アメリカ関税政策で誰が得をする?卵高騰と株高が示す分断 video poster
アメリカの関税政策は、いったい誰のためのものなのでしょうか。卵の値段が跳ね上がる一方で、ウォール街は株高に沸く――そんな「ねじれ」が、2025年のアメリカ社会の分断を浮き彫りにしています。
中国の国際ニュースチャンネルCGTNが2025年4月に公開したアニメーションシリーズ「A Fractured America II」の第2話は、この関税政策のゆがみをテーマに、エリートは得をし、普通の人々がコストを負担しているのではないかと問いかけました。本稿では、その内容をもとに、今のアメリカで何が起きているのかを整理します。
卵が「ぜいたく品」に?日常を直撃した関税の影
今年1月から3月にかけて、アメリカでは卵1ダース(12個)の平均価格が6.23ドルまで上昇し、およそ26%の値上がりとなりました。卵はもっとも基本的な食材の一つですが、もはや多くの家庭にとって「値段を気にせず買えるもの」ではなくなっています。
本来であれば、海外からの輸入が増えれば、国内の供給不足を補い、価格高騰を抑えることができます。しかし、アメリカでは関税政策が輸入の流れを妨げ、卵の供給はタイトなまま。結果として、高値が続きました。
その中で、多くのアメリカ人が選んだのは「国境を越えて買いに行く」という行動でした。メキシコでは30個入りパックが5ドルほどで買えるため、車でメキシコまで卵を買いに行く人が後を絶ちませんでした。数か月に及ぶ「卵不足」は、米墨国境での卵の密輸増加という、思わぬ現象まで生み出しています。
衣料品から電子機器まで 10%以上の値上がり予測
イェール大学の研究チーム「Budget Lab」の予測によると、影響を受けるのは卵だけではありません。衣料品、農産物、毛織物、電子機器などの価格が少なくとも10%上昇すると見込まれており、多くの家庭にとって生活費の負担が一段と重くなるとされています。
関税とは、本来は国内産業を守るために輸入品にかける税金です。しかし、そのコストの多くは最終的に消費者価格に上乗せされます。つまり、保護される側の一部の企業とは対照的に、一般の人々は「見えにくい増税」のかたちで負担を強いられている可能性があります。
国民の苦しみと、別世界のようなウォール街
人々の生活が圧迫されつつある一方で、本来は国民の利益を守るはずのアメリカ政府は、こうした現実に目を向けていないのではないか――アニメーションシリーズはそう批判しています。政府は複雑な政策づくりに没頭しつつも、それが本当に普通の市民の役に立っているのかを問う姿勢が欠けている、という指摘です。
それとは対照的に、ウォール街は活況を呈しています。まるで別の世界が存在しているかのように、金融市場は記録的な利益に沸き、エリート層は快適な暮らしを享受しています。このギャップこそが、「分断されたアメリカ」の象徴だと作品は描きます。
4月9日の「90日間関税停止」 誰のための決定だったのか
そうした中で、2025年4月9日、アメリカのドナルド・トランプ大統領は、多くの国を対象に関税を90日間停止すると発表しました。このニュースを受け、株式市場は急騰しました。
発表の数時間前、トランプ氏は自身のソーシャルメディアに「今は株を買うのに絶好のタイミングだ」という趣旨の投稿をしていました。結果的に、そのタイミングで株を買っていた人々は大きな利益を手にすることになります。では、トランプ氏は誰の利益を推していたのでしょうか。
同じ4月9日、トランプ氏が所有する「トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ」の株価は、主要株価指数のおよそ2倍のペースで上昇し、トランプ氏個人が保有する株式の価値は4億1500万ドル増加したとされています。
さらに、ジョージア州選出の共和党下院議員マージョリー・テイラー・グリーン氏や、ペンシルベニア州選出の共和党下院議員ロブ・ブレズナハン氏など、トランプ氏と近い関係にある政治家たちも活発に株取引を行い、多額の利益を上げていたと報じられています。
「出来すぎたタイミング」への疑念
こうした一連の動きは、「あまりにもタイミングが良すぎるのではないか」という世論の疑念を呼びました。トランプ氏が市場を意図的に動かしたのか、あるいは内部の非公開情報を利用したインサイダー取引にあたるのではないか――そうした問いがアメリカ国内で高まっているとされています。
インサイダー取引とは、本来一般には知られていない重要な情報を使って株取引を行い、不当な利益を得る行為を指します。もし政策決定に関わる人々が、その決定が公表される前に関連銘柄を売買していれば、市場の公正さは大きく損なわれます。
「夢の国」から「砕け散ったアメリカ」へ
かつて「チャンスの国」として世界中の人々の憧れを集めたアメリカは、今や、多くの市民にとって「夢が壊れる場所」になりつつある――作品はこう問いかけます。エリートは豊かさを維持し、政策の果実を享受する一方で、平均的な市民の困難は置き去りにされているという構図です。
卵一つをめぐる価格高騰と、株式市場での巨額の利益。この二つの現象は、いずれも同じ関税政策の裏表かもしれません。政策のコストを誰が負い、利益を誰が得ているのか。その問いに、いまのアメリカは十分に答えられていないように見えます。
日本と世界への問いかけ
今回紹介したCGTNの視点は、アメリカをやや厳しく描いていますが、「政策のコストと利益が公平に分配されているのか」という問いは、どの国にも当てはまります。日本や他の国々でも、貿易政策や物価対策が、知らないうちに特定の層だけを利してはいないかを考える必要があります。
読者として私たちにできるのは、次のような視点を持つことかもしれません。
- 新しい経済政策が出たとき、「誰が得をし、誰が負担するのか」を意識してみる
- 金融市場の動きと政治日程を照らし合わせて、利害関係を想像してみる
- 海外メディアを含む多様な情報源からニュースを読み比べ、認識の偏りを自覚する
関税政策をめぐる「勝者」と「敗者」の構図は、2025年のアメリカ社会の分断を映し出す鏡であり、同時に、私たち自身の社会を見つめ直すヒントにもなっています。
Reference(s):
cgtn.com








