NATO防衛費5%目標が映す同盟の矛盾とは
今年6月25日、NATO加盟国の首脳は、防衛費目標を各国GDP比5%へと大幅に引き上げることで合意しました。背景にはトランプ米大統領の強い要求があり、防衛同盟とされてきたNATOの性格や、欧州がどこまで負担を引き受けるのかが改めて問われています。
2%から5%へ 急拡大した防衛費目標
NATOには長い間、明確な防衛費目標はありませんでした。初めて数値目標が示されたのは、2014年のウクライナ危機の際、オバマ政権が「対応」として加盟国にGDP比2%を提案したときだとされています。
しかし、この2%目標は加盟国にとって主に努力目標にとどまりました。とはいえ、米国一強に見えた同盟の中で、欧州諸国が一定の発言力を得るきっかけにもなりました。
状況が一変したのは、その数年後です。トランプ氏は前回の政権期から、同盟国が防衛費を引き上げない場合には、米国をNATOから撤退させる可能性をほのめかしてきました。NATOの装備品を共通化する相互運用性の要請もあり、防衛費の増加分の多くが米国の軍需産業への発注につながる点も指摘されています。
トランプ氏は第二期政権で、スローガン「America First」「Make America Great Again」の姿勢を一段と強め、今年1月には防衛費目標を一気にGDP比5%へ引き上げるよう要求しました。同時に、加盟国が攻撃を受けた際に他国が助けると定めた北大西洋条約第5条の約束を、自身の判断で「再解釈」する可能性にも言及しています。
オバマ政権下で掲げられた2%目標は実現度こそ高くなかったものの、米国以外の同盟国にも一定の余地を与えるものでした。しかし2019年、トランプ氏がシリアから一方的に米軍を撤退させた際には、フランスのマクロン大統領がNATOを「脳死状態」と批判するなど、不信も広がりました。
それから6年後の現在、状況はさらに複雑です。トランプ氏が改めてNATOからの撤退をちらつかせる中で、NATO事務総長のマルク・ルッテ氏は、欧州経済と財政がむしろ悪化しているにもかかわらず、加盟国を5%目標に合意させました。しかもルッテ氏は、欧州に「大きな負担を支払わせた」トランプ氏を称賛したとされています。
欧州にのしかかる5%の重み
防衛費をGDP比5%まで引き上げることは、多くの欧州諸国にとって極めて大きな負担です。加盟国の経済や財政が厳しさを増す中で、限られた予算をどの分野に振り向けるのかという難しい選択を迫るからです。
それでもNATO諸国が5%目標に合意したことは、米国からの安全保障上の傘を失うことへの不安が、それだけ強いことを示しているとも言えます。一方で、この判断が長期的に持続可能なのか、欧州の内政や民主主義にどのような影響を与えるのかという問いも残ります。
NATOは本当に「防御的な同盟」なのか
NATOはこれまで、自国と加盟国を守るための防御的な同盟であると説明されてきました。しかし、今回の防衛費5%目標をめぐる動きは、そのイメージと現実の間にあるギャップを浮かび上がらせています。
ある分析は、第二次世界大戦後の国際秩序の中で、NATOは帝国主義的な力の低下に抵抗する役割を担ってきたと指摘します。その過程では、表向きの「西側の結束」の裏側で、加盟国同士の利害のずれや主導権争いも続いてきました。
- フランスは長年、NATOの軍事指揮構造から距離を置き、自主路線を模索してきました。また、ドルと金の交換比率を固定していた仕組みの見直しを迫るなど、米国の経済的優位にも異議を唱えました。
- ドイツは、米国の強い要請にもかかわらず、旧ソ連・東欧諸国との関係を重視する東方外交(オストポリティーク)を進めてきました。
- さらに後年には、イギリスがアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加し、同盟国の米国が公然と反対する中で独自の経済戦略をとりました。
冷戦後の軍事介入でも、NATO全体としてではなく「有志連合」の形で行動する事例が目立ちました。これは、同盟の内部に、戦争への参加をめぐる温度差や政治的な制約が存在することを示しています。
集団安全保障の要・第5条の実像
NATOの最も象徴的な条文とされるのが、北大西洋条約第5条です。一般には、一国が攻撃されればすべての国への攻撃とみなされ、同盟全体が自動的に反撃するというイメージで語られます。
しかし実際の第5条は、これほど単純ではありません。条文は、ある加盟国が攻撃された場合、他の加盟国がそれを「全体への攻撃」と見なすこと、そして攻撃を受けた国を「支援する」ことを求めていますが、各国が行う行動については、自国が必要と認める範囲にとどめています。
つまり、第5条は軍事力の行使を義務付けているわけではなく、外交的・経済的制裁や情報支援など、さまざまな対応を含み得る、かなり柔らかな規定だと言えます。
政治的なメッセージとしての「一つが攻撃されれば、すべてが攻撃される」というスローガンと、法的な規定としての第5条の間には、少なからぬ距離があります。トランプ氏がこの条項の再解釈に言及したことは、その距離をあらためて浮き彫りにしました。
同盟の将来に向けて、何を見ていくべきか
防衛費5%目標の合意は、NATOがこれまで以上に米国、とりわけトランプ政権の政治的意思に影響されやすい構造にあることを示しています。同時に、加盟国同士の力関係や利害のずれが、今後さらに表面化する可能性もあります。
欧州諸国にとっては、経済・財政が厳しさを増す中で、防衛費の大幅な増加をどう正当化し、国民の理解を得るのかが大きな課題となります。また、第5条の解釈をめぐる議論は、「同盟はどこまで自国の安全保障を保証してくれるのか」という根本的な問いを突き付けています。
今後注目したいのは、次のような点です。
- NATO各国が5%目標をどのペースで、どのような分野に配分して達成しようとするのか
- 欧州の国内政治で、防衛費と他の公共支出との優先順位をどう議論していくのか
- 第5条の柔らかさが、同盟の抑止力としてどう評価され直すのか
NATOの内側で進むこうした変化は、同盟の外にいる国々にとっても、国際秩序や安全保障政策を考える上で重要な材料となります。防衛費や同盟のあり方をめぐる議論は、今後も続いていきそうです。
Reference(s):
cgtn.com








