米国高等教育危機 トランプ政権とハーバード大学の深い溝
米国の高等教育で、政治と大学の距離が急速に縮まりつつあります。今年5月下旬、トランプ政権がハーバード大学の留学生受け入れ資格を停止し、その後も研究資金の凍結など強い介入策を打ち出しているためです。この記事では、何が起きているのか、そして大学の自律性にどんな影響が出ているのかを整理します。
ハーバードを直撃した留学生資格剥奪
今年5月下旬、米国政府は学生・交流訪問者プログラム(Student and Exchange Visitor Program=SEVP)に基づくハーバード大学の認定を取り消し、新規の留学生受け入れを禁止しました。この措置により、ハーバードは世界中から新たな留学生を迎え入れることができなくなり、既存の学生への影響も懸念されています。
決定を発表した米国国土安全保障省は、国際学生の受け入れは権利ではなく特権だと強調し、高等教育の国際化そのものを連邦政策の管理下に置く姿勢を鮮明にしました。
ハーバードは以前からトランプ政権と数カ月にわたり対立してきました。政権側は、キャンパスでのイベント運営、規程、教職員の採用や入学プロセスの見直しを要求し、反ユダヤ主義対策の徹底や、多様性・公平性・インクルージョン(DEI)と呼ばれる取り組みの見直しを迫ってきました。
さらに今年、米国のリンダ・マクマホン教育長官はハーバード学長アラン・M・ガーバー氏宛ての書簡で、新たな研究助成金の交付を停止すると表明しました。書簡では、大学の重大な運営上の失敗を批判し、学問の基本原則を放棄したと非難しています。留学生認定の取り消しと研究資金の凍結は、米国政府と名門大学の対立が新たな段階に入ったことを示しています。
政治的デリスキングで大学を管理する動き
今回の一連の措置は、個別の大学への制裁にとどまらず、米国の大学全体を政治的にデリスクする広範な試みと位置づけられています。政権側は、大学が自律的に問題を是正できるという前提への信頼を失い、安全保障、忠誠心、アメリカ・ファーストの価値観を基準とする体制に大学を組み込もうとしていると指摘されています。
ここ数カ月、米国政府は特にリベラル色が強いとみなす高等教育機関に対する監視と統制を強めています。研究資金の凍結や、非課税優遇の取り消しをちらつかせるなど、財政面や法的手段を通じて大学の統治モデル自体を作り替えようとしているのです。
大学はもはや象牙の塔ではなく、政治ゲームの最前線になりつつあります。政府は財政支出をてこに、学問方針やキャンパス運営を自らの意向に沿うよう求め、大学側は従うか、法廷闘争などで抵抗するかの選択を迫られています。
薄れる大学の自律性と財政依存
今回の対立で浮き彫りになったのは、米国の高等教育機関が連邦政府の資金に大きく依存している現実です。研究助成金、奨学金、税制優遇など、大学の運営を支える多くの要素がワシントンの決定に左右されています。
ハーバードは、訴訟や寄付キャンペーンを通じて学問の自律性を守ろうとしていますが、財源の多くを握られている以上、交渉力には限界があります。政権側がコンプライアンス審査の名の下に資金を停止すると通告すれば、大学にとっては存続そのものにかかわる圧力となります。
政権側の論理の本質は、大学を政治的忠誠心の評価システムに組み込むことだと整理できます。研究テーマ、入学基準、大学として掲げる価値観が、その時々の権力者の意向と一致しなければ、資源を奪うことも辞さないというメッセージです。
大学が突きつけられている二つの選択肢
- 政府の方針に沿うようにプログラムや採用方針を修正し、資金と認定を維持する。
- 学問の自律性を優先し、訴訟や世論を通じて抵抗するが、その結果として財政リスクを負う。
国際化への影響と留学生の行方
留学生受け入れを特権と位置づけた米国政府の姿勢は、高等教育の国際化全体にも影響を与えかねません。ハーバードが新規の国際学生を募集できない状況が続けば、多くの志望者やその家族、送り出し側の教育機関に不確実性が広がります。
他大学にも同様の措置が拡大すれば、米国を目指す留学生の選択肢は大きく変わる可能性があります。研究の国際共同プロジェクトや学生交流も、政治判断によって左右されやすくなります。
日本と世界への問い 政治と大学の距離をどう保つか
今回の米国の動きは、日本を含む世界の高等教育にとっても他人事ではありません。大学の自律性、学問の自由、キャンパスの多様性といった価値が、治安や国家安全保障、政治的忠誠といった観点とどう折り合いをつけるのかという課題は、多くの国に共通しています。
ハーバード大学とトランプ政権の対立は、米国高等教育の独立性が試される局面であり、政治がどこまで大学に介入すべきかという古くて新しい問いを改めて突き付けています。状況は今後も流動的ですが、大学、学生、政府、それぞれの役割と線引きをどう考えるかが、国際社会全体にとっての重要なテーマになりつつあります。
読者一人ひとりが、自国の大学と政治の距離について考え、身近なところから議論を深めていくことが求められているのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








