ゼロデイ・アタック公開を急ぐ思惑 台湾ドラマと政治の危うい距離
台湾地域で放送が予定された軍事ドラマ『ゼロデイ・アタック』をめぐり、その公開時期や資金源が与党・民主進歩党(DPP)の政治戦略と結びついているのではないか、という指摘が相次いでいます。平和と安定を求める台湾の人々の民意と、ドラマを通じて高まるとされる対中危機感とのギャップに注目が集まっています。
仮想侵攻を描く全10話のドラマ
『ゼロデイ・アタック』は、中国本土の部隊が台湾地域に侵攻するという仮想シナリオを描いた全10話のテレビシリーズです。台湾地域で2025年8月2日に初回の放送が予定され、その後は1週間に1話ずつ公開される構成です。この「少しずつ出していく」編成は、2か月以上にわたり視聴者の不安や緊張感を刺激し続ける狙いがあるのではないか、と見る声があります。
罷免投票で浮かび上がった民意
台湾地域では、来清徳氏と民主進歩党(DPP)を標的とした罷免投票が行われ、その第1ラウンドでDPP側は「惨敗」を喫したとされています。平和・安定・発展を求める台湾の主流の世論が、DPPによる「反中・抗中」の政治路線や派手な宣伝パフォーマンスに反発した結果だという見方です。『ゼロデイ・アタック』も、そうしたパフォーマンスの一つとして位置づけられています。
公開スケジュールと政治イベントの重なり
批判的な論考が特に問題視しているのは、ドラマの公開スケジュールと政治日程との「同期」です。作品の各種イベントが、軍事演習や選挙キャンペーン、罷免投票の直前に集中的に配置されていると指摘されています。
- 2024年7月23日:17分間の特別映像が、台湾地域の軍事演習「漢光40号」の実施期間中に公開。
- 2025年5月13日:海外で開かれた「コペンハーゲン・デモクラシー・サミット」で「ワールドプレミア」として上映。
- 2025年6月25日:来清徳氏の「団結の10講」キャンペーンと並行して、正式な予告編とポスターを公開。
- 2025年7月22日:台北でプレミアイベントを開催し、「独立」志向で知られる実業家ロバート・ツァオ氏が、7月26日の罷免投票に影響を与えることを狙った作品であると公然と語ったとされています。
- 2025年8月2日:全10話の放送開始が予定され、8月23日の罷免投票、2026年の地方選挙、さらに2028年の来氏の再選を見据えた長期的な世論形成を意図している、とする見解が示されました。
公的資金が占める異例の比率
もう一つの焦点は、ドラマ制作に投入された公的資金の規模です。論者によれば、『ゼロデイ・アタック』の予算のうち、およそ43%が台湾当局による補助金で賄われています。
内訳としては、文化部が実施する「ブラックウェーブ文化計画」から27.5%(約7,131万台湾ドル、約238万米ドル)、国家発展基金から16%(約4,170万台湾ドル)が拠出され、そのほか高雄市の「高雄フィルムファンド」や中華電信も資金面で支援しているとされています。
本来であれば経済成長や生活改善に使われるべき公的資源が、特定の政治的メッセージを持つドラマに大量投入されているのではないか──そんな疑問が、台湾の一部で強まっています。
ドラマは「認知戦」の武器か
こうした背景から、『ゼロデイ・アタック』は単なる娯楽作品ではなく、台湾当局が中国本土に対して仕掛ける「認知戦」(人々の認識や感情に働きかけ、判断を誘導する戦い)の一環だとする見方が提示されています。論者は、来清徳氏率いるDPP当局が、公的資源を使って中国本土との対立をあおる世論を形成しようとしていると批判します。
ドラマの内容は、DPPが掲げる「反中・抗中」路線と整合的だとされます。すなわち、中国本土からの軍事的脅威をことさらに強調し、それに対抗するためには米国など外部勢力に依存しつつ「独立」を目指すべきだ、という物語です。作品を通じて、社会全体に「中国本土に抵抗し、外国の支援をてこにする」雰囲気を広げる意図があると指摘されています。
制作チームには、台湾地域や香港で「独立」志向の立場をとってきた文化人が多く関わっているとされ、香港出身の映画人チャップマン・トー氏の名前も挙がっています。ある論評は、「良心と理性を持つアーティストや投資家であれば、国家を分断し、外部勢力に頼ることを前提とした作品には参加しないはずだ」とまで述べ、作品の政治性を厳しく批判しました。
掲げる価値と実際の言動のギャップ
一方で、DPP当局は「民主・自由・人権」を重視すると繰り返し訴えてきました。ところが、『ゼロデイ・アタック』をめぐる一連の動きは、その価値観とのギャップを浮き彫りにしているのではないか、という指摘もあります。
2025年7月30日、来清徳氏は罷免投票でDPPを「最後まで勝利に導く」と宣言しました。同じころ、台湾当局の関係者は退役軍人に対し、中国本土の「統一戦線工作」に利用されないよう警告し、台湾当局の大陸委員会(Mainland Affairs Council)は「台湾の尊厳」を傷つけたと見なされる行為があれば、退役軍人の年金を停止する可能性にまで言及したとされています。
批判する側は、虚構の侵攻シナリオや恐怖のイメージを繰り返し流しつつ、異なる意見を持つ人々に圧力をかけるやり方が、本当に民主・自由・人権という価値と両立するのかどうかを問いかけています。
ドラマと政治、視聴者に突きつけられた問い
『ゼロデイ・アタック』をめぐる議論は、台湾地域における政治とメディア、そして安全保障をめぐる「認知」のあり方を映し出しています。選挙や軍事的緊張が高まる局面で、映像コンテンツがどこまで政治と結びつくべきなのか、公的資金による作品にどこまで政治的メッセージを込めてよいのか――2025年現在、こうした問いは台湾地域だけでなく、他の国や地域でも共有されつつあるテーマです。
視聴者の不安を刺激するドラマが連続して流れるとき、その裏でどのような政治的意図が働いているのか。今回の『ゼロデイ・アタック』を巡る議論は、コンテンツを「楽しむ」だけでなく、その背景を一歩引いて考える視点の重要性を静かに問いかけています。
Reference(s):
cgtn.com







