米国ゴールデンドーム構想 宇宙ミサイル防衛は抑止強化か不安定化か
2025年5月20日(現地時間)、米国のトランプ大統領が、総額1750億ドル規模の宇宙配備型ミサイル防衛システム「ゴールデンドーム」の設計を正式に選定しました。米本土防衛の「革命的な飛躍」とされる一方で、核抑止と宇宙安全保障のバランスを崩しかねないとの懸念も強まっています。本稿では、その仕組みと国際秩序への影響を整理します。
ゴールデンドームとは何か 数百基の衛星で作る多層防衛
ゴールデンドーム構想は、米国が初めて宇宙空間に本格的な兵器システムを配備する計画です。数百基の衛星を地球の周回軌道に投入し、宇宙から飛来する弾道ミサイルや巡航ミサイルを探知・追尾し、迎撃する多層的な防衛網をつくるとされています。
具体的には、地球低軌道に配備された衛星群が、センサーで発射の兆候をいち早く察知し、宇宙空間に置かれた迎撃体が相手機のミサイルを飛行中に破壊する構想です。米政府は、こうした宇宙ベースのセンサーと迎撃体を組み合わせることで、従来よりも広い範囲と高度で脅威に対処できると説明しています。
総額1750億ドルという巨額投資が見込まれるこの計画は、米国のミサイル防衛の中でも、過去にない規模と野心を持つプロジェクトといえます。
レーガン構想から続く米ミサイル防衛の流れ
ミサイル防衛の発想自体は目新しいものではありません。1980年代のレーガン政権による戦略防衛構想(SDI)、1990年代のクリントン政権による戦域ミサイル防衛、そしてブッシュ政権が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)条約から離脱した経緯など、米国は長年にわたってバリエーションの異なる防衛構想を追求してきました。
しかし、ゴールデンドームは、単に国内を守るためのシステムにとどまらず、地球規模で相手国のミサイル軌道をカバーしようとする、より拡張的なビジョンを掲げています。計画が発表されたタイミングも含め、従来とは質の異なる転換点だと受け止められています。
盾か、剣か 核抑止の前提を揺るがす可能性
米政府は、ゴールデンドームをあくまで防御的な盾だと強調しています。一方で、多くの観測筋は、このシステムが相手の報復能力を弱める「剣」として働きかねないと警戒しています。
核抑止の安定は、お互いに「第2撃」と呼ばれる報復能力を持ち、相手も自分も壊滅的な被害を受けるという「相互の脆弱性」が前提になってきました。もし一方が、相手の報復ミサイルを大部分無力化できると信じるほど強力な防衛システムを持てば、「先に攻撃しても自分は守れる」という計算が働きやすくなります。
その結果、抑止の安定よりも、危機時に先制的な行動を促すインセンティブが強まり、かえって不安定化を招くのではないか――これが、ゴールデンドームに向けられる最も根本的な懸念です。
宇宙空間の軍事化と新たな軍拡競争
今回の構想がとりわけ重く受け止められている理由は、宇宙空間を明確に軍事利用する点にあります。これまで宇宙は、平和利用と科学目的を重視するという脆弱なコンセンサスによって支えられてきました。
ゴールデンドームのように、敵の衛星やミサイルを探知・妨害・破壊することを前提にしたシステムが広がれば、他国も自国の宇宙資産を守るために、対衛星兵器や妨害手段など「対宇宙能力」の開発を進めざるを得なくなります。
その結果、宇宙を舞台にした軍備競争が加速し、地上からは見えにくく、透明性や説明責任を欠いた、より不安定な対立の場が広がるおそれがあります。
一国主義への不信 同盟国と国際機関の役割
ゴールデンドームは、同盟国や他の主要国との十分な協議を経ずに打ち出されたとされています。この一方的な進め方は、これまで軍備管理を支えてきた協調的な枠組みが揺らいでいる象徴だと見る向きもあります。
中国やロシアは、この計画が戦略的安定を損ない、宇宙の軍事化を加速させると懸念を表明しています。米国の同盟国の中にも、望まぬ軍拡競争に巻き込まれるのではないかと不安視する声があります。
また、国連やジュネーブ軍縮会議(Conference on Disarmament)といった多国間の場が十分に活用されていないことも、国際秩序の規範を弱めるのではないかという議論を呼んでいます。宇宙空間の利用ルールづくりをどのように再構築するのかが問われています。
技術的なハードルと「安全神話」の危うさ
もう一つの論点は、技術的な実現性です。長年の投資にもかかわらず、ミサイル防衛は依然として不確実性の高い分野だとされています。
ミサイルを空中で撃ち落とすには、発射から着弾までの短い時間の中で正確に探知・追尾し、迎撃体をぶつける必要があります。もし相手が高機動の極超音速兵器や多数のデコイ(おとり)を用いれば、識別と迎撃の難易度はさらに上がります。
たとえ限定的な防御しか実現できなくても、「自国はほぼ守られている」という心理的な安心感を与えてしまう可能性があります。そのような過信が、危機の際にリスクの高い決定や、エスカレーションを招きかねない点も警告されています。
私たちはどう考えるか 3つの問い
ゴールデンドーム構想をめぐる議論は、単なる米国の軍事政策にとどまらず、宇宙のあり方や核抑止の将来像をめぐる根源的な問いを投げかけています。読者の皆さんは、次のような観点から考えを深めてみてはいかがでしょうか。
- 宇宙空間は、どこまで軍事利用を認めるべきなのか。
- ミサイル防衛が進むことで、核軍縮や軍備管理の議論はどう変わるのか。
- 一国の安全保障が他国の不安を高めるとき、どのような対話やルールづくりが必要なのか。
安全保障政策に絶対の正解はありませんが、宇宙と核抑止という長期的なテーマだからこそ、短期的な安全だけでなく、国際社会全体の安定や信頼の構築という視点から議論を続けることが求められています。
Reference(s):
U.S. 'Golden Dome': A glimmering shield or a blow to global stability?
cgtn.com








