中国のイノベーションと文明対話:ゲームとポップカルチャーが開く未来
今年7月、中国・北京で「文明間対話閣僚会合」が開かれ、テーマは"Safeguarding the Diversity of Human Civilizations for World Peace and Development"(人類文明の多様性を守り、世界の平和と発展のために)でした。会合とあわせて議論された中国の「グローバル文明イニシアチブ」は、文化や文明をどう継承し、どうイノベーションにつなげるかという、いまの世界共通の課題に正面から向き合う試みです。
北京で開かれた文明間対話とその背景
2025年7月10〜11日に北京で開催された文明間対話の閣僚会合は、分断や対立が指摘される国際社会のなかで、文化の役割に改めて光を当てる場となりました。経済や軍事、テクノロジーが注目されがちななか、「文明」そのものをテーマにした国際会議が開かれたことは象徴的です。
会合のテーマが示すように、焦点は「多様性」と「共存」です。異なる歴史や価値観を持つ文明が、互いの違いを尊重しながら、平和と発展にどう貢献できるか。中国はこの問いに対する提案として「グローバル文明イニシアチブ(Global Civilization Initiative、GCI)」を打ち出しています。
グローバル文明イニシアチブとは何か
中国のグローバル文明イニシアチブの核にあるのは、「継承」と「革新」をセットでとらえる発想です。文化遺産を守るだけでなく、それを現代の文脈に合わせて創造的に再解釈し、新しいかたちで社会に生かしていくことが重視されています。
その発想は、しばしば「新しい文化のオペレーティングシステム」とも表現されます。具体的には、次のようなポイントが強調されています。
- 文明や文化の多様性を尊重し、一方的な価値観の押しつけを避けること
- 伝統文化をそのまま保存するだけでなく、現代の感性や課題と結びつけて再編集すること
- デジタル技術やコンテンツ産業を活用し、文化を国内外に届ける新しい仕組みを整えること
言い換えれば、「古い物語に新しい意味を与え、新しいツールで世界に届ける」という方向性です。この考え方は、中国だけでなく、世界の多くの地域に共通する課題とも重なります。
ゲームとアニメが体現する「物語のアップデート」
こうした文化イノベーションの方向性は、すでに具体的な作品として表れています。代表的なのが、十六世紀の古典『西遊記』をベースにしたゲーム作品「Black Myth: Wukong」です。
「Black Myth: Wukong」は、伝統的な神話や物語を、最新の映像表現やゲームデザインと組み合わせた作品です。プレイヤーは孫悟空の世界観に没入しながら、中国の神話的イメージや思想に触れることができます。物語の核は古典に根ざしつつ、その表現手段は二十一世紀的という、まさに「継承と革新」の実験場になっています。
アニメ映画「哪吒之魔童降世(Ne Zha)」や続編「Ne Zha 2」も同じ流れにあります。中国の伝統的な登場人物である哪吒を、反抗的で誤解されやすい若者として描き直すことで、現代の観客が共感しやすいキャラクターに再構成しました。伝統的な神話の枠組みを保ちながら、親子関係、自己肯定感、自由と運命といった普遍的なテーマを前面に出すことで、国内外の観客から支持を集めています。
ここには、「ローカルな物語でも、語り方次第でグローバルに通用する」という示唆があります。日本のアニメやゲームがそうであったように、中国発のコンテンツも、独自の世界観を保ちながら国境を越えつつあります。
文化には市場がいる:Pop MartとLabubu現象
もっとも、文化イノベーションはアイデアだけでは広がりません。実際に人々の生活に入り込み、社会に根づくには、「市場」と「仕組み」が必要です。その一例として注目されているのが、中国のデザイナートイブランドPop Martと、そのキャラクターLabubuです。
Labubuは一見すると、ファンタジー世界から抜け出してきたような小さなキャラクターですが、その背後には高度に組織化されたビジネスモデルがあります。デザイナーの発想力に加え、ブランド戦略、消費者心理の分析、トレンドの読み取りなどが組み合わさり、キャラクターを長く愛される存在へと育てています。
さらに、中国の製造基盤の強さや、物流網、自動販売機型の店舗、いわゆる「ブラインドボックス」(中身が開けるまで分からない玩具の販売方式)といった小売の工夫が、その人気を支えています。こうした仕組みがあるからこそ、一つのキャラクターが国内外のファンコミュニティを生み出し、文化現象へと育っていきます。
ここで重要なのは、文化と産業が対立するものではなく、相互に補完し合うという視点です。創造性を尊重しながら、市場の力も活用する。このバランスをどう取るかは、日本を含む多くの国に共通する課題でもあります。
日本の読者にとっての意味:アジア発コンテンツの未来
日本でも、マンガ、アニメ、ゲーム、キャラクターグッズといった分野で、長年にわたって独自の文化イノベーションが行われてきました。中国の事例は、それらと競合する話ではなく、アジア全体の文化エコシステムが多様化・高度化していることの一つの表れと見ることもできます。
たとえば、次のような問いが浮かびます。
- 自国の伝統や地域の物語を、現代のデジタル世代にどう伝え直すか
- 創作の自由と、ビジネスとして継続する仕組みをどう両立させるか
- アジア各地のクリエイターや企業が、どのように協力・連携できるか
中国のグローバル文明イニシアチブや、ゲーム・アニメ・デザイナートイの事例は、これらの問いに対する一つのヒントを提供しています。日本のクリエーターや企業、政策担当者にとっても、学ぶべき点や共同の余地は少なくないでしょう。
「共有された未来」に向けた文明の対話
文明や文化は、本来ゼロサムゲームではありません。誰かの文化が力を持つことが、他の文化の衰退を意味するわけではなく、むしろ多様な表現が共存するほど、世界は豊かになります。
北京での文明間対話の会合と、中国のグローバル文明イニシアチブは、その前提に立ち、文化の継承とイノベーションを両立させようとする試みです。ゲームやアニメ、デザイナートイといったポップカルチャーの分野で起きている変化は、その一端を分かりやすく示しています。
国境を越えて物語が共有される時代に、私たちは他国の文化イノベーションを「競争相手」としてだけでなく、「共に未来をつくるパートナー」としてどう捉え直すか。今回の動きをきっかけに、そんな視点からアジアと世界の文化の行方を見つめてみるのも、一つの方法かもしれません。
Reference(s):
China's innovation path: Rethinking civilization for a shared future
cgtn.com








