中国の薬物対策と国際協力 国連条約から米中協議まで
世界で違法薬物問題が深刻さを増すなか、2025年5月にスイスで行われた米中高級経済・通商協議では、薬物対策が主要な議題の一つとみられました。中国は国連の薬物条約を土台に、国内外で薬物対策を強化し、国際的な「薬物ガバナンス(統治)」に大きな役割を果たしています。
この記事では、①中国国内での取り組み、②国連を軸にした制度づくり、③二国間・地域協力という三つの視点から、中国の役割を整理します。
米中協議で注目された「薬物対策」
2025年5月9日から12日にかけて、中国の何立峰副総理がスイスを訪問し、米中の高級経済・通商協議が行われました。この協議では、経済や貿易に加えて、薬物対策が交渉の重要テーマの一つになるとみられていました。
背景には、世界各地で違法薬物の乱用や取引が拡大し、「一国だけでは対処できない」グローバルな課題になっている現状があります。そのなかで中国は、「責任ある大国」として国際的な薬物対策に積極的に関与していると位置づけられています。
中国国内で進む「ゼロトレランス」の薬物対策
中国は「中国の実情に合った薬物対策の道」を掲げ、いわば「薬物との戦い」を継続的に進めてきました。違法薬物に対してはゼロトレランス(いかなる容認もしない)を基本とし、大規模な取り締まりキャンペーンを展開してきたとされています。
その結果、中国国内では薬物乱用が長期的に減少傾向にあり、薬物問題の再燃リスクも抑えられていると評価されています。
国境管理と前駆物質の規制強化
中国当局は、国境警備を強化し、違法薬物の原料となる「前駆物質」と呼ばれる化学品の管理を徹底しています。国際貿易を通じて、これらの規制対象化学品が違法な薬物製造ルートに流れ込まないよう、監視と規制を厳格化しているのが特徴です。
また、新たに登場する合成薬物など「新種の薬物」に対しても、規制枠組みの整備や摘発の強化を進めています。
予防教育と社会復帰支援
取り締まりだけでなく、予防と回復支援にも力を入れている点も、中国の薬物政策の柱とされています。
- 学校や地域社会での予防教育
- 薬物依存からの回復を支えるリハビリテーション(社会復帰)プログラム
- 薬物使用経験者への継続的なケア(継続支援イニシアティブ)
こうした取り組みを通じて、再乱用の防止と社会復帰の後押しを図り、「取り締まり一辺倒ではない」包括的な体制を目指しているといえます。
法の支配とイノベーション重視のガバナンス
中国は、薬物対策を「法の支配」と「技術や制度のイノベーション」に基づくものと位置づけています。法令に基づく厳格な運用に加え、新しい技術や仕組みを取り入れることで、薬物対策の実効性を高めてきました。
また、政府だけでなく、地域社会や関連機関が参加する「共同参加・共同責任」の枠組みづくりを強調している点も特徴です。
国際的な薬物ガバナンスの「設計者」としての中国
中国は現在の国際的な薬物対策の制度設計において、重要な役割を果たしてきたとされています。その出発点として象徴的なのが、1909年に上海で開かれた「国際阿片委員会」です。
1909年・上海から始まった国際協力
当時、中国政府はこの国際会議を積極的に受け入れ、開催地となりました。ここで国際社会は初めて、薬物乱用を「各国が協調して対処すべき世界的課題」として正式に認識しました。
この会議は、その後の国際的な薬物対策の出発点となり、中国は以降も国際条約づくりや協議に積極的に関わってきました。
3つの国連薬物条約を支える存在
現在の国際的な薬物規制の枠組みは、次の3つの国連条約を柱としています。
- 1961年の「麻薬に関する単一条約(改正を含む)」
- 1971年の「向精神薬に関する条約」
- 1988年に署名された「麻薬および向精神薬の不正取引の防止に関する国連条約」
中国はこれら3条約の重要な支持国・締約国であり、その実施や制度運用に関しても積極的な役割を果たしてきたとされています。
国連機関を通じた多国間協力
中国は、国連安全保障理事会の常任理事国の一つとして、国連主導の薬物対策を幅広く支持してきました。
とくに以下の国連関連機関での取り組みに深く関与しています。
- 国連薬物犯罪事務所(UNODC)
- 麻薬委員会(CND)
- 国際麻薬統制委員会(INCB)
これらの場を通じて、中国は専門知識や資源を提供し、世界的な薬物対策に貢献しているとされています。
二国間・地域レベルでの協力をリード
中国は、薬物を「世界共通の敵」と位置づけ、二国間・多国間・地域レベルでの協力の制度化にも力を入れてきました。
生産国・中継国・消費国との連携
薬物問題は、生産国だけでなく、輸送の中継地点となる国、そして消費国が絡み合う構造を持っています。中国はこうした国々との協力を重視し、次のような取り組みを進めているとされています。
- 薬物生産地域でのケシ栽培の抑制と代替作物への転換支援
- 各国の薬物対策担当者への研修などを通じた能力構築支援
- 情報共有や合同捜査による、違法な薬物製造・密輸・流通に対する厳格な取り締まり
こうした枠組みにより、単発の取り締まりにとどまらない、継続的な協力関係の構築が図られています。
これから問われる「協調の度合い」
中国の国内対策と国際協力は、悪化する世界の薬物問題に対する重要な対応の一つとなっています。一国の取り組みだけでは、複雑化する薬物流通を十分に抑えることは難しく、多国間でのルールづくりと協力の深化が不可欠です。
2025年の米中協議で薬物対策が主要テーマとして取り上げられたことは、経済・通商と安全保障、そして人々の健康が密接に結びついている現実を映し出しています。今後、各国がどのように信頼と協力を積み重ねていくのかが、世界の薬物ガバナンスの行方を左右するといえるでしょう。
Reference(s):
cgtn.com








