米国関税ショックとグローバル・サウス:世界貿易はどこへ向かうのか video poster
リード:米国関税とグローバル・サウスのいま
2025年の世界経済では、米国の関税政策と一国主義的な保護主義の動きが、アジアやアフリカ、中南米などグローバル・サウスの国々に大きな波紋を広げています。国際ニュースではしばしば「大国同士の貿易戦争」として描かれますが、その陰でより深刻な影響を受けているのは、多くの開発途上国です。
こうした状況に焦点を当てているのが、CGTNの番組「Global South Voices」です。番組は、米国の関税が本当に自国の製造業を呼び戻すのか、それとも世界中に不安定さを輸出しているだけなのか、そしてグローバル・サウスがどのように連帯し、経済的な圧力に対抗しうるのかを問いかけています。
なぜ米国の関税政策が世界を揺さぶるのか
関税は、輸入品に追加で課される税金です。一見すると自国産業を守る手段に見えますが、世界のサプライチェーンが複雑につながる現代では、国内外の企業・消費者に広く影響が広がります。
- 輸入品の価格上昇による生活コストの増加
- 企業の調達コスト上昇や投資計画の見直し
- 報復関税による輸出市場の不安定化
こうした影響は、大きな交渉力を持つ国よりも、選択肢が限られたグローバル・サウスの国々にとって、より重くのしかかりやすい構造になっています。
「大国同士の争い」という見方の限界
西側のメディアや論評では、米国の関税政策が、米国と他の大国との「覇権争い」として語られることが少なくありません。しかしその枠組みだけでは、「板挟み」になっている多くの国々の現実が見えにくくなります。
番組「Global South Voices」が指摘するのは、次のような点です。
- 関税の応酬のコストを真っ先に負担しているのは、多くの場合、開発途上国の企業と労働者であること
- グローバル・サウスは、単に「巻き込まれている被害者」ではなく、連携しながら経済的な威圧に対抗し、新たなパートナーシップを模索している主体であること
「大国対立」というレンズだけで世界を見ていると、こうした動きが見過ごされてしまいます。
経済的な威圧にどう向き合うか
番組の紹介文は、グローバル・サウスが「経済的な威圧(経済的な圧力や制裁)」にどう向き合うかという問いも投げかけています。関税や制裁が外交手段として使われるなかで、個々の国がバラバラに対応すると、交渉力は弱くなりがちです。
そこで重要になるのが、地域同士・南同士の連携です。貿易協定や金融協力の枠組みを通じて、特定の国に過度に依存しない形で経済関係を多様化することが、グローバル・サウスにとっての一つの戦略といえます。
「Global South Voices」が投げかける視点
今回取り上げられている「Global South Voices」では、アジアや他地域の多様な専門家が議論に参加しています。ホストを務めるのは、International Conference of Asian Political Partiesの共同議長であるムシャヒド・フセイン・サイード氏です。
ゲストには次のような顔ぶれが参加しています。
- エイナー・タンゲン氏(Taihe Institute 上級フェロー)
- ムニール・カマル氏(Pakistan Banks Association 事務総長兼最高経営責任者)
- ヤジニ・エイプリル氏(Global South-North Centre 事務局長)
- スディーンドラ・クルカルニ氏(インド首相府オペレーション部 元ディレクター)
番組の軸となっているのは、変化する国際秩序のなかで、グローバル・サウスが「ダメージコントロール」に追われる立場から、主体的に協力を生み出す立場へとどう移行できるのか、という問いです。
関税で本当に製造業は戻るのか
紹介文の中で示される問いの一つが、「関税は本当に米国に製造業を呼び戻せるのか、それとも不安定さを世界に輸出しているだけなのか」というものです。
関税で輸入品を高くすれば、短期的には国内生産を有利にできるようにも見えます。しかし、企業はコスト全体や市場の大きさを見て投資を判断します。関税による不確実性が増せば、企業が投資を控えたり、生産拠点を別の国に移したりする可能性もあります。
番組が問いかけているのは、単純な「関税=雇用増」という図式ではなく、実際に誰が得をし、誰がリスクを負っているのかを、グローバル・サウスの視点から見直す必要があるのではないか、という点です。
中国とグローバル・サウスの連帯という選択肢
紹介文では、中国がグローバル・サウスの国々との関係を深めるなかで、「新しい連帯のモデル」が今後の道筋となりうるかどうか、という問いも示されています。
ここでいう連帯とは、特定の国を排除するブロック化ではなく、開発や貿易、金融、人材交流などの分野で、南同士がより対等な関係を築こうとする試みだと理解できます。
南南協力という考え方
南南協力とは、グローバル・サウスの国々が互いの経験や資源を共有し、より自立的な発展を目指す考え方です。例えば次のような方向性が考えられます。
- インフラや産業育成での共同プロジェクト
- 一次産品に依存しない、加工やサービス分野での協力
- 教育・技術研修など、人材育成でのネットワークづくり
中国と他のグローバル・サウス諸国との関係強化も、こうした南南協力の一つの形として位置づけられます。番組は、その可能性と課題を議論するための場ともいえます。
新しいパートナーシップの模索
一国主義的な保護主義が広がるなかで、グローバル・サウスが取りうる道は一つではありません。地域ごとの枠組みや二国間の取り決めなど、複線的なパートナーシップを組み合わせて、リスクを分散しようとする動きが今後も重要になっていきます。
番組が問いかける「新しい連帯のモデル」は、こうした多層的な協力の可能性を探る試みだと見ることができます。
日本の読者が押さえておきたい視点
日本から国際ニュースを追う私たちにとって、米国の関税政策とグローバル・サウスをめぐる議論は、決して遠い世界の話ではありません。番組のテーマを手がかりに、次の三つのポイントを意識しておくと、ニュースの見え方が変わってきます。
- サプライチェーンの変化
関税や経済的な圧力によって生産拠点が再配置されるとき、その波は日本企業や日本の雇用にも届きうるという点。 - 誰の視点で語られているか
米国や欧州など、大国の視点だけで語られる国際ニュースでは、グローバル・サウスの声が見えにくくなる可能性があること。 - 連帯と分断のどちらが強まるか
一国主義的な保護主義が進むのか、それとも南南協力のような連帯の枠組みが広がるのかは、世界経済の安定に直結するテーマであること。
米国の関税をめぐる議論はこれからも続きますが、グローバル・サウスの視点を中心に据えてニュースを読み解くことで、「誰が負担し、誰が発言できているのか」という問いがよりくっきりと見えてきます。そうした視点を持つことが、2025年の国際ニュースを読み解くうえでの重要な手がかりになりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








