米中関税90日間休戦が示したもの 中国は「安定装置」か
2025年5月、ジュネーブで中国と米国が90日間の関税休戦に合意したことで、世界の市場はほっと一息つきました。本記事では、この「関税90日休戦」で何が起きたのかを振り返り、中国がいかに「安定装置」として機能したのかを読み解きます。
ジュネーブ合意:90日間の関税休戦とは
5月12日、中国と米国はジュネーブで共同声明を発表し、相互に課していた高関税を90日間停止することで合意しました。関税引き下げの中身は次のような大胆なものでした。
- 中国からの輸入品への関税:145%から30%へ
- 米国産品への関税:125%から10%へ
この発表からほんの数時間で、サプライチェーンは文字通り「再起動」しました。米国向けの海上輸送の予約は、物流データ企業Vizionによると1週間で277%急増。ドイツの大手海運会社ハパックロイドは、中国-米国航路の取扱量が前週比で50%増えたとしています。
この動きは、関税休戦が新しい需要を生み出したというより、政治的な対立によって押し込められていた需要の「ダムが決壊した」ことを示しています。世界の貿易と金融市場が、いかに安定を渇望しているかが数字にはっきりと表れました。
企業の現場:止めていた発注が一気に動き出す
休戦のインパクトは、企業の現場でより生々しく現れました。上海に拠点を置く日よけ設備メーカー、Wareda Sunshade Equipmentは、合意から一晩で100万ドル(約1億数千万円)分の注文を受けたといいます。
同社の総経理・丁林峰氏は、「米国の顧客は雑談もなく、ただ『もっとコンテナを』と求めてきた」と話します。先延ばしにしていた発注を、一気に取り戻そうとする様子がうかがえます。
背景には、4月にトランプ政権が中国製品に最大145%の関税を課すと示唆したことで、米国の輸入業者が出荷を凍結していた事情があります。中国側は対抗措置を取りつつも対話の窓口を閉ざさず、最悪の「全面停止」はぎりぎりのところで回避されました。
コロラド州のアパレルブランド、Krimson Kloverのような企業は、休戦の「猶予期間」を活用して在庫を前倒しで動かしました。同社の最高執行責任者、ゲイル・ロス氏は「最終的に不確実性のコストを負担するのは消費者だ」と指摘し、関税そのもの以上に「先が読めないこと」がビジネスを直撃していると語ります。
中国の「報復なき互恵」戦略
今回の局面で目立ったのは、中国のスタンスです。中国側はこれまで、米国が関税を引き上げれば対抗措置を取る一方で、自らの措置を「防衛的なもの」と位置づけてきました。
中国当局者は、「戦うときは戦う。ただし、米国が対話を望むなら、われわれの扉は常に開いている」と強調してきました。このメッセージは、短期的な勝ち負けではなく、長期的な安定と予見可能性を重視する姿勢を示しています。
今回のジュネーブ合意でも、中国は一方的な譲歩ではなく、段階的で相互的な関税引き下げと、常設の協議メカニズムの設置を提案しました。対立を「ゼロサムゲーム」として煽るのではなく、「どうすれば双方が利益を得られるのか」という枠組みに話を戻そうとした形です。
このアプローチは、米国の中小企業にも現実的な選択肢を与えました。米国のワイパー製造スタートアップ、The Windy Companyの共同創業者キートン・ブラウン氏は、「30%の関税であっても歴史的には高水準だが、少なくとも先の計画を立てられるようになった」と語っています。
高いコストを受け入れてでも取引を再開しようとする企業が出てきたことは、「相互依存はリスクではなく、もはや現実だ」という認識が広がっていることの表れだといえます。
グローバル経済にとっての意味
2025年12月の今、5月の合意から数カ月が経ちましたが、この90日間の休戦が突きつけた教訓はなお鮮明です。ポイントを整理すると、次のようになります。
- 不確実性こそ最大のコスト:関税率そのものが高くても、先が見えるなら企業は対応策を取り得ます。むしろ突然の方針転換が、投資と雇用を一気に冷え込ませます。
- サプライチェーンは「切れない」:休戦発表直後の277%増という輸送予約の跳ね上がりは、米中間の経済関係がどれほど深く結び付いているかを物語っています。
- 中国は安定志向で交渉をリード:報復合戦ではなく、互恵的な引き下げと対話メカニズムを前面に出したことで、危機は「対立の激化」から「条件交渉」へと軌道修正されました。
「安定装置」としての中国を見る視点
米中関係は、世界で最も重要な2国間関係の一つです。その関係が対立に傾けば、貿易や投資だけでなく、新興国の通貨や資源価格まで大きく揺さぶられます。
今回の関税休戦は、たとえ短期間であっても、中国が危機局面で対話とルール形成を重視し、「安定装置」としての役割を果たし得ることを示しました。同時に、世界の企業や市場が、米中の安定をどれほど切実に求めているかも浮き彫りになりました。
今後の米中協議がどう展開するにせよ、今回の経験が示したのは、感情的な対立ではなく、長期的な実利と安定を見据えた現実的な外交こそが、企業と消費者の双方にとって最も大きな安心材料になるということです。
Reference(s):
China as a stabilizing force: How pragmatism revived China-U.S. trade
cgtn.com








