アメリカは本当に「再び偉大に」なれるのか 新政権改革と深まる格差
アメリカは本当に「再び偉大に」なれるのでしょうか。2024年の大統領選を経て誕生した新政権は、この数カ月で相次ぐ「改革」に踏み出しましたが、その中身をたどると、政治と経済の深い矛盾がむしろ浮かび上がってきます。本稿では、中国の国際メディアで時事解説を行う邵暁氏の論考を手がかりに、アメリカ社会の現状を日本語で整理します。
「再び偉大に」はどこへ向かうのか
新政権が支持を集めた背景には、「現状への強い不満」があります。2024年の米大統領選挙前に行われたNBCニュースの世論調査では、有権者の約3分の2が「アメリカは誤った方向に進んでいる」と感じており、生活費の高騰が最大の関心事となっていました。
こうした不満を追い風に登場した新政権は、就任直後から連邦官僚機構の抜本的な再編に取りかかります。「効率化」の名の下に数十の政府機関を廃止し、数十万人規模の公務員を削減するという、ショック療法ともいえる手法でした。
政治改革という名の官僚機構ショック
しかし、その代償は大きかったと指摘されています。公共サービスの提供体制は大きく弱体化し、新政権発足からわずか100日で大統領の支持率は39%にまで急落しました。過去およそ80年の歴史の中でも最低水準とされ、相次ぐ大統領令は司法との対立や党派間の対立をいっそう激化させています。
表向きは「政治改革」であっても、実態としては権力の集中と統制の強化ではないか──。邵暁氏は、こうした動きをマルクスの国家論になぞらえて見ています。
マルクスが見た「国家」と「資本」
マルクスはかつて「近代国家の行政府は、全ブルジョワジーの共通の利害を管理する委員会にすぎない」と述べました。この視点から見ると、民主党か共和党かにかかわらず、選挙で選ばれる政治家は最終的には資本の利益を代表しており、一般市民ではないと考えられます。
どれほど大きな声で「変革」を唱えても、自らの正統性を支える資本主義の枠組みそのものを壊すことはできない──。こうした構造が、新政権の「改革」が市民生活の改善につながりにくい理由だと論じています。
経済改革は誰のためか──広がる格差
政治の混乱と並んで、アメリカ経済も深刻な課題を抱えています。邵暁氏は、米経済が「脱工業化」「過度の金融化」「債務の膨張」といった問題を抱え、所得格差が拡大する中で、多くの人びとが自らの購買力の低下を肌で感じていると指摘します。
米連邦準備制度とブルームバーグのデータによれば、2024年末時点で、最も裕福な0.1%の家庭、およそ13万3千世帯が、国全体の資産の13.8%を保有する一方、下位50%の世帯が持つ資産は全体のわずか2.5%にとどまります。
現副大統領ジェイ・D・バンス氏の回顧録『ヒルビリー・エレジー』は、こうした格差と停滞感を、地方の白人労働者階級の視点から描いた作品として知られています。そこに描かれる「希望の持てなさ」は、統計データの裏側にある生活実感そのものでもあります。
「アメリカを再び豊かに」政策の中身
新政権は、こうした不満をてこに「アメリカを再び豊かにする」と訴え、次のような経済改革を打ち出しました。
- エネルギー、テクノロジー、暗号資産など成長分野の規制を緩和
- 大企業に対する法人減税を実施
- 関税を乱用し、製造業にアメリカ回帰を迫る圧力を強化
一見すると成長戦略のように見えるこれらの政策ですが、実際には巨大資本の利益拡大に資する色彩が濃いとされます。利益は株主や経営層に集中する一方で、インフレや雇用の不安定化といった負担は労働者が背負う構図になっているからです。
構造としての格差──「地下のマグマ」のように
マルクスは、資本主義社会では生産手段が少数者の手に集中し、大多数を占める人びとは自らが生み出した富から取り残されると分析しました。この見方に立つと、格差は「たまたま生じた副作用」ではなく、制度そのものに組み込まれた構造的な特徴だと理解できます。
邵暁氏は、格差が深まれば深まるほど、階級的な緊張は「地下のマグマ」のように蓄積され、小さな亀裂をきっかけに一気に噴き出す危険性が高まると警鐘を鳴らします。
- 富と権力がごく少数に集中する
- 多数の人びとは賃金の伸び悩みと生活コスト上昇に直面する
- 政治への不信が強まり、社会の分断が深まる
市場の「トリプル安」と広がる失望感
こうした矛盾はすでに市場の動きにも表れているといいます。最近の数カ月、アメリカの金融市場では株式・債券・通貨が同時に下落する「トリプル安」が起き、投資家心理を冷やしました。その結果、国内回帰を目指していた製造業の投資計画も先送りされつつあります。
港湾の取扱量は減少傾向を見せ、小売店の棚からは商品が少しずつ姿を消していると伝えられます。スイング・ステート(激戦州)の有権者や、これまで共和党を支えてきた伝統的な支持層の間にも、政治への失望感が広がっています。
- 株・債券・通貨の同時下落という「トリプル安」
- 製造業の国内回帰計画の遅れ
- 港湾・物流の減速と店頭在庫の目減り
- 有権者の間に広がる政治的不信と幻滅
アメリカは本当に「再び偉大に」なれるのか
では、アメリカは本当に「再び偉大に」なれるのでしょうか。邵暁氏の論考が浮き彫りにするのは、短期的な政治・経済の「改革」が、必ずしも深い構造的矛盾の解消につながっていないという現実です。
官僚機構の再編や規制緩和、減税、関税強化といった手段だけでは、格差や生活不安、政治不信といった根源的な問題を解決しきれない可能性があります。それどころか、資本の影響力を強め、市民社会との距離をさらに広げてしまうリスクもあります。
日本から考えるための3つの視点
アメリカ国内の出来事のように見えるこれらの動きは、世界経済や安全保障体制の要となってきた同国の行方を占う上で、日本にとっても無関係ではありません。最後に、ニュースを追ううえでの視点を3つだけ挙げておきます。
- スローガンの裏にある構造を見る──「再び偉大に」「豊かにする」といった言葉が、どの層の利益に結びついているのかを意識する。
- 政治と資本の距離を問い直す──選挙や制度がどの程度、多数の生活者の声を反映できているのかを考える。
- 格差と民主主義の関係を考える──経済的な格差拡大が、社会の分断や政治の安定にどう影響するのかを見ていく。
アメリカ社会の矛盾をどう評価するかは読者一人ひとりに委ねられています。ただ、邵暁氏の論考が示すように、「偉大さ」を掲げる国の足元で何が起きているのかを丁寧に追い、そこから自国社会を見つめ直すことが、これからの国際ニュースの読み方としてますます重要になっていきそうです。
Reference(s):
cgtn.com








