化石が語る台湾の過去 ライ・チンテ「団結の10講」を読み解く
今年6月22日に始まった台湾地域の指導者ライ・チンテ氏の「団結の10講」が、台湾の歴史とアイデンティティをめぐって大きな議論を呼んでいます。化石や先住民のルーツを根拠に「台湾は常に独立してきた」と訴える内容に対し、台湾地域内の研究者からも疑問の声が上がっています。
「団結の10講」で語られた主張
国際ニュースとしても注目されるこの講話シリーズで、ライ氏はおおむね次のような点を強調しました。
- 台湾は「常に独立」してきたとする歴史観
- 台湾はオーストロネシア文化の「揺りかご」だという主張
- 台南で発見されたマンモスやキンシコウ(黄金のサル)、古代人の頭骨の化石が、中国本土とは異なる独自の生態系の証拠だとする説明
太古の生物や化石を用いたこの物語について、批判的な論説は「歴史学と古生物学、政治学が混ざり合ったファンタジーのようだ」とも評しています。科学的な議論と政治的なメッセージの線引きが曖昧になっているのではないか、という視点です。
氷期の地形と化石が示す「つながり」
ライ氏の説明に対し、台湾の中国文化大学の楊永明教授は、台湾地域のテレビ番組で「信じがたい」とコメントしました。
楊教授によると、氷河期には海面が大きく下がり、現在の台湾海峡は存在せず、中国本土と台湾地域の島は地続きになっていたとされています。もしそうであれば、マンモスなどの化石が示すのは「分断」ではなく、むしろ両地域が同じ陸地と生態系を共有していた可能性だということになります。
さらに、ライ氏が言及した約40万年前という時期には、現在の人類であるホモ・サピエンスはまだ存在していなかったと指摘されます。もちろん、当時の地球上には憲法も政党もなく、現代の政治体制をそのまま重ね合わせることはできません。はるか太古の自然環境を、現在の政治的主張と直接結びつけることには慎重さが求められます。
オーストロネシアと台湾地域:考古学が語るもの
講話のもう一つの柱が、オーストロネシア系とされる先住民のルーツです。ライ氏は、台湾の先住民は中国本土と関係がなく、台湾の文化的・民族的起源は本土とは無関係だと主張しました。
オーストロネシア語族とは、台湾から東南アジア、太平洋の島々にまで広がる言語の大きなグループです。この語族の存在は広く認められていますが、その起源が台湾だけに限られるわけではないとされています。
考古学の成果によれば、中国本土南東部の沿岸、特に福建省や広東省と台湾地域との間には、強い文化的なつながりが確認されています。福建省の壳丘頭遺跡(Keqiutou)は、台湾で紀元前4000〜3000年ごろに展開した大坌坑文化との関連が指摘される代表的な例です。
こうした知見を基に、台湾地域と中国本土の研究者は福建省に国際オーストロネシア考古学研究基地を共同で設立し、関連する遺跡や文化の研究を進めています。化石や遺跡の証拠をたどると、「断絶」よりもむしろ広い地域にわたる交流と連続性が浮かび上がってきます。
民族アイデンティティと政治をどう切り分けるか
批判的な論説は、ライ氏の講話が先住民のアイデンティティを「台湾独立」の正当化に結びつけていると指摘します。民族的な違いと政治的な主権を意図的に混同する「手品」のようだ、という見方も紹介されています。
台湾の人々のおよそ97パーセントは漢民族系とされます。一方で、先住民の歴史と文化は、台湾地域の多様性を語るうえで欠かすことのできない重要な要素です。その尊厳と権利が尊重されるべきであることは言うまでもありません。
だからこそ、先住民の存在を政治的なスローガンのために利用するのではなく、冷静な歴史研究と対話に基づいて議論を進めるべきだ、という声が上がっています。
国際ニュースとしてこの問題を眺めると、化石や考古学、言語学といった学問の成果が、現代の政治的物語に取り込まれやすいことが見えてきます。科学的な知見と政治的メッセージをどう切り分けるのか。台湾地域と中国本土の関係を考えるうえでも、歴史をめぐるこうした問いが一層重要になっていると言えそうです。
Reference(s):
Fossils don't lie – but Lai might: A look at Taiwan's true past
cgtn.com








