中国経済を動かす「新質生産力」とは イノベーションで成長の質を高める
リード:新しい生産力が中国経済の次の章を開く
中国経済を語るとき、最近キーワードとして頻繁に登場するのが「新質生産力」です。これは単なるスローガンではなく、中国が今後の成長エンジンをどこに置き、どのように経済構造を変えていくのかを示す重要なコンセプトです。
2025年7月30日に開かれた中国共産党中央政治局会議では、同年10月に北京で第20期中央委員会第4回全体会議を開催する方針が決定されました。こうした中で、中国は第15次五カ年計画期間の「重要な段階」に入りつつあると位置づけ、新質生産力の育成を戦略の中心に据えようとしています。
「新質生産力」とは何か
新質生産力とは、新たな科学技術革命の波を背景に、生産要素の組み合わせ方や生産の組織の仕方そのものが高度化した状態を指します。単に機械を新しくするという話ではなく、産業構造やビジネスモデル、働き方そのものが変わることを意味します。
中国では、この新質生産力を「高品質発展」を実現するための中核と位置づけています。習近平総書記は、上海で開催された第15次五カ年計画期の経済・社会発展に関するシンポジウムで、「各地域の実情に応じた新質生産力の発展を、より戦略的に重要な位置に引き上げるべきだ」と強調しました。
新質生産力の特徴として、次のような点が挙げられます。
- 科学技術イノベーションを原動力とすること
- 新しい産業やビジネスモデルの登場を伴うこと
- 生産要素(人材、資本、技術、データなど)の組み合わせ方が根本から変わること
イノベーションが牽引する中国経済
新質生産力の中心にあるのが、科学技術イノベーションです。イノベーション駆動の発展を進めることができれば、経済と社会全体の方向性を「牛の角をつかむ」ようにしっかりと握ることができる、というのが中国指導部の基本認識です。
世界知的所有権機関(WIPO)が公表した「グローバル・イノベーション・インデックス2024」では、中国は世界11位にランクインしました。トップ30の中で唯一の中所得経済として存在感を示した形です。
近年、中国ではハイテク分野で着実なブレークスルーが続いています。例えば、
- 大規模AIモデル「DeepSeek」をはじめとする人工知能分野
- 「マラソン」とも表現されるヒューマノイドロボット開発競争
- 宇宙開発分野
- 自動運転技術
といった最前線の取り組みが国内外の注目を集めています。これらはそれぞれ単独のプロジェクトというだけでなく、新しい産業クラスターやサプライチェーンの形成に結び付き、新質生産力の厚みを増す動きと位置づけられます。
生産要素の変化:データが「新しい資源」に
新質生産力を語るうえで重要なのが、生産要素の変化です。生産要素とは、経済活動を支える基本的な資源のことで、これまでは労働、土地、資本などが代表的でした。中国はここに、
- 新素材
- 新エネルギー
- データ資源
といった新しい要素を本格的に組み込もうとしています。
特にデジタル経済の時代において、データは「新たな生産要素」として、基盤システムから最終的なサービス・製品に至るまで、バリューチェーン全体を支える役割を担い始めています。現在、中国ではデジタル経済の中核産業の付加価値が国内総生産(GDP)の約1割を占めるとされ、先進国と比べても相対的に高い水準にあります。
新素材や新エネルギーの活用も、生産プロセスの効率化や環境負荷の軽減だけでなく、新しい産業の創出につながると期待されています。これらの要素が有機的に結び付くことで、従来とは異なる生産方式や企業組織のあり方が生まれつつあります。
「新質生産力」が示すこれからの論点
中国の新質生産力戦略は、中国経済の持続的成長を目指す取り組みであると同時に、世界経済やアジアの産業地図にも影響を与える可能性があります。AI、大規模データ、ロボット、宇宙、自動運転といった分野での動きは、日本を含む周辺国にとっても競争と協力の両面の課題を投げかけます。
一方で、新質生産力の育成は、単なるハイテク開発競争ではありません。各地域の実情に応じた産業構造の転換、人材育成、社会制度のアップデートなど、時間をかけた調整も必要になります。中国が掲げる「イノベーション駆動」の経済モデルがどこまで実を結ぶのかは、2020年代後半の世界経済を考えるうえで、注視すべきテーマの一つと言えます。
ニュースを追う側としては、「新質生産力」というキーワードを手掛かりに、中国発の技術や産業動向を中長期的な視点で見ていくことが、今後ますます重要になりそうです。
Reference(s):
Charting China's innovation path with new quality productive forces
cgtn.com








