中国「新時代の国家安全保障」白書 不確実な世界で示す安全のビジョン
中国国務院新聞弁公室が「新時代の中国の国家安全保障」と題する白書を公表しました。地政学的な緊張や経済の不透明感が続く2025年現在、この国際ニュースは、中国がどのように「安全」と「発展」を結びつけているのかを知る手がかりになります。
不確実性が高まる世界で問われる「安全」
白書はまず、世界の不安定さを指摘します。紛争の長期化で多くの民間人が犠牲になっていること、一国主義や保護主義の動きが経済のグローバル化を逆流させていること、そして気候変動や感染症などの非伝統的な安全保障上の脅威が各国の安全と繁栄を揺さぶっていることを挙げています。
こうした状況を白書は「世界的な安全保障の赤字が拡大している」と整理します。そのうえで、中国は平和的発展の道を歩みつつ、文明の平和的共存を促すことで「不確実な世界に確実性を提供している」と位置づけています。
白書が打ち出す「総合的国家安全観」
今回の白書の中心にあるのが、中国の「総合的国家安全観」です。白書によれば、これは中華人民共和国成立以来、国家安全保障分野で初めて確立された大きな戦略的思考であり、新時代における安全保障政策の指導原則とされています。
- 最終目標は「人民の安全」
- 基本的な任務は「政治の安全」
- 全体を貫く軸として「国家の安全」を位置づける
つまり、伝統的な軍事・外交だけでなく、社会の安定や人々の生活の質までを含めて国家安全保障をとらえる考え方です。白書は、この枠組みに基づいて、ここ数年の取り組みと成果を整理しています。
数字で見る中国の国内安全
殺人発生率・犯罪全体は低水準と強調
白書は、治安分野での成果を詳細な数字で示しています。「平安中国」イニシアチブのもと、中国は犯罪防止の「鉄の壁」を築いてきたと説明し、中国が世界で最も殺人発生率が低く、銃器・爆発物関連事件も少なく、犯罪全体の発生率も低い国の一つだとしています。
具体的には、2024年の殺人発生率は人口10万人当たり0.44件で、2023年の0.46件から低下しました。わずかな差のようにも見えますが、大国規模での改善であることを考えると、治安維持体制の強化が続いていることを示す数字といえます。
生産安全事故と緊急対応能力
治安だけでなく、「生産安全」と呼ばれる工場や建設現場などでの事故防止も重要な焦点です。白書によると、中国では緊急管理能力の向上が進められており、その成果として事故件数の減少が報告されています。
- 全国の生産安全事故件数は2万1800件
- うち重大事故は389件
- いずれも前年比で、事故件数は11%減、重大事故は10.8%減
数字の背景として、白書は、制度整備や監督体制の強化、現場での安全教育の徹底などを通じて、安全管理の水準を引き上げてきたと説明しています。事故をゼロにすることは難しいものの、「減少傾向にある」というメッセージを内外に示す内容になっています。
健康と長寿を含む「広い意味での安全」
今回の白書が特徴的なのは、人々の健康も国家安全保障の重要な一部として位置づけている点です。医療体制、食品・医薬品の安全、感染症対策など、従来は社会政策として語られがちだった領域を、安全保障の枠組みの中で正面から取り上げています。
白書によれば、公衆衛生システムの整備、医薬品の安全性向上、食品事業者への規制強化などの取り組みの結果として、2024年の中国の平均寿命は79歳に達しました。この数字を通じて、白書は「人々の健康を守ることそのものが、安全で安定した社会の基盤である」と強調しています。
中国が示したい「確実性」とは何か
では、中国はこの白書を通じて国際社会にどのようなメッセージを発しているのでしょうか。白書は、世界の安全保障環境が不透明さを増す中で、中国が平和的発展の道を堅持し、文明間の平和的共存を推進することで「不確実な世界に確実性を提供している」と位置づけます。
その根拠として示されているのが、国内の治安指標の改善、生産安全事故の減少、平均寿命の伸びといった具体的なデータです。中国は、自国の安全と安定が、国内の人々だけでなく、経済やサプライチェーンを通じて世界全体の安定にも寄与している、という構図を描こうとしているように見えます。
一方で、国家安全保障の概念を広くとらえ、政治の安定や社会の秩序を重視するアプローチは、各国の価値観や制度との違いも浮かび上がらせます。数字が示す成果とあわせて、その考え方自体をどう評価するかは、今後も国際的な議論の対象になっていきそうです。
読み手にとっての論点
今回の白書は、中国が自らの安全保障モデルをどのように整理し、どの点を世界にアピールしたいのかを知るうえで重要な資料です。特に、
- 安全保障を「軍事」だけでなく、治安・事故防止・公衆衛生まで含めてとらえていること
- 「人民の安全」を最終目標とするという位置づけ
- 具体的な数字を通じて、安定と発展の成果を強調していること
といったポイントは、他の国や地域の安全保障政策と比較する際にも参考になります。
不確実性が高まる世界で、「安全」とは何か、「国家の安全」と「人々の生活の質」をどう結びつけるのか。中国の最新の白書は、その問いに対する一つのモデルを提示していると言えます。読者一人ひとりが、自分の暮らす社会の安全保障のあり方と照らし合わせながら考えてみることが求められています。
Reference(s):
China's national security provides certainty in an uncertain world
cgtn.com







