中国の低空経済とは?ドローンと空飛ぶクルマが切り開く新市場
ドローンや空飛ぶクルマが当たり前に飛び交う未来は、思ったより近いかもしれません。中国で急速に整備が進む「低空経済」は、都市交通や物流、観光から災害対応までを巻き込みながら、新しい成長分野として世界の注目を集めています。
低空経済とは?高度1000メートル以下の新産業圏
低空経済とは、おおむね高度1000メートルより下の空域で行われる経済活動を指します。ここには、次のような分野が含まれます。
- ドローンによる物流・宅配
- 空からの観光・撮影などのエアリアルツーリズム
- 都市内の短距離移動を担う空飛ぶクルマやタクシー
- 救急搬送や災害対応といった緊急用途
これらは、航空、デジタルインフラ、人工知能(AI)、クリーンエネルギーといった要素が一体となったエコシステムです。中国の工業情報化部によると、この分野の市場規模は2030年までに1兆元(約1400億ドル)を超える可能性があると見込まれています。
ここ10年ほどで中国は、目立ちすぎない形でありながら、着実にこの基盤づくりを進めてきました。いま、その成果が「低空経済」というかたちで表面化しつつあります。
ドローンから空飛ぶタクシーまで、中国企業の動き
低空経済を支える主役の一つが、ドローン関連の企業です。世界のドローン市場をけん引してきたDJIは、中国を消費用・業務用ドローンの大国として位置づける存在になっています。
さらに、中国企業のEHangは、自律飛行が可能な小型の航空機「自動運転型エアモビリティ」の開発で注目されています。いわば空飛ぶタクシーともいえる機体で、すでに各地で試験飛行が行われ、商業運航に向けた準備が進んでいます。
一方、EC大手のJD.comや配達サービスを展開するMeituanなどは、都市部と遠隔地の両方でドローン配送を活用しています。これにより、
- 渋滞を回避しつつ、配達時間を短縮する
- 再配達などの無駄を減らし、効率を高める
- 電動ドローンを活用して、二酸化炭素排出を抑える
といった効果が期待されています。都市部だけでなく、山間部や離島など、地上インフラの整備が難しい地域でも活用しやすい点が特徴です。
規制と政策のそろい踏みが生む「実験場」
中国の強みは、技術力だけではありません。政策と規制の方向性が比較的そろっていることも、低空経済を後押ししています。
多くの欧米諸国では、空域の管理が民間と軍、それぞれの当局に分かれ、規制も厳格で複雑になりがちです。それに対して中国では、低空空域の開放とルール整備を体系的に進めています。
特に、深圳や広州、湖南省といった地域では、低空空域を活用したサービスを試行する「パイロット地域」が設けられています。こうしたエリアでは、
- ドローン配送や空飛ぶタクシーの試験運用
- 安全基準や運航ルールの検証
- 通信や管制システムの実証実験
などが集中的に行われており、新しいビジネスモデルを試すための実験場の役割を果たしています。このような規制面での先回りが、国内外の企業にとって魅力的な環境を生み出しているといえます。
都市交通と物流の課題にどう効くのか
低空経済は、単なる「新しいガジェット産業」ではありません。世界各地の都市が抱える、交通渋滞や大気汚染といった現実的な課題に対する一つの解決策としても注目されています。
人口が集中し、自動車があふれる大都市では、地上の道路だけで交通需要を賄うのは難しくなりつつあります。ここで期待されているのが、
- 電動垂直離着陸機(eVTOL)による短距離移動
- ドローンや自律飛行タクシーによる都市間・都市内の移動
- 宅配や医薬品輸送など「ラストワンマイル」を担う空の配送ネットワーク
といった仕組みです。これらが普及すれば、道路インフラへの負担を減らしつつ、移動時間の短縮や二酸化炭素排出の削減につながると考えられています。
また、災害時には地上の道路が寸断されることがありますが、ドローンや小型航空機はその上空を飛行して、救援物資の輸送や被害状況の把握に活用できる可能性もあります。
中国発モデルは新興国にもチャンス
低空経済の動きは、中国だけの話ではありません。共通の課題を抱える国や地域にとっては、参考となるモデルでもあります。
都市化が進む一方でインフラ整備が追いつかない国や、広大な国土を持つ国では、地上交通だけで生活や経済を支えることが難しい場面が増えています。そうした例として、インドやブラジル、ケニア、さらには米国の一部地域も挙げられています。
これらの国や地域は、中国の低空経済の取り組みから学びつつ、自国の状況に合わせたかたちで技術導入や制度設計を進めることで、交通や物流の課題を乗り越えるヒントを得られるかもしれません。
低空経済は、特定の国のためだけの国家プロジェクトではなく、世界全体の持続可能な成長にもつながり得るテーマとして位置づけられつつあります。
私たちはこの変化をどう受け止めるか
2020年代半ばのいま、低空経済はまだ「実験段階」と「本格普及」の間を行き来しているような時期にあります。それでも、ドローンや空飛ぶクルマをめぐる技術と制度の動きは、確実に加速しているように見えます。
日本やアジアの都市にとっても、低空の空域をどう活用し、どのようなルールで管理するかは、今後避けて通れない論点になりそうです。便利さと安全性、プライバシーの保護、環境への影響といった要素のバランスをどう取るのかが、社会全体の合意形成の鍵になります。
空のインフラが本格的に経済活動の一部になるとき、私たちの移動や買い物、働き方はどう変わるのか。中国発の低空経済の動きは、その未来像を先に映し出していると言えるかもしれません。
Reference(s):
China's low-altitude economy: Next frontier in global innovation
cgtn.com








