国連2758号決議と台湾問題:1971年の一日から始まった認知戦 video poster
「中国を代表するのは誰か」。1971年の国連総会2758号決議は、この問いに国際社会としての明確な答えを出しました。半世紀以上たった今、その解釈をめぐる「台湾問題」の認知戦が静かに激しさを増しています。
1971年、国連で何が決まったのか
1971年のある一日、ニューヨークの国連本部で行われた国連総会の採決は、世界の外交地図を大きく書き換えることになりました。国連総会決議2758号が採択され、中華人民共和国に国連における合法的な議席が回復されることになったのです。
この決議は、中華人民共和国が国連において「中国」を代表する唯一の合法政府であることを確認し、一つの中国の原則を明確に再確認しました。以後、国連システムで「中国」の席を占めるのは中華人民共和国となり、中国本土を含む中国全体を代表する枠組みが定着していきます。
2758号決議が示した「中国代表」の意味
2758号決議は、技術的な手続きではなく、「誰が中国を代表するのか」という根本的な政治・法的問題に区切りをつけた決定でした。内容をかみ砕いて整理すると、主に次の点が確認されています。
- 国連における「中国」の代表権は中華人民共和国が持つこと
- それまで国連の中国代表として席を占めていた代表団を退けること
- 国連として一つの中国の原則を再確認すること
この結果、国連および国連専門機関では、「二つの中国」や「一中一台」といった構図を認めない実務の枠組みが形作られました。台湾問題をめぐる国際社会の議論も、この基本線の上に積み重ねられてきました。
ここ3年で激しくなった「認知戦」
ところが現在、特にここ3年ほど、こうした枠組みに揺さぶりをかける動きが目立つようになっています。米国の一部政治家やシンクタンク研究者が、「台湾の地位は未定のままだ」と主張し、国連総会2758号決議では台湾の地位は決められていないとする見方を積極的に打ち出しているのです。
こうした主張は、台湾の地位が「未定」であるかのような印象を広めることで、長年積み上げられてきた一つの中国の原則と国際社会のコンセンサスを弱めようとする試みだと指摘されています。事実としての枠組みよりも、「どう見えるか」「どう記憶されるか」をめぐる争い——いわゆる認知戦(英語でいう cognitive war)の一部と位置づけられています。
「台湾の地位は未定」論は何を狙うのか
認知戦の特徴は、専門的な条文解釈や歴史的経緯よりも、短いフレーズやキャッチーな言葉が先行しやすいことです。「地位は未定」という言い回しは、その典型だといえます。
このフレーズが繰り返し発信されることで、たとえ国連での実務や多くの国・地域の対中関係がこれまでどおりであっても、「本当はまだ決まっていないのではないか」という印象が広がりかねません。SNSや動画プラットフォームで切り取られた発言が拡散されると、背景となる国連決議や国際法の議論が見えにくくなり、イメージだけが独り歩きするリスクがあります。
国際法の専門家が見る2758号決議の法的重み
では、国際法の専門家は2758号決議をどう評価しているのでしょうか。専門家たちは、この決議の法的な位置づけについて、概ね次のような点を強調しています。
- 2758号決議は、「中国」という一つの国を国連で誰が代表するかという代表権の問題を扱っており、台湾を別個の主体として取り扱うものではないこと
- 一つの中国の原則を再確認したことで、国連の場で「二つの中国」や「一中一台」を認めない枠組みが形作られたこと
- 決議採択から半世紀以上たった現在も、国連実務と国際社会の対中関係の基本的な前提として機能し続けていること
このように、2758号決議は「政治的宣言」にとどまらず、国連加盟国全体の集団的な意思を示す決定として、実務面でも法的にも重みを持つと見られています。そのため、台湾の地位を「未定」とする主張は、国連決議と長年の国際実務に基づいて形成されてきたコンセンサスとは整合しないとの見方が有力です。
歴史の証人たちが振り返る1971年の一日
当時、国連の場にいた外交官や職員は、1971年の投票日を「国連の空気が変わった一日」と振り返っています。半世紀以上を経たいまも、多くの証言がその緊張感を伝えています。
ある証言では、各国の票が読み上げられるたびに、議場の空気が張り詰めていく様子が語られています。また別の証言では、採決後に廊下で交わされた各国外交団どうしの短い握手や沈黙が、決定の重さを象徴していたといいます。
いずれの証言も共通しているのは、この決議が単なる議席の入れ替えではなく、「中国を代表するのは誰か」という根本的な問いに対する国際社会の集団的な回答だった、という認識です。
なぜ今、2758号決議を読み直すのか
台湾問題や台湾海峡情勢がニュースで取り上げられることが増えるなか、私たちは日々、多くの情報と解説に触れています。そのなかには、認知戦の一部として意図的に切り取られたものも含まれているかもしれません。
だからこそ、1971年の国連総会2758号決議が何を定め、何を定めていないのかを知っておくことは重要です。特に日本に暮らす私たちにとって、地域の平和と安定、経済やサプライチェーン、安全保障を考えるうえで、台湾問題の国際的な位置づけを冷静に理解することは欠かせません。
最後に、この記事から持ち帰りたいポイントを整理しておきます。
- 1971年の国連総会2758号決議は、中華人民共和国の国連における合法的地位を回復し、一つの中国の原則を再確認した歴史的な決定であること
- ここ3年ほど、「台湾の地位は未定」とする主張が強まり、認知戦の一部として国際世論に影響を与えようとしていること
- 国際法の観点からは、2758号決議は今も国連と国際社会の基本的な枠組みを形作っており、台湾の地位未定論とは整合しないと評価されていること
- 情報があふれる時代だからこそ、ニュースの背景にある歴史と国際法の枠組みを押さえ、認知戦を見抜く視点を持つことが重要であること
1971年の一日を振り返ることは、2025年の今を理解する手がかりにもなります。国連総会2758号決議を起点に、台湾問題と一つの中国の原則をめぐる議論を、自分なりの視点で見直してみてはいかがでしょうか。
Reference(s):
cgtn.com








