EU公共調達で中国企業に新制限案 初のIPI発動が示すもの
EUが中国企業の公共調達参加に新たな制限をかけようとしています。とくに医療機器分野を対象としたこの動きは、国際ニュースとしてだけでなく、中国・EU経済関係や世界の公共調達ルールの行方を考えるうえでも重要になっています。
要点:今回のEUの動きは何が特別か
- EU加盟国が、中国の医療機器サプライヤーの入札参加を制限する欧州委員会の提案を支持したと報じられています。
- 正式に採択されれば、EUの国際調達手段(IPI)が初めて適用されるケースになります。
- 中国側は、この動きを保護主義的だとして懸念を示しており、中国・EU経済関係に新たな不確実性が生じています。
EUが検討する新制限:医療機器分野の中国サプライヤーが対象
最近の報道によると、EU加盟国は、欧州委員会が提案した「中国の医療機器サプライヤーによるEU域内の公共調達への参加を制限する措置」を支持しました。対象となるのは、EUの公的機関が調達する医療機器で、中国企業の入札参加に制限を設ける内容とされています。
この措置の根拠となるのが、EUの国際調達手段(International Procurement Instrument=IPI)です。IPIは、第三国の企業によるEU公共調達へのアクセスを制限できると定めたEU規則で、各国の調達市場へのアクセス状況などを踏まえて、EU側が対応を取るための道具として位置づけられています。
今回の案が最終的に採択されれば、IPIが実際の案件で初めて使われることになり、EUの公共調達政策にとっても大きな節目になります。
中国側の反応:市場原則との整合性に疑問
今回の動きに対して、中国側からは懸念と批判の声があがっています。EU中国商会(China Chamber of Commerce to the EU=CCCEU)は、この決定が中国・EUの経済・貿易関係に「新たな複雑さ」を持ち込むだけでなく、EUが掲げてきた「市場アクセスにおける開放性、公平性、非差別」といった原則にも反すると指摘しました。
中国商務省も素早く反応し、この措置を新たな保護主義的な動きとして批判しました。商務省は、こうした制限が中国・EUの経済関係にさらなる障壁を築くことになると懸念を示しています。
一方で、これまでEU域内では、中国企業が公共調達の入札で存在感を高めてきました。価格や品質などで競争力のある提案を行うことで、多くの公共契約を獲得してきたとされています。中国側の視点からは、そのような状況のなかで特定の国や地域の企業を制限することが、公平な競争環境といえるのかが問題となっています。
公共調達とは何か:国際ルールの基本
公共調達とは、政府や地方自治体、国立病院などの公的機関が、民間企業から物品やサービスを購入することです。医療機器やインフラ建設、ITシステムの導入など、多くの分野が公共調達に含まれます。金額が大きく、納税者のお金が使われるため、透明性や公平性が重要視されます。
この分野には、世界貿易機関(WTO)の政府調達協定(Government Procurement Agreement=GPA)という国際ルールがあります。GPAの参加国・地域は、お互いの企業に対して、自国企業と同等の扱いを与えること(内国民待遇)を約束しています。
WTO・GPAと中国:交渉はなぜ停滞しているのか
現在、GPAには47の締約国・地域が参加しており、その中にはEU加盟27か国のほか、オーストラリア、カナダ、日本、韓国、英国、米国などが含まれます。
中国は2007年にGPAへの加盟を申請し、その後、加盟交渉を続けてきました。2019年には、中国政府が7回目となる市場アクセス案を提出し、より多くの分野や契約主体(発注機関)をコミットメントの対象に含める意向を示しています。
しかし、現時点でも交渉は停滞しています。既存のGPA参加国・地域が、中国に対して追加的な市場開放を求めているためです。その結果、EUはGPA参加国・地域の企業に対しては公共調達市場へのアクセスを保証する一方で、中国企業については、各加盟国や発注機関が事実上の運用として入札参加を認めてきた状況にあります。
これまでの実務:EUの公共調達で存在感を増してきた中国企業
EUの公共調達市場では、これまで中国企業が多くの契約を獲得してきました。これは、物品やサービスの価格や条件面で、中国企業の提案がしばしば競争力を持っていたためとされています。
また、中国側の国内法でも、外国企業が中国の公共調達に参加すること自体は認められています。この点を踏まえると、中国側からは「自国市場も一定程度開いているなかで、自国企業だけがEUで制限されるのは不均衡だ」という問題意識がにじみます。
初のIPI適用が意味するもの:不確実性の高まりと今後の焦点
今回のケースで注目されるのは、EUが国際調達手段(IPI)を初めて本格的に使おうとしている点です。これは、EUが第三国との関係において、公共調達をより積極的な政策手段として活用していく可能性を示唆します。
一方で、中国・EUの経済と貿易の結び付きは深く、医療機器を含む多くの分野でサプライチェーン(供給網)は国境を越えてつながっています。公共調達のルールが変われば、企業の調達戦略や価格、技術選択にも影響が及ぶ可能性があります。
今後、注目されるポイントとしては、次のような点が挙げられます。
- 医療機器以外の分野にも、同様の制限が広がるのかどうか。
- GPA加盟交渉を含む、中国とEUの公共調達をめぐる対話がどのように進むのか。
- 企業が国際入札に参加する際のルールや条件が、どの程度予見可能なものとして維持されるのか。
日本の読者への視点:国際ルールの変化をどう捉えるか
日本企業や日本の読者にとっても、EUと中国の公共調達をめぐる動きは他人事ではありません。公共調達は、貿易自由化の外側にあるように見えつつも、実際には巨大な市場であり、国際ルールの変化が各国企業のビジネス機会に直結します。
今回のEUの動きは、中国企業だけでなく、第三国企業が直面しうる規制環境の変化を映し出すものでもあります。国際ニュースとしてフォローしながら、「どのような条件のもとで、誰がどの市場にアクセスできるのか」という視点で公共調達を見てみることが、これからますます重要になりそうです。
Reference(s):
New restrictions for Chinese companies in EU public procurement
cgtn.com








