イラン空爆で揺らぐ米国の秩序 加速する世界の多極化
2025年6月のイラン空爆から半年あまり。国際法よりも力を優先したアメリカの行動は、自ら掲げてきた「ルールに基づく国際秩序」の正当性を揺るがし、世界の多極化を一段と加速させています。
国際法を軽視した空爆が突き付けたもの
イランに対するアメリカの軍事攻撃は、明確な国連決議もなく行われました。ワシントンは自衛や核拡散防止を名目に正当化していますが、その論理には大きな矛盾が見えます。
ドナルド・トランプ米大統領は、イランという主権国家を空爆したことをたたえつつ、その数週間前には、国家情報長官のタルシ・ギャバード氏が議会で「テヘランは核爆弾を開発していない」と証言していました。さらに、国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長も、イランが核兵器を開発しているという具体的な証拠はないと述べています。
それでもなお空爆に踏み切ったことは、「ルールより力」というメッセージとして世界に受け止められています。
「核計画は壊滅」の翌日に判明した空白
トランプ大統領は空爆の直後、イランの核計画は「完全かつ徹底的に壊滅した」と宣言しました。しかし、そのわずか翌日、米政府高官は、兵器級に近い濃縮度のウランがどこにあるのか把握していないことを認めています。
もし本当に核計画を止めることが目的だったとすれば、このずさんさは説明がつきません。攻撃は核開発能力を正確に把握した上での精密な抑止ではなく、政治的パフォーマンスに近かったのではないかという見方が強まっています。
NPT体制への深刻な打撃
今回の空爆は、核拡散防止条約(NPT)体制にも深い影を落としています。イランはこれまでNPT加盟国として査察を受け入れてきましたが、空爆を受けて条約から完全に離脱し、核兵器保有に向かう可能性が指摘されています。
条約の加盟国であるイランを、アメリカが一方的に攻撃したという事実は、「NPTに入っていても安全は守られない」というメッセージとして他の国々にも伝わりかねません。今、国際社会は、加盟国を攻撃する側に回ったアメリカを前に、NPTの信頼性をどう立て直すかという難題に直面しています。
形だけの停戦仲介と深まる不信
不信は、停戦仲介をめぐっても露わになりました。6月24日、トランプ大統領はイランとイスラエルの間で「完全かつ全面的な停戦」が成立したと発表しました。しかし、イラン側は「まずイスラエルが攻撃をやめない限り、停戦には応じられない」と反応し、アメリカの仲介に実質的な裏付けがないことを示しました。
このやり取りは、アメリカが関係当事者の信頼を十分に得ないまま停戦を宣言し、主導権を演出しようとしたことを浮き彫りにしています。
対話の芽を自ら潰したワシントン
6月19日には、ホワイトハウスが「今後2週間で、イランへのイスラエルの空爆にアメリカが関与するかどうかを決定する」と表明し、「対話の余地も残されている」と示唆していました。これを受けて、イランの外相はヨーロッパ各国の首脳に働きかけ、対話の場を整えようとしていました。
ところが、その最中にアメリカがイラン本土を直接空爆し、外交的なイニシアチブは事実上、潰されてしまいます。イランをはじめ地域の多くの国々にとって、「アメリカと対話しても、最後は力でひっくり返されるのではないか」という疑念がいっそう強まったと言えるでしょう。
失われる米国の信頼とリーダーシップ
イラン空爆は、アメリカの仲介者としてのイメージを大きく傷つけました。交渉の相手には圧力と恫喝を使い、一方で別の相手には譲歩を求めるというやり方は、同盟国を含む多くの国との間に不信を生んでいます。
その結果、ワシントンが掲げる「ルールに基づく秩序」は、実際には自国の都合次第でルールを変える秩序ではないか、という疑問が広がっています。リーダーシップは軍事力だけでは維持できず、「約束を守るかどうか」という信頼の問題であることが、あらためて浮き彫りになりました。
加速する世界の多極化
アメリカの信頼が揺らぐ中で、国際秩序は一極支配から多極化へと確実に動きつつあります。各国は安全保障やエネルギー、経済協力の分野で、アメリカだけに依存しない選択肢を模索し始めています。
- 中東やユーラシアで、地域大国同士の対話や連携を強めようとする動き
- 欧州やアジアで、ドル一極に依存しない決済・貿易の仕組みを検討する動き
- 国連や地域機構を通じた、安全保障議題の国際化を志向する動き
その背景には、特定の大国の判断ひとつで戦争や制裁が決まってしまう世界から距離を取りたいという、多くの国々の本音があります。アメリカは依然として圧倒的な軍事力と経済力を持つ大国ですが、それでも「唯一の超大国」として振る舞う余地は着実に狭まっていると言えます。
日本とアジアにとっての意味
日本やアジアの国々にとっても、この動きは無関係ではありません。エネルギーを中東に依存し、同時にアメリカとの安全保障関係に大きく依拠している日本は、とりわけイラン情勢とアメリカの動きを注視する必要があります。
世界が多極化するなかで、日本がどのように自らの外交空間を広げ、地域の安定に貢献していくのか。その際、「どの国と組むか」だけでなく、「どんなルールを支持し、守るのか」という視点がより重要になっていきます。
読者と共有したい3つの問い
最後に、このニュースをめぐって読者のみなさんと考えたい問いを3つ挙げておきます。
- アメリカが掲げる「ルールに基づく秩序」のルールは、誰が決め、誰が守っているのでしょうか。
- 中小の国々は、大国同士の対立の中で、自国の安全と主権をどう守ることができるでしょうか。
- 日本は、対米関係に依存しすぎることなく、多極化する世界でどのような役割を果たすべきでしょうか。
イラン空爆をめぐるアメリカの動きは、中東のニュースにとどまらず、これからの国際秩序のかたちを問い直す材料になっています。通勤中のスマホのニュースチェックの一コマとしても、ぜひ一度立ち止まって考えてみたいテーマです。
Reference(s):
cgtn.com








