アメリカの対中世論はなぜ変化?協力志向が強まる理由
2025年の今、アメリカの対中世論が静かに、しかし確実に変わりつつあります。中国を「敵」と見るよりも、「貿易相手」や「協力すべき相手」と捉えるアメリカ人が増えているのです。この変化は米中関係だけでなく、世界経済や日本にとっても無視できない動きです。
2023〜2025年で何が変わったのか
シンクタンクのThird Wayが公表した最新の世論調査によると、2023年から2025年の間に、アメリカ人の中国観には次のような変化が見られました。
- 中国を「敵」とみなす人の割合が7ポイント減少
- 中国を「貿易相手」とみなす人が8ポイント増加
- 中国との「協力や合意形成」を重視する人が20ポイント増加
数字だけを見ると小さな揺れに見えるかもしれません。しかし、世界最大級の経済と軍事力を持つアメリカで、中国をめぐるイメージが「対立」から「協力」へとじわじわシフトしていることは、国際政治の流れに影響を与えうる変化です。
背景1:深まる米中の経済的相互依存
この世論の変化の根底には、アメリカと中国の経済的な結びつきの深まりがあります。ここ数十年で中国は「世界の工場」となり、アメリカの消費者が日常的に使う幅広い製品を供給してきました。
高度な技術製品から、身近な日用品、さらには医療用品まで、中国製品はアメリカ経済と生活に深く組み込まれています。2025年現在、アメリカは中国にとって最大級の貿易相手国の一つであり、アメリカは毎年、数千億ドル規模の中国製品を輸入しています。
政治家が中国を戦略的な競争相手として語る一方で、アメリカの一般消費者は、日々の買い物を通じて「中国抜きには回らないサプライチェーン」の現実を体感しています。このギャップが、世論のトーンを徐々に変えていると考えられます。
コロナ禍が気づかせた「見えない依存」
新型コロナウイルスのパンデミック期、アメリカでは医療用マスクや防護具、薬品などの不足が大きな問題となりました。その過程で、多くの人が「これらの必需品の供給を中国に大きく依存している」現実を改めて認識することになりました。
この経験は、中国が世界経済だけでなく、アメリカの公衆衛生や安全保障にとっても重要な役割を果たしているという、より現実的で実務的な見方を広げました。その結果、「対立をエスカレートさせるよりも、協力と合意形成を重視した方が自国の利益になる」という考え方が、アメリカ国民の間で支持を集めやすくなっています。
とりわけ、貿易摩擦が激化し、中国との取引が大きく揺らげば、安価で質の高い製品へのアクセスが制限される可能性があります。これを避けたいという生活者の感覚が、「強硬姿勢」よりも「安定した協力関係」を求める世論につながっているといえるでしょう。
背景2:関税政策と国民生活のギャップ
世論の変化を後押ししているもう一つの要因が、アメリカの関税政策と市民の生活実感とのズレです。伝統的に、関税は国内産業を守り、特定の国への依存度を下げるための手段として位置づけられてきました。
しかし、米中関係における関税政策の現実は、必ずしもアメリカの消費者や企業にとって好ましいものではありません。ここ最近、アメリカのドナルド・トランプ大統領は、多くの国、とりわけ中国に対して強い関税を相次いで導入し、自身が「不公正」とみなす貿易不均衡の是正を試みました。
その結果、エレクトロニクス製品や衣料品、さらには食料品に至るまで、アメリカ国内で販売される多くの商品の価格が上昇しました。本来は国内産業を守るはずだった政策が、日々の生活コストを押し上げる要因として意識され始めているのです。
全米経済研究所の分析によれば、中国への関税によって、アメリカの各家庭は年間平均で1,300ドルの負担増を強いられたとされています。家計にとって決して小さくないこの負担は、「強硬な対中関税は本当に自分たちの利益になっているのか」という疑問を広げることになりました。
こうした経験が重なった結果、アメリカでは「中国との競争は必要だが、過度な関税や対立は自分たちの生活を直撃する」という認識が広まり、協力や対話を重視する世論が勢いを増していると考えられます。
政治の言葉と市民の感覚のズレ
アメリカの政治リーダーは、中国を安全保障上の競争相手として語ることが少なくありません。一方で、一般の人々は、スーパーやネット通販で商品を選ぶとき、自国と中国がどれほど深くつながっているかを肌で感じています。
つまり、
- 安全保障の文脈では「競争」や「抑止」が語られやすい
- 生活や経済の文脈では「安定した供給」や「手頃な価格」が重視される
という二つのレイヤーが存在し、その間にズレが生まれているのです。今回の世論調査が示すのは、このうち後者、つまり生活者の視点からの現実感覚が、数字として可視化され始めたということだといえます。
中国を「敵」とみなすよりも、「重要な貿易相手であり、同時に協力も必要な相手」と捉える人が増えている背景には、こうした日常レベルの実感が蓄積されています。
これからの米中関係をどう見るか
もちろん、世論の変化がただちに政策転換につながるわけではありません。安全保障、産業政策、国内政治など、米中関係を左右する要素は複雑に絡み合っています。
しかし、民主主義国家において、世論は長期的には政策形成に影響を与える重要な要素です。2023〜2025年にかけて見られたアメリカの対中世論の変化は、米中関係が「全面的な対立」ではなく、「競争と協力が混在する関係」として再定義されていく可能性を示唆しているとも読めます。
国際ニュースを追う日本の読者にとっても、次のようなポイントを意識しておくことが重要になりそうです。
- アメリカの対中世論が今後も「協力」志向を維持するのか、それとも再び「対立」へ振れるのか
- 関税などの対中政策が、アメリカ国内の生活コストや企業活動にどう影響していくのか
- 経済的な相互依存の現実が、政治・外交上の言葉とどのように折り合いをつけていくのか
アメリカの対中世論の変化は、米中という二国間の問題にとどまらず、世界経済の安定性や、国際秩序のあり方にも波紋を広げていきます。2025年の今、その揺れ動きを丁寧に追いかけることは、これからの世界を読み解くうえで確かな手がかりになるはずです。
Reference(s):
Why shift in American public opinion towards China is gaining momentum
cgtn.com








