トランプは本当にガザ危機を解決できるのか 中東歴訪と二国家解決
サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)を歴訪したトランプ米大統領が「非常に成功した」とされる中東の旅を終えてワシントンに戻りました。約2兆ドル規模ともされる米国製航空機や軍事装備の購入約束が話題となる一方で、ガザやヨルダン川西岸で続くパレスチナ市民の犠牲という現実は、なお解決されていません。本稿では、この動きがガザ危機の行方に何を意味するのか、日本語で整理します。
武器とビジネスが前面に立つ「成功した」中東歴訪
今回の中東歴訪は、サウジアラビア、カタール、UAEといったアラブ諸国が、ボーイング機や軍事装備を中心に米国製品を購入する約束を行ったことから、「成功」と位置づけられています。約2兆ドルという規模は、中東と米国の経済・安全保障の結びつきがいかに大きいかを象徴する数字と言えます。
しかし、その「成功」の影には、連日のイスラエル軍の攻撃によってパレスチナ市民が犠牲になっているという、重く暗い現実があります。経済と安全保障の取引がどれほど膨らんでも、ガザ危機の根本的な解決には直結していない、という問題意識がにじみます。
アブラハム合意拡大の呼びかけと、中東の冷静な計算
リヤドでは、トランプ大統領が開催国だけでなくシリアにも、アブラハム合意への参加を呼びかけたとされています。アブラハム合意とは、2020年にイスラエルとUAEなど複数のアラブ諸国が結んだ、関係正常化のための二国間の合意です。米国にとっては、イスラエルとアラブ諸国の架け橋を広げる戦略的な枠組みと位置づけられています。
一方で、ガザとヨルダン川西岸への攻撃が続くなか、新たにアブラハム合意に加わるアラブ諸国がどれほど出てくるのかについては、極めて懐疑的な見方が示されています。パレスチナ国家の必要性は、数十年にわたりアラブの指導者たちの最重要課題の一つであり、その問題が放置されたままでの「正常化」は、国内世論の理解を得にくいからです。
表向きの外交儀礼とは別に、「パレスチナ問題を脇に置いたまま関係正常化を進めることは難しい」という冷静な計算が、中東の首都ごとに働いていると考えられます。
二国家解決という建前と、ガザ「リビエラ構想」が突きつける違和感
イスラエルをユダヤ人の国家として、パレスチナをパレスチナ人の国家としてそれぞれ樹立する「二国家解決」は、長年にわたり米国の公式な対中東政策とされてきました。この枠組みは、国際社会でも広く共有されてきた基本線でもあります。
ところが、トランプ大統領が最近示したとされるガザへの構想は、この基本線を揺るがしかねない内容として受け止められました。それは、ガザを「地中海のリビエラ」のような場所に変え、海岸沿いに高級マンションを並べるというビジョンです。
一見すると「経済開発」「リゾート化」として前向きに聞こえる案ですが、エジプトやヨルダンをはじめとするアラブ諸国は、これをパレスチナ人を故郷から追い出す試みなのではないか、と強く警戒したとされています。華やかな開発構想の裏で、「誰がそこからいなくなるのか」という視点が抜け落ちているのではないか、という疑念です。
二国家解決を本気で追求するのであれば、パレスチナ人が自らの土地で尊厳を持って暮らし続けられることが前提となります。その前提を危うくするように見える構想が出てくること自体、政策の方向性に対する不信を高める要因となりかねません。
ガザ危機を本当に「解決」するために必要な視点
では、トランプ政権が掲げる中東政策は、ガザ危機を本当の意味で解決に導くことができるのでしょうか。今回の中東歴訪や発言から浮かび上がるのは、少なくとも次のような論点です。
- 軍事行動の抑制と市民保護を最優先にする発想
連日の攻撃でパレスチナ市民が犠牲になっている状況では、いかなる経済協力や外交合意も、現地の人々にとっては空疎に響きかねません。まずは市民の安全が確保される状況づくりが、信頼回復のスタートラインとなります。 - 二国家解決に向けた具体的な道筋づくり
「二国家解決」を掲げるだけではなく、国境や安全保障、資源配分などの難題に対して、どのようなステップで合意形成を進めるのかというロードマップが問われます。ガザやヨルダン川西岸の現状を踏まえた、現実的で段階的な計画が必要です。 - パレスチナ人の居住権・帰還権への信頼の回復
ガザの「リビエラ構想」のように、土地開発の名のもとに人々が居場所を失う可能性があると受け止められれば、パレスチナ側の不信はさらに深まります。「この土地に住み続けられる」という基本的な安心感が、いかなる政治的解決の前提にもなります。 - 経済支援と政治的解決のバランス
2兆ドル規模の取引は、中東諸国にとっても魅力的な提案です。しかし、経済や軍事の取引が、パレスチナ問題の棚上げと交換条件になってしまえば、長期的な安定は望めません。ビジネスと政治的解決をどう切り離し、同時に前進させるかが鍵となります。
日本の読者にとっての意味──「華やかな合意」の裏側を見る
今回の動きは、日本から見ても他人事ではありません。中東情勢はエネルギー安全保障や世界経済に直結し、ガザ危機の長期化は国際社会全体の不安定要因となり得るからです。
サウジアラビアなどとの巨額の取引や、アブラハム合意の拡大といった「見えやすいニュース」は注目を集めますが、その裏側でパレスチナ市民の生活や尊厳がどう扱われているのかを見ていくことが、これからの国際ニュースの読み方として重要になってきます。
トランプ大統領の中東歴訪とガザをめぐる構想は、「ガザ危機の解決」とは何かを改めて問い直すきっかけを与えています。華やかな投資や開発計画だけではなく、現地の人々の安全と権利が本当に守られるのか──その視点を持ち続けることが、私たちが国際ニュースを読み解くうえでの出発点と言えるでしょう。
Reference(s):
cgtn.com







