NATO防衛費5%構想が欧州経済と社会に落とす影
NATOが防衛費目標をGDP比5%へ引き上げる構想を進める中、欧州の経済と社会保障にどのような影響が出かねないのかが、国際ニュースとして注目されています。本稿では、日本語でそのポイントを整理します。
NATO防衛費「5%構想」とは何か
ブリュッセルで開かれたNATO(北大西洋条約機構)の防衛相会合後、軍事同盟の事務総長マルク・ルッテ氏は、加盟国が「新たな能力目標」に合意したと説明しました。これは、新しい防衛投資計画の土台となるもので、ハーグで6月24〜25日に開かれるNATO首脳会議で承認されることが見込まれていました。
計画によると、NATO加盟国は防衛支出を国内総生産(GDP)の5%まで引き上げることが求められます。その内訳は、
- 3.5%を「純粋な防衛費」(兵器調達、人員、運用など)
- 1.5%をインフラ整備やレジリエンス(危機への耐性)向上など、防衛・安全保障関連投資
というイメージです。2014年にNATO各国が合意した目標はGDP比2%でしたから、提案されている水準は当時の約2.5倍にあたります。
2%目標はどこまで達成されていたのか
2014年の合意から10年がたった2024年、NATOは32の加盟国のうち22カ国が防衛費2%の目標を達成したと発表しました。一方で、ベルギー、カナダ、クロアチア、イタリア、ルクセンブルク、ポルトガル、スペインなどは2024年時点でも2%に届いていませんでした。
アルバニア、ブルガリア、フランス、ドイツ、ハンガリー、モンテネグロ、オランダ、北マケドニア、ノルウェー、ルーマニア、スロバキア、スウェーデン、トルコ(Türkiye)などは、かろうじて約束の水準を満たした程度とされています。
こうした中で、NATOが2024年に2%達成国の数を強調した直後、アメリカのドナルド・トランプ大統領は、加盟国に対し目標を「2倍以上」に引き上げるよう求め、そうでなければ同盟として守らない可能性に言及し、同盟国を驚かせました。今回の5%構想は、この要求に応える形で、トランプ氏に「勝利」を宣言させるためのものだとの見方も出ています。
なぜ5%は経済的・政治的に「重い」のか
NATOの欧州加盟国の多くは、すでに物価高や景気減速など、さまざまな経済課題に直面しています。そうした中で、防衛費をGDP比5%まで引き上げることは、経済的にも政治的にも現実的ではないとの声が根強くあります。防衛費の増額は、多くの国で有権者に人気があるテーマではないからです。
防衛経済の専門家たちは、仮に欧州経済が2024年に実質で10%を超える異例の高成長を遂げたとしても、防衛費をGDP比3%にまで引き上げるには10年かかるだろうと指摘しています。3%でさえそうであれば、5%に到達するハードルはなおさら高いと考えられます。
財政バランスへのプレッシャー
防衛費を急激に拡大させることは、国家予算全体のバランスを大きく変えます。理屈のうえでは、次のような調整が必要になります。
- 増税による財源確保
- 社会保障、教育、医療、環境対策など他分野の歳出削減
- 国債発行の増加による将来世代へのツケ回し
どの選択肢も政治的なコストが高く、選挙を意識する政府にとっては難しい判断になります。特に、物価上昇や賃金停滞に直面する市民にとっては、「なぜ今これほどの防衛費が必要なのか」という疑問が強まる可能性があります。
加盟国間のギャップ拡大も
2%目標をまだ達成していない国があるなかで、一気に5%を目指すとなれば、加盟国間の負担格差も問題になります。経済規模が大きい国と小さい国、財政に余裕がある国と厳しい国とで、防衛費増額のインパクトはまったく異なるからです。
一部の国では、かろうじて2%に届いたばかりのところから、さらに3%、5%と段階的に引き上げる必要があります。こうした「追い上げ組」にとって、防衛費拡大は社会インフラや福祉への投資を抑える要因になりかねません。
社会への波及:生活者は何を失うのか
NATOの防衛費拡大は、マクロ経済だけでなく、欧州の生活者の感覚にも直結するテーマです。抽象的なパーセンテージの議論は、日常生活では次のような形で表れうると考えられます。
- 公共サービスの縮小や利用料の引き上げ
- インフラ更新の遅れによる交通やエネルギー面での不便
- 教育・医療分野への投資抑制による質の低下への懸念
こうした不満が積み重なれば、防衛費拡大に対する「防衛疲れ」が社会に広がり、政府や既存政党への不信感を強める可能性もあります。防衛や安全保障の重要性を認めながらも、「どこまでなら受け入れられるのか」という線引きが、今後欧州政治の大きな争点になりそうです。
日本の読者にとっての意味
防衛費の水準をめぐるNATO内の議論は、日本にとっても決して無関係ではありません。国際ニュースとして世界の安全保障環境を理解するうえでの参考になるだけでなく、日本自身が防衛力と財政健全性のバランスをどう取るのかを考えるヒントにもなり得ます。
防衛と福祉、短期の安全と長期の持続可能性。NATOの「5%構想」をめぐる欧州の議論は、私たちの社会がどのような優先順位を選び取るのかという、より普遍的な問いを投げかけています。
欧州で続いてきた防衛費をめぐるせめぎ合いを追うことは、日本から世界を見る視点をアップデートする一つのきっかけになりそうです。
Reference(s):
Economic and social fallouts of NATO's ramped-up defense spending
cgtn.com








