ジュネーブで歴史的転機へ:プラスチック汚染と闘う国際条約は実現するか
各国政府がジュネーブで、プラスチック汚染と闘うための法的拘束力のある国際条約の策定を目指しています。条約づくりの行方は、今後数十年の環境と私たちの健康を左右する「歴史的瞬間」になりつつあります。
世界が注目する「プラスチック汚染」国際条約
ジュネーブでは、川や沿岸域、海洋を含むプラスチック汚染と闘うための、世界初の本格的な国際条約づくりが進んでいます。この条約は、法的拘束力を持つグローバルな枠組みとして各国政府が合意を目指しているものです。
背景には、世界の世論の強い後押しがあります。世界の10人のうち9人がプラスチック汚染への対策を望み、何千もの企業や金融機関も条約の実現を求めています。
しかし、世界的な合意を要する高い利害が絡んだ交渉は、決して容易ではありません。元国連事務総長であり、二期にわたり国連を率いた潘基文(バン・キムン)氏は、今回の条約交渉を「歴史的な合意になりうるが、成立させるのは簡単ではない」と指摘します。
合意を左右するのは、細部と多様な価値観
交渉の現場では、各国が一つ一つの文言や数字を綿密に読み込みます。経済への影響、最新の科学的知見、利用可能な技術、そして国ごとに異なる社会的・文化的な背景——こうした要素が絡み合い、条約の中身を「強いもの」にも「弱いもの」にも変えてしまう可能性があるからです。
各国が置かれた経済状況や社会の受け止め方は大きく異なります。そのため、どこまで規制を強めるのか、移行の負担をどう分かち合うのかといった点で利害がぶつかり、歴史的な合意が形になるのか、それとも骨抜きに終わるのかが決まっていきます。
交渉の外にいる私たちにできること
とはいえ、交渉の場に入っているのは政府関係者だけではありません。潘基文氏は、国連事務総長としての経験から「どんな壁も市民の声を完全には遮れない」と強調します。数百万人、数億人規模の声が集まれば、どの政府も無視し続けることはできない、という実感に基づく言葉です。
プラスチック汚染は「社会の一部」ではなく「社会全体」の問題です。だからこそ、解決にも社会全体の参加が必要になります。世界環境デー(6月5日)をはじめとする機会には、政策決定者、市民社会、企業、金融機関、科学者、若者、メディアなど、あらゆる主体が連携し、「今こそプラスチック汚染を終わらせる時だ」というメッセージを世界規模で発信しています。
「かつてはなかった」汚染 —— 2060年の未来図
潘基文氏の子ども時代、韓国の山々や谷は、今とはまったく違う姿をしていました。1960年代以前に育った世代にとって、プラスチック汚染はほとんど存在しないものでした。海の中でプラスチックごみが確認されるようになったのも、その頃からです。
それが今や、世界各地の風景がプラスチックごみに覆われつつあります。現在のまま野心的な対策をとらなければ、2060年までにプラスチック廃棄物は現在の約3倍、年間10億トンを超える規模に達する可能性があります。プラスチックの消費量も、2019年の4億6千万トンから2060年には12億3,100万トン近くまで、ほぼ3倍に膨らむと見込まれています。
その結果、かつて手つかずだった景観が危険なプラスチックに埋もれ、生物多様性は損なわれ、地球を温める温室効果ガスの排出も増え、人間の健康への影響も深刻化していきます。
体の中まで入り込むマイクロプラスチック
すでに、マイクロプラスチックと呼ばれる微細なプラスチック片は、地球上のあらゆる場所に広がっています。にぎやかな大都市から、人のほとんど訪れない熱帯の島々、さらには北極圏に至るまで、その存在が科学的に確認されています。
その行き着く先は、自然環境だけではありません。マイクロプラスチックは、世界中の子どもの肺や脳、母乳、飲み水、私たちが吸う空気の中からも検出されています。今この瞬間も、目に見えない微小なプラスチック粒子が、あなた自身の血流の中を流れているかもしれません。
人体への影響について、科学はまだすべてを解明しているわけではありません。それでも、こうした粒子が有毒であり、本来私たちの体内にあってはならないものであることは明らかだと、潘基文氏は警鐘を鳴らします。
「プラスチックの呪い」と「恩恵」を越えて
一方で、プラスチックは現代社会に多くの恩恵ももたらしてきました。潘基文氏が子ども時代を過ごした韓国の緑豊かな谷や山には、今のような大量のプラスチック製品はありませんでしたが、その後、プラスチックは多くの産業や医療行為、軽量な包装などに革命を起こしました。
だからこそ、「プラスチック汚染を終わらせる」という課題は単純ではありません。便利さや産業への貢献を無視することもできないからです。それでも潘基文氏は、この問題は解決可能だと語ります。必要なのは、あらゆるレベルでの協力を高めることです。国家間の協力だけでなく、企業、金融機関、科学者、市民社会、そして一人ひとりの市民が役割を認識し、行動をそろえていくことが求められています。
newstomo読者への問いかけ:この「歴史的瞬間」をどう使うか
プラスチック汚染との闘いは、どこか遠い国際交渉の話に聞こえるかもしれません。しかし、2060年の世界を形づくるのは、今この瞬間の選択と声です。どのような条約がまとまるのかによって、企業のビジネスモデルも、都市の姿も、私たちの日常生活も大きく変わりうるからです。
潘基文氏が強調しているのは、「交渉の部屋の外」にいる私たちにも力があるという点です。条約の行方を注視し、科学的な知見に耳を傾け、自分が暮らす地域やコミュニティでどのような変化を求めるのかを言葉にすること。その積み重ねが、ジュネーブでの一文一文にも影響を与えていきます。
次の世代が、プラスチックごみに覆われた風景ではなく、「かつてのような」緑豊かな自然を当たり前のものとして受け取れるようにするために、私たちは何を選び、どんな声を届けるのか。ジュネーブでの条約交渉は、その問いに世界がどう答えるのかを試す、重要な節目になろうとしています。
Reference(s):
cgtn.com








