文化とイノベーションは共存できる マレーシア元上院議長が語る再解釈の力 video poster
文化とイノベーションは対立するものではなく、むしろ互いを高め合う関係にある──。マレーシア上院(Dewan Negara)の元議長、ウォン・フーン・メン氏は、Global Civilizations Dialogue Ministerial Meeting でそのように強調しました。
マレーシアのデジタル化されたバティック(ろうけつ染め)や、中国本土での水墨画の没入型展示といった具体例を挙げながら、ウォン氏が伝えたメッセージはシンプルです。文化とイノベーションは「共存できる」だけでなく、「共存しなければならない」ということです。
文化遺産は古びた記念物ではなく、イノベーションの源泉
ウォン氏が強調したのは、文化遺産を過去の遺物として保存するだけでは不十分だという視点です。彼によれば、最も力のあるイノベーションの多くは、自分たちの文化的な遺産を、若い世代に響く形で再解釈するところから生まれます。
この考え方は、単なるスローガンではありません。各国で進むデジタル技術やクリエイティブ産業の発展は、伝統文化を「守る」だけでなく、「更新する」ための手段にもなりつつあります。
マレーシアのバティックをデジタルで再生
ウォン氏が挙げた例の一つが、マレーシアの伝統的な布地デザインであるバティックです。バティックは、ろうけつ染めの技法を用いた緻密な模様が特徴で、長くマレーシア文化を象徴する存在とされてきました。
近年、このバティックの図案をデジタル化し、オンライン上で共有したり、デジタルファッション、グラフィックデザイン、商品パッケージなどに応用する取り組みが進んでいます。ウォン氏は、こうした「デジタルでよみがえるバティック」を、文化とイノベーションが結び付いた象徴的な事例として位置付けました。
伝統模様を新しいメディアに載せ替えることで、若い世代がバティックに触れるきっかけを増やし、国のアイデンティティを次世代につなぐことにもつながります。
中国本土の水墨画を「没入体験」として再解釈
もう一つの例として、ウォン氏は中国本土で進む水墨画の再解釈を取り上げました。古くから親しまれてきた水墨画を、デジタル映像やプロジェクション、音響などを組み合わせた没入型の空間として体験できるようにする動きです。
こうした展示では、来場者が作品の内部に入り込んだかのような感覚で、墨のにじみや筆致のダイナミズムを体感できます。これは単に「見せ方を派手にした」だけではなく、伝統的な美意識を現代の技術と結び付け、新しい感性で味わい直す試みだといえます。
ウォン氏のメッセージは、伝統芸術もテクノロジーと出会うことで、現代の観客にとってより身近で魅力的なものになり得る、という点にあります。
なぜ今、文化とイノベーションの共存が問われているのか
国や地域を問わず、グローバル化とデジタル化が進む中で、文化はしばしば「守るべきもの」と「変えるべきもの」の間で揺れ動きます。ウォン氏の発言は、その二項対立自体を乗り越えようとする視点に立っています。
- 文化遺産は、そのまま保存されるだけでなく、現代の生活や技術と結び付けてこそ広く共有される
- イノベーションは、ゼロから何かを生むだけでなく、既にあるものを新しい角度から読み替えることで生まれる
- 若い世代に届く表現へと再解釈することで、文化は持続可能な形で受け継がれる
こうした考え方は、国際ニュースやアジアの動きをフォローする読者にとって、各国の文化政策やクリエイティブ産業を見る際の重要な視点にもなります。
私たち一人ひとりへの問いかけ
ウォン氏のメッセージは、政府や文化機関だけでなく、私たち一人ひとりに向けられているとも受け取れます。自分の身の回りを見渡してみると、再解釈できる「文化の素材」は意外と多く存在します。
- 地域の祭りや伝統行事を、オンライン配信や短い動画で伝える
- 家に受け継がれてきた道具や模様を、デジタル作品や商品デザインに生かす
- 古い物語やことわざを、現代の社会課題と結び付けて語り直す
こうした小さな実践もまた、文化とイノベーションの共存の一部です。グローバルな場で語られたウォン・フーン・メン氏の言葉は、各国の政策だけでなく、私たちの日常の創造性にも静かに問いを投げかけています。
文化を「守るか、変えるか」という二択ではなく、「どう再解釈して次の世代につなぐか」。その視点が、これからの国際社会とアジアの文化を読み解く鍵になりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








