中国経済の新たな設計図:デュアル循環とサービス主導の成長
中国の指導部が今年7月30日に開いた会議で、国内需要とサービス産業を軸にした新しい成長戦略が改めて打ち出されました。14次五カ年計画の最終年である2025年のいま、中国経済は「輸出主導」から「サービス主導・消費主導」への大きな転換点に立っています。本稿では、そのキーワードとなる「デュアル循環」戦略とサービス経済シフトを、日本語ニュースとして分かりやすく整理します。
7月30日の会議と第4回全体会議
今年7月30日に開かれた中国共産党中央政治局会議では、最近の経済運営が総括されるとともに、今後の経済運営の「設計図」が示されました。
この会議では、第20期中国共産党中央委員会第4回全体会議を北京で10月に開催する方針も決定されていました。第4回全体会議は、2026〜2030年を対象とする第15次五カ年計画の方向性を占う場としても位置づけられ、中国経済の中長期的な転換を議論する節目となります。
14次五カ年計画(2021〜2025年)の最終年にあたる2025年は、「世界の工場」と呼ばれた輸出主導モデルから、よりバランスの取れたイノベーション主導の経済への移行を固める重要な年とされています。その中心に据えられているのが、サービス分野を軸とした消費ブームの喚起です。
輸出主導モデルの限界とデュアル循環戦略
改革開放が始まった1978年以降、中国経済はグローバルなサプライチェーンへの深い統合を通じて成長してきました。2001年の世界貿易機関(WTO)加盟以降、その勢いはさらに加速し、一時は輸出と輸入を合計した貿易額が国内総生産(GDP)の6割超を占めるほどでした。
しかし、この「貿易超大国」モデルは、近年、これまでになかった圧力にさらされています。米国によるハイテク分野の制限措置や、欧州の「デリスキング(脱リスク)」の動きなど、地政学的な緊張が高まる中で、世界のサプライチェーンは市場原理だけではなく政治的な判断によっても再編されつつあります。
かつての「過度なグローバル化」の時代を支えた、モノ・カネ・知識の自由な移動は揺らぎつつあります。一方で、歴史を振り返ると、活発な国際貿易は世界の平和と繁栄の基盤とされてきました。とくに規模の小さい経済にとっては、すべてを国内で生産するのではなく、得意分野に特化して交換する仕組みが不可欠です。
こうした中、中国は「デュアル循環(双循環)」と呼ばれる新戦略を2020年に打ち出しました。これは、国内の大きな市場を生かした「国内循環」を経済の主体としつつ、国際貿易や投資から得られる「国際循環」との相互補完を図る枠組みです。外需への過度な依存を減らしながらも、より開かれたかたちでグローバル化を推進していく、というメッセージが込められています。
中国は、国連の産業分類にあるすべての産業カテゴリを持つ唯一の国とされ、約14億人の巨大な国内市場を抱えています。こうした条件は、世界経済の分断リスクが高まるなかでも、経済運営の柔軟性を高める「クッション」になり得ます。同時に、中国側は、より深く包摂的なグローバリゼーションを維持していく責任も意識しており、自国経済のバランスを整えることをその出発点と位置づけています。
家計消費40%の壁——貯蓄大国から消費大国へ
デュアル循環戦略の背景には、家計消費の水準に対する問題意識があります。2024年の中国の家計最終消費はGDPの約40%にとどまりました。これは、一般に先進国で見られる55〜70%という水準と比べると低く、中国の人びとが所得の大きな部分を貯蓄に回していることを意味します。
中国全体でみても、高い貯蓄率は長年の特徴となってきました。マクロ経済の視点から見ると、国全体の純貯蓄と貿易黒字は「同じコインの裏表」です。輸出が輸入を上回れば、その超過分は外国資産というかたちで蓄えられ、結果として経済全体の貯蓄が増えることになります。
こうした構図にも変化の兆しが見えつつあります。今後は、家計がこれまで積み上げてきた貯蓄を取り崩し、その一部を消費に回すことで、国内需要の拡大を支えることが期待されています。
