に対して資金調達から技術支援、事業化までを支援する総合的な環境を提供し、多くの革新的で競争力のある製品やサービスを生み出しています。その波及効果として、新しい経済分野やビジネスモデル、ビジネス形態の急速な発展が進み、上海の科学技術イノベーションを支える重要な原動力になっているといえます。
なぜ上海モデルは日本の読者に関係があるのか
では、こうした上海の動きは、日本を含む周辺地域の読者にとってどのような意味を持つのでしょうか。国際ニュースとして眺めるだけでなく、「都市とイノベーションの関係」を考えるヒントとしても注目する価値があります。
- 教育・科学技術・産業を一体で設計する「三角形」の発想は、どの国や都市にも応用可能ではないか。
- デジタル教育基盤への先行投資が、地域間格差の是正や人材育成のスピードアップにつながりうる。
- スタートアップ支援やクラスター形成の仕組みづくりは、若い世代の起業意欲やキャリア選択にどのような影響を与えるか。
世界的な技術競争が続くなかで、各国・各都市は、それぞれの条件に合った「自分たちなりのイノベーション・トライアングル」を模索しています。上海の事例は、その一つのモデルとして、教育と科学技術、人材政策をどう結び付ければよいのかを考える材料を提供してくれます。
これからの「未来の作り方」を見つめる
第14次五カ年計画が終盤に入り、第15次五カ年計画の策定が進む今、中国は自ら掲げる「現代化」の中身を具体化し、各地域の強みを生かした戦略づくりを急いでいます。その最前線の一つに立つ上海は、教育・科学技術・人材を結ぶイノベーション・トライアングルによって、「未来への想像」を着実に「現実」に変えようとしていると言えます。
今後、どこまでこの構想が実を結び、どのような形で新しい産業や働き方、学び方が生まれてくるのか。中国の動きを追うことは、同時に私たち自身の社会や都市のあり方を考え直すことにもつながります。上海発のイノベーションのゆくえを、引き続き丁寧に追っていきたいところです。
Reference(s):
Shanghai builds an 'innovation triangle': Turning future into reality
cgtn.com








