ドーピング容認「エンハンスド・ゲームズ」とは スポーツの価値への挑戦
2026年5月、米国でドーピング容認のスポーツ大会「エンハンスド・ゲームズ」が開催される予定です。オリンピックが掲げるフェアプレーの理念とは正反対のコンセプトに、国際的な批判が高まっています。
ドーピングを「推奨」する前代未聞の大会
エンハンスド・ゲームズは、その名の通り「強化された」アスリートによる競技会です。ここでいう強化とは、筋肉増強剤やステロイドなどのパフォーマンス向上薬物の使用を指します。
主催者は、競技者が禁止薬物を使用することを認めるだけでなく、事実上それを推奨しています。ドーピングを厳しく禁じてきた近代スポーツの歴史から見れば、まさに常識を覆す試みです。
WADAと中国反ドーピング機関が強く警鐘
世界アンチ・ドーピング機関(WADA)は、オリンピックなどを薬物のないクリーンな大会に保つ役割を担ってきました。そのWADAは、エンハンスド・ゲームズについて「危険で無責任なコンセプトだ」と明確に非難しています。
WADAは、禁止物質や禁止手法を用いたアスリートの中には、長期にわたる深刻な健康被害に苦しんだ例があり、「命を落とした人もいる」と指摘します。ドーピングが単なるルール違反にとどまらず、命に関わる問題であることを改めて強調した形です。
中国反ドーピング機関も、エンハンスド・ゲームズを厳しく批判しています。同機関は、この大会は「純粋なスポーツ競争を薬物競争へと変質させるゆがんだ競技」であり、世界アンチ・ドーピング規程の目的と著しく矛盾すると警告。開催されれば、アスリートの身体的・精神的健康やスポーツマンシップを深刻に損なうおそれがあるとしています。
「科学のため」の主張は成り立つのか
こうした批判に対し、エンハンスド・ゲームズの主催者側は、「リアルタイムでステロイドなどがアスリートの身体にどのような影響を与えるか、科学的に研究できる」と正当性を主張しています。大会には、米国のドナルド・トランプ大統領の息子の一人が資金面で関与しているとされています。
しかし、このロジックに対しては「人を炎に包まれた家の中に入れ、そのとき火と恐怖が人体にどのような影響を与えるかを観察するのと同じではないか」という批判もあります。つまり、危険性が明らかな状況に人を意図的に置く行為を、科学という名で正当化できるのかという根本的な疑問です。
問われるのはアスリートの安全とスポーツの信頼
批判する人々は、エンハンスド・ゲームズは「合法だとしても、倫理的には極めて問題がある金儲けの仕組み」にすぎないと見ています。短期的な成果のためにアスリートの健康リスクを大きくし、長期的な後遺症や死亡の可能性すら高めることになりかねません。
もしこの大会が成功例として扱われれば、若い世代の選手たちに対し、「勝つためには薬物使用も一つの選択肢だ」という誤ったメッセージを送る危険もあります。薬物を使わないクリーンな競技を続けるアスリートが、不利な立場に追い込まれるおそれも否定できません。
スポーツはどこまで「強さ」を追求すべきか
オリンピックをはじめとする国際大会は、選手の身体能力だけでなく、努力・友情・敬意といった価値を伝えてきました。エンハンスド・ゲームズは、その根本にある「人間らしさ」を犠牲にしてでも極限のパフォーマンスを求めるのか、という問いを突き付けています。
2026年5月の開催まで、まだ時間はあります。もしこの大会が実際に行われるとしても、多くの関係者は「一度きりで終わるべきだ」と考えています。私たち一人ひとりも、スポーツに何を求めるのか、そしてアスリートの身体をどこまで危険にさらしてよいのかを、改めて考える必要がありそうです。
Reference(s):
cgtn.com