「財の黒字・サービスの赤字」が示すミスマッチ
2024年、中国はモノの貿易で7680億ドルの黒字を計上する一方、サービス貿易では2290億ドルの赤字となりました。財の黒字とサービスの赤字が同時に続くという、この対照的な姿は、中国経済の「強み」と「伸びしろ」を映し出しています。
一方では、製造業が国際市場で高い競争力を保ち、「世界の工場」としての地位はいまも健在です。他方で、医療や高齢者向けケア、フィンテックやクラウドコンピューティングといったサービス分野は、急速に高まる国内の需要に十分には応え切れていません。
今後の成長の核心は、こうしたサービス需要を、国内でどこまで満たせるかという点にあります。家計消費の拡大が、単なるモノの購入だけでなく、高品質なサービスの利用につながるかどうかが、中国の次の成長ストーリーを形づくることになりそうです。
サービス主導型経済へのカギ——構造改革の行方
サービス主導型の経済への転換には、土台となる構造改革が欠かせません。今回の政治局会議の指示内容からは、こうした改革に向けた方向性がにじみ出ていると見ることができます。
2026〜2030年を対象とする第15次五カ年計画では、とくに「高付加価値サービス」を支える基盤づくりが大きなテーマになるとみられます。具体的には、次のような点が焦点になりそうです。
- 高度なサービス提供を担う専門人材の育成や教育制度の整備
- フィンテックやクラウドサービスを支えるデジタルインフラとデータ環境の強化
- 医療や介護など、サービス需要が急増する分野を支える社会保障や制度設計
これらはすべて、短期間で成果が出るテーマではありません。だからこそ、五カ年計画といった中期的な枠組みの中で、継続的に取り組む必要がある分野だと言えます。
世界経済と日本にとっての意味
中国経済のデュアル循環戦略とサービス主導型への転換は、世界経済全体にもいくつかの意味を持ちます。
第一に、「脱グローバル化」が語られるなかでも、中国が国内循環を強化しつつ、より開かれたかたちで国際循環を維持しようとしている点です。これは、サプライチェーンの再構築が進むなかでも、国際貿易と投資のプラットフォームとしての役割を保とうとする動きと重なります。
第二に、成長ドライバーが輸出からサービス主導の消費へと移ることで、世界に対する需要の中身も変化していきます。モノだけでなく、金融、デジタル、医療、文化といったサービス分野での連携やビジネス機会が増える可能性があります。
日本にとっても、中国のサービス需要の拡大は、競争と同時に協力の余地を広げる要素になり得ます。アジアの隣国として、どの分野で補完関係を築けるのか、あるいは自国の強みをどう磨くのかを考える材料にもなるでしょう。
これからのウォッチポイント
2025年も残りわずかとなるなか、中国経済の新たな設計図を考えるうえで、今後注目したいポイントを整理しておきます。
- 第15次五カ年計画で、デュアル循環とサービス経済がどのように位置づけられるか
- 家計の貯蓄率と消費の比率が、今後数年でどの程度変化していくか
- モノの貿易黒字とサービス赤字のギャップが縮小し、経済構造のバランスがどう変わるか
- 地政学的な緊張が続くなかで、中国がグローバル化の推進役としてどのような役割を果たしていくか
2025年の終わりに立つ今、中国経済は「世界の工場」から「サービス大国」へ向かう長い移行の途上にあります。変化のスピードは決して一様ではありませんが、その方向性はすでに示されています。
日本の読者にとっても、この動きは自国の産業戦略や働き方、将来の投資やキャリア選択を考えるうえで無関係ではありません。国際ニュースを追うとき、短期的な景気の波だけでなく、こうした長期の構造変化というレンズを一つ加えてみると、世界の見え方が少し違ってくるかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








