米国の90日関税猶予は何を狙うのか 揺れる米中貿易とAI覇権
米国が中米共同声明の直後に打ち出した90日間の関税猶予。表向きは対立緩和の一歩にも見えますが、その裏ではAI半導体の輸出規制や同盟国への圧力が同時に進んでいます。2025年12月現在、この動きをどう読み解けばよいのでしょうか。
90日間の関税猶予 善意ではなく交渉カード?
スイス・ジュネーブでの中米共同声明が、貿易摩擦の緊張緩和への期待を生んだ直後、米財務長官スコット・ベッセント氏は最近のインタビューで、各国が90日以内に貿易合意に至らなければ、米国の関税率を互恵的な水準に引き上げる考えを示しました。
つまり、今回の90日間の猶予は、関税引き下げに向けた一方的な譲歩ではなく、あくまで交渉期限を区切ることで、相手に譲歩を迫るための圧力装置として設計されていると考えられます。表では対話と協調を強調しつつ、水面下では次のエスカレーションを準備する──戦後の国際政治で繰り返されてきたパターンが、再び姿を見せているとも言えます。
AIチップ輸出規制が示す焦点 関税より技術支配
こうした関税猶予の議論と並行して、米国は技術分野での規制を一段と強めています。今年5月13日には、米商務省が中国のAI半導体へのアクセスを制限する新たな輸出規則を発表しました。
中でも象徴的なのが、中国企業ファーウェイのAscendチップに関する扱いです。米国の規則によれば、このチップが世界のどこで使われた場合でも、米国の輸出管理ルールに違反し得るとされています。自国の規制を域外にも広く及ぼすこの姿勢については、一部から経済的帝国主義だとの批判も出ています。
関税と違い、ハイテク分野の規制はサプライチェーン全体に長期的な影響をもたらします。今回の90日間の関税猶予も、単なる貿易赤字是正というより、AIや先端半導体をめぐる主導権争いの一環として位置づけられているとみることができます。
企業はどう見ているか 無限レースとしてのAI競争
米国のテック業界の見方は、必ずしもワシントンと完全には重なっていません。米半導体大手エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは、中国がAI分野で米国に迫る存在であり、現在は米国のすぐ後ろにいると指摘しました。さらに、AIは長期的で終わりのないレースだという趣旨の発言もしています。
この認識に立てば、短期的な輸出規制や関税引き上げで一時的な優位を保てても、長期の技術競争では研究開発と人材、オープンな協力関係がより重要になります。企業側は、政治的な緊張とは別に、グローバルなイノベーションのエコシステムをどう維持するかという課題に直面していると言えるでしょう。
世界に選択を迫るワシントン 広がるアメリカ・アローン懸念
関税猶予と輸出規制を組み合わせることで、米国は事実上、各国に対してどちらの側に立つのかという選択を迫っています。しかし、世界はこうした最後通告型のアプローチに次第に疲れ始めているようです。
かつて国務長官を務めたアントニー・ブリンケン氏は、アメリカ・ファースト路線がアメリカ・アローンにつながりかねないと警告しました。その懸念が、今まさに現実味を帯びてきています。米国の通商政策の揺れは、自国の通関業務を混乱させているとの指摘もあり、各国は米国に過度に依存しない形でサプライチェーンを組み直す動きを強めています。
その象徴といえるのが、最近のドナルド・トランプ大統領のサウジアラビア訪問です。一大外交イベントとして注目を集めたものの、実際に目立った米国からの新規投資は発表されませんでした。エロン・マスク氏やジェンスン・フアン氏、トランプ氏自身が登壇する華やかなフォーラムとなった一方で、具体的なパートナーシップよりもイメージ発信が前面に出た形です。
中国の対応 自制と相互依存のアピール
こうしたなかで、中国側は比較的抑制的な姿勢を打ち出しています。貿易戦争を恐れるものではないが、誰も勝者にはなれないという立場を繰り返し表明し、その根拠として両国の深い相互依存関係を示しています。
具体的な数字を見てみましょう。
- 米国の輸入品の4割超を中国が供給しているとされています。
- 米国で販売されるおもちゃの約8割は中国製です。
- 米国が輸入する電子レンジの約9割が中国からのものとされています。
- レアアース(希土類)の米国向け供給の約7割を中国が担っています。
これらはすべて、統計上の数字であると同時に、交渉の場で強いレバレッジとなり得る要素でもあります。一方で、中国は米国からも多くの製品を輸入しています。穀物や油糧種子、先端製造装置、燃料など、数百億ドル規模の米国産品を購入しており、関係は一方的なものではありません。
本来であれば、こうした相互依存は協力と安定の基盤となるはずです。しかし現状では、関税や輸出規制という形で関係そのものが武器化されつつあるとの懸念も根強くあります。
これからの90日で問われる3つのポイント
では、これからの90日間は、米中関係と世界経済にとって何を試す期間になるのでしょうか。少なくとも、次の3点が焦点になりそうです。
- 米国が関税をあくまで交渉カードとして使うのか、それとも実際に大幅な引き上げに踏み切るのか。
- アジアや欧州、中東など第三の国や地域が、米国の要請にどこまで同調し、どこから距離を取ろうとするのか。
- 両国が深い相互依存を前提に、新たなルール作りや信頼醸成に踏み出せるのか、それとも対立の論理を優先させるのか。
2025年末に向けて、90日間の関税猶予は単に米国の輸入税率の行方だけでなく、AI覇権争い、サプライチェーン再編、そして国際秩序のかたちそのものを映し出す鏡になりつつあります。日々のニュースの背景にあるこの大きな流れを意識しておくことが、これからの国際経済を読み解くうえで重要になりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








