エアインディア墜落とボーイング787初の致命事故 揺らぐ航空安全への信頼
2025年6月、エアインディア機が住宅街に墜落
2025年6月12日、インドの都市アーメダバードを離陸したエアインディアのロンドン・ガトウィック行きフライトAI171(ボーイング787-8ドリームライナー)が、離陸直後に住宅密集地へ墜落しました。
機体には乗客232人と乗員10人の計242人が搭乗しており、報道によれば全員の死亡が確認されています。搭乗者には複数の外国人やインドの有力人物が含まれ、グジャラート州の元州首相ヴィジャイ・ルパニ氏が乗っていたとも伝えられています。
この事故は近年のインドで最悪級の航空事故であると同時に、ボーイング787ドリームライナーとして初めての致命事故であり、機体の安全記録に大きな傷を残す出来事となりました。
低高度での異常、住宅街に炎の塊が落ちた
事故機は、アーメダバード市のメガニナガル地区上空で異常な挙動を見せたとされています。機長サミート・サバルワル氏、副操縦士クライヴ・クンダル氏が操縦する機体は高度約625フィートに到達した後、毎分約475フィートという急な降下に入り、メーデー(緊急事態)を宣言しました。
最終的に航空機は医師寮に近い住宅街に激突し、巨大な火球となって周辺の建物を巻き込みました。現場周辺の映像には、炎と黒煙、突然の爆音にパニックに陥る住民の姿が映し出されています。
インドの緊急対応インフラが総動員
大都市の住宅街への旅客機の墜落という最悪のシナリオの中で、インド当局は大規模な緊急対応に踏み切りました。およそ1,200床の病院ベッドが事前に確保され、負傷者搬送のために「グリーン・コリドー」(救急車のために道路を優先的に空ける仕組み)が設定されました。
国家災害対応部隊(NDRF)や消防隊も多数投入され、消火活動や住民の避難、現場の捜索が夜通し行われました。今回の事故は、「都市上空を日常的に旅客機が飛ぶ」時代における都市インフラの脆弱性と同時に、インドの救急・防災体制の機動力を浮かび上がらせたとも言えます。
インドのナレンドラ・モディ首相は閣僚らを現地に派遣するよう指示し、英国のキア・スターマー首相をはじめ各国の指導者からも弔意が寄せられています。悲しみとともに、「なぜ防げなかったのか」という説明責任を求める声も強まっています。
初の致命事故に直面したボーイング787ドリームライナー
ボーイング787ドリームライナーは2011年の就航以来、省燃費で環境負荷が比較的少ない次世代の中大型機として高く評価されてきました。すでに1,100機以上が世界の航空会社に引き渡され、10億人以上の乗客を運んできたとされています。
この間、ドリームライナーは致命事故が一件もない「優等生」として安全面でも注目されていました。しかし、エアインディアの機体(登録記号VT-ANB)による今回の墜落は、同機として初めての「全損事故」であり、初の死亡事故でもあります。ボーイングにとっては、過去の技術トラブルのイメージから抜け出したいタイミングで、再び厳しい視線にさらされる事態となりました。
2024年3月には、南米のLATAM航空の787が座席スイッチの不具合をきっかけに急降下し、多数の負傷者を出す事案もありました。このときは死者こそ出ませんでしたが、「大事故になりかねないヒヤリ・ハット」として、ドリームライナーの安全性に改めて注目が集まっていた矢先でした。
技術革新の裏で続いてきた警告サイン
ドリームライナーは軽量素材や電気システムの高度な活用など、民間旅客機の中でも革新的な設計を特徴とします。その一方で、運用開始以降、いくつかの技術的・製造上の問題が繰り返し指摘されてきました。
- エンジン不具合:2016年から2020年にかけて、多くの787が採用するロールス・ロイス社製「トレント1000」エンジンで、タービンブレードの腐食や燃料漏れなどの問題が発生し、一部機体の運航停止や点検が相次ぎました。
- バッテリー火災:2013年には、リチウムイオン電池の発火事案が続発し、世界中の787が一時的に運航停止となりました。ボーイングは電池システムの設計を見直しましたが、機体への信頼感は早い段階から揺らいでいました。
- 製造品質の懸念:2020年以降、米サウスカロライナ州にある工場の品質管理をめぐる問題が表面化し、一時は787の引き渡しがほぼ2年間停止されました。内部告発者からは「製造工程の近道」が指摘され、米連邦航空局(FAA)や議会の監督も強まりました。
こうした一連の問題は、その都度「技術的対策は講じられた」とされ、運航は続けられてきました。しかし、今回のアーメダバードでの墜落は、「私たちは本当に十分に学び、対策を取り切れていたのか」という根源的な問いを改めて突きつけています。
問われるのは、技術だけでなく「信頼の仕組み」
航空は、精密な技術と厳格な規制、そして「空の安全を信じて乗る」人々の信頼によって成り立っています。ドリームライナー初の致命事故となった今回のエアインディア機墜落は、その三つの柱すべてに揺さぶりをかける出来事です。
今後、事故原因の詳細な調査は時間をかけて進められることになります。その過程では、機体の設計・製造、航空会社の整備・運航体制、監督当局の審査や認証プロセスなど、多層的なチェックのどこに問題があったのかが検証される必要があります。
重要なのは、責任の所在を追及するだけでなく、世界の航空業界全体が「同じような事故を繰り返さないために何を変えるべきか」を共有し、具体的な改善につなげることです。都市上空を飛ぶ大型機が当たり前になった今、ひとつの事故の教訓は、国境を超えて共有されなければなりません。
2025年のこの悲劇をきっかけに、私たちはどのような空の安全の未来を選び取るのか。答えは、今まさに問われています。
Reference(s):
cgtn.com








