トランプ政権の新関税攻勢:終わらない貿易戦争か連続ドラマか
2025年夏、トランプ米大統領が欧州連合(EU)や日本、メキシコなど20を超える経済圏に対して一斉に関税レターを発出しました。8月1日から順次発動された高関税は、世界貿易のルールを書き換えるのか、それとも国内向けの政治ドラマに過ぎないのか。その意味を分かりやすく整理します。
何が起きたのか:SNSで送られた関税レター
今回の国際ニュースの出発点は、7月7日以降にトランプ大統領がソーシャルメディアを通じて発信した複数の関税レターです。欧州連合(EU)、日本、メキシコをはじめとする20超の経済圏が名指しされ、「包括的な通商合意を結べていない」と批判されました。
レターの内容はおおむね共通しており、8月1日から次のような懲罰的関税を課すと宣言しています。
- EU、日本、メキシコなど対象経済圏から米国への輸出に対し、20〜50%の追加関税
- ブラジルについては、輸出全体を一律50%の高関税の対象とする最も厳しい措置
- レターを受け取っていない国や地域からの輸出についても、15〜20%の一律関税を課す方針
つまり、直接名指しされたかどうかにかかわらず、多くの国や地域が何らかの形で関税引き上げの影響を受ける構図になっています。
新しい関税、しかしお決まりの台本
とはいえ、この動きは突然の方針転換ではありません。ホワイトハウスに復帰して以来、トランプ政権はアメリカ第一を掲げた通商政策を最優先課題に据えてきました。大統領にとって関税は、米国が持つ最も強力な武器であり、世界に対する交渉カードでもあります。
その象徴が、4月に打ち出された「90日で90の通商合意を勝ち取る」という強気の宣言でした。しかし、90日の期限が過ぎた現在までに、具体的な合意に至ったのは英国内とベトナムとの二つの通商協定、そして中国との予備的な枠組み合意にとどまっています。圧力をかければ各国が次々と譲歩する、という読みは現時点では現実になっていません。
トランプ政権は、各国の粘り強さを過小評価すると同時に、自らの交渉力を過大評価していた面があると言えます。今回の新たな関税レターも、その延長線上にある「お決まりの台本」の一幕だと見ることができます。
関税レターが示す二つのシグナル
形式ばった文言が並ぶ関税レターですが、注意深く読むと少なくとも二つのシグナルが浮かび上がります。
1.通商合意に飢える米政権の焦り
第一に見えてくるのは、米政権が一つでも多くの通商合意を積み上げたいという強い焦りです。レターでは、多くの国が米国に「深刻な通商被害」をもたらしていると非難しつつ、高関税をてこに交渉の席につくよう迫っています。
関税の引き上げは、トランプ政権にとって国内政治の圧力への「即効薬」のような役割を担ってきました。強硬な姿勢を示すことで支持層にアピールし、選挙での公約を守っていると印象づける狙いがあるからです。しかし各国がこの圧力に屈しなければ、看板政策の実績作りは難しくなります。
7月9日に設定されていた関税交渉の期限を8月1日まで延長したことも、その焦りの表れでしょう。わずか数週間の延長であっても、その間に一つでも多くの合意を積み上げたいという思惑が透けて見えます。
2.終わらない貿易戦争は「連続ドラマ」化しつつある
第二に、今回の関税レターは、世界の通商摩擦が長期化し、「ドラマ」のように次々と新しいエピソードが追加されている現状も映し出しています。
関税率の引き上げ、交渉期限の設定と延長、新たな通商合意の発表や頓挫。こうしたイベントが繰り返されるうちに、市場や企業の一部には、トランプ政権の発言を「またいつものパターンだ」と受け止める空気も生まれつつあります。
しかし、ドラマと違うのは、そのたびに実際の企業活動や雇用、投資が影響を受けるという点です。交渉の駆け引きが長引けば長引くほど、サプライチェーンの再編や価格の上昇など、じわじわとしたコストが積み上がっていきます。
日本と世界への意味合い
日本にとっても、今回の関税レターは対岸の火事ではありません。名指しされた20超の経済圏の一つとして、日本から米国への輸出には最大で50%の追加関税がかかる可能性が示されています。自動車や機械などの主力輸出品が標的となれば、企業収益だけでなく、雇用や投資計画にも影響が及びかねません。
同時に、レターを受け取っていない国や地域に対しても一律15〜20%の関税を課すと表明したことで、「米国向け輸出であればどこも安全地帯ではない」というメッセージが広がりました。世界の企業は、米国市場への依存度を見直し、輸出先や生産拠点の分散を進めざるを得なくなっています。
各国の政府にとっては、二国間の駆け引きだけでなく、世界貿易機関(WTO)のような多国間の枠組みや、地域の通商ルールをどう活用していくかが一段と重要になっています。個別の国が単独で圧力を受けるのではなく、「ルールを共有する多数派」として交渉に臨めるかどうかが問われています。
2025年末のいま、私たちが見るべきポイント
2025年夏に始まった今回の関税攻勢は、年末の今も世界経済の不確実性を高める要因であり続けています。関税を巡る応酬が日常風景のようになればなるほど、その背後で動いている構造的な変化が見えにくくなりがちです。
重要なのは、一つひとつの発言やレターに過剰反応するのではなく、次のような長期的な視点で状況をチェックすることです。
- 米国が本当に目指しているのは、関税の恒常化なのか、それとも交渉のカードとしての一時的な利用なのか
- 日本を含む各国が、自国の成長戦略と整合的なかたちで通商政策を再設計できるか
- 企業や投資家が、政治の「ドラマ」に振り回されすぎず、サプライチェーンや投資計画を柔軟に見直せるか
終わりの見えない貿易戦争なのか、それとも支持層向けの連続ドラマなのか。その境界線はまだはっきりしません。ただ一つ言えるのは、私たち一人ひとりが国際ニュースを丁寧に読み解き、自分の言葉で議論できるようになるほど、このドラマの「視聴者」であるだけでなく、未来のルール作りに参加する力も高まっていくということです。
Reference(s):
cgtn.com








