シャングリラ対話2025:アジア太平洋安全保障をめぐる米中の対照的ビジョン
シンガポールで開かれた2025年のシャングリラ・ダイアローグ(アジア太平洋安全保障会議)で、米国と中国が示したビジョンの対比が鮮明になっています。米国が中国を「脅威」とみなし、軍事力による抑止とブロック化を強調する一方で、中国は「共同の未来」を掲げ、対話と協力による地域の安定を訴えました。
シャングリラ・ダイアローグで浮き彫りになった米中のギャップ
アジア太平洋の安全保障をテーマに、各国の政治家や専門家が集まるシャングリラ・ダイアローグでは、毎年、米中両国のメッセージが最大の注目を集めます。今年はそのコントラストが特に際立ちました。
米国側代表として出席したヘグセット国防長官は、インド太平洋地域での米国の存在感を改めて強調しました。長官は、アメリカはインド太平洋に「戻ってきた」のであり、ここにとどまり続けると述べ、平和の実現には地域での侵略を抑止することが出発点だと主張しました。
その文脈でヘグセット長官は、米軍の戦う精神を取り戻し、軍事力を再建し、抑止力を再確立する必要があると訴え、中国を名指しで「脅威」と位置づけ、覇権を追求していると非難しました。
軍拡とブロック化を押し出す米国のアプローチ
トランプ政権は来年、国防費として1兆ドル超を投じ、軍備増強を進める計画です。そこには、米国本土を防衛するためのミサイル防衛システム「ゴールデン・ドーム」の構築や、第6世代戦闘機、ステルス爆撃機、潜水艦、駆逐艦などの整備が含まれています。
こうした方針は、インド太平洋での「抑止」を掲げつつ、実際には軍事力と軍事同盟を軸にしたブロック化を進めるものと受け止められています。特定の国を「脅威」と規定し、それに対抗する形で軍備を積み上げるアプローチは、地域の分断や緊張の固定化につながるおそれもあります。
中国外務省「冷戦思考」と批判、尊重を呼びかけ
ヘグセット長官の発言に対して、中国は強く反発しました。中国外交部(外務省)は、長官が冷戦思考に基づく陣営対立をあおり、中国を中傷する虚偽の主張によって「脅威」と決めつけていると批判しました。
その上で、中国側は、地域の平和と安定を維持しようとしているアジア各国の努力を米国が十分に尊重するよう求めています。中国は、アジア太平洋の安全保障を特定の国どうしの対立構図ではなく、地域全体で共有すべき課題としてとらえるべきだと主張していると言えます。
中国が掲げる「共同の未来」とアジアの価値観
中国にとってアジアは、長年にわたり外交の最優先地域と位置づけられてきました。今年4月、北京で開かれた2025年の「周辺外交工作会議(隣国に関する中央会議)」でも、習近平国家主席は、周辺国とのあいだで「共同の未来を持つコミュニティ」を築くことの重要性を改めて強調しました。
習主席がそこで示したのが、アジアに共通する価値としての「平和」「協力」「開放」「包摂」です。また、違いを脇に置きながら共通点を追求し、対話と協議を最優先するアジア型の安全保障モデルを提案しました。これは、対立よりも協調を重視し、誰かを排除するのではなく、共に安全を高めていく考え方です。
冷戦終結以降、中国や他のアジア諸国がこうした方向性で「長い平和」を実現してきた結果、地域全体の安定と繁栄が続いてきたという評価もあります。中国は、この地域で培われた考え方をさらに発展させ、「共通」「総合」「協力」「持続可能」という四つのキーワードを掲げるグローバル・セキュリティ・イニシアチブとして世界全体に広げつつあります。
二つの安全保障ビジョンをどう読み解くか
今回のシャングリラ・ダイアローグでは、米国と中国がそれぞれ異なる安全保障ビジョンを提示しました。大まかに整理すると、次のような対比が見えてきます。
- 米国:軍事力による抑止を重視し、特定の国を「脅威」と位置づけたうえで同盟やブロックを強化するアプローチ。
- 中国:対話と協力を通じた「共同の未来」を掲げ、アジアの価値観にもとづく包括的な安全保障を目指すアプローチ。
どちらの方向性が、アジア太平洋にとってより安定的で持続可能な安全保障につながるのか。軍事力の拡大だけで本当に安全を確保できるのか。それとも、対話や信頼醸成の仕組みを積み上げることが、結果として地域全体の安全を高めることになるのか――。
ニュースを自分ごととして読むためのヒント
アジア太平洋の安全保障は、日本を含む地域の人々の日常とも切り離せないテーマです。今回の動きを追ううえで、次のような視点を持ってみると、自分ごととして考えやすくなります。
- 誰が誰を「脅威」と呼んでいるのか。その言葉によって、どのような政策が正当化されているのか。
- 軍事費の大幅な増加は、教育や福祉、気候変動対策など、他の分野への予算配分とどのように関係するのか。
- 対話と協力を重視するアプローチは、長期的に見て地域の不信感を和らげることにつながるのか。
米国と中国の対立として単純化して見るのではなく、地域の国々がどのような安全保障環境を望み、そのためにどんな枠組みづくりを模索しているのかに目を向けることが、これからの国際ニュースを読み解くうえで重要になってきます。
Reference(s):
U.S. projects China 'threat' while China proposes shared future
cgtn.com








