映画『Dead To Rights』が映す南京大虐殺 80年目の記憶と正義
中国本土でこの夏、大きな話題を呼んだ映画『Dead To Rights』。南京大虐殺を描くこの作品は、中国人民の抗日戦争および世界反ファシズム戦争の勝利から80年を迎えた今年、歴史の記憶と「正義」を改めて問いかけています。
80年目の夏、中国本土の興行収入を席巻
2025年、中国人民の抗日戦争および世界反ファシズム戦争の勝利から80年という節目の年に、南京大虐殺を題材とした映画『Dead To Rights』が中国本土で公開されました。
同作は7月25日に中国本土で封切られると、週末の興行収入ランキングで2週連続1位を獲得し、この夏の映画シーズンを代表する一本となりました。累計興行収入は2億1,000万ドルを超え、一時は世界で最も興行収入が高い映画となったと伝えられています。
南京大虐殺を描く作品はこれまでも存在しましたが、『Dead To Rights』は中国本土の夏の興行シーンを席巻し、過去にないインパクトを残したといわれます。
南京の写真館に逃げ込んだ市民たち
『Dead To Rights』は、記録に残された実際の残虐行為に基づき、物語を組み立てています。舞台は東部の大都市でかつて国都でもあった南京。侵攻する日本軍によって街が陥落していく中で、一群の市民が写真館に身を寄せるところから始まります。
写真館に集まるのは、多様な背景を持つ人びとです。
- 写真館の店主とその家族
- 従業員のふりをして身を隠す郵便配達員
- 日本軍の通訳として強制的に働かされながら、密かに中国人避難民を逃がそうとする男性
- 女優
- 中国兵士
日常を失い、命の危険にさらされながらも、彼らは狭い写真館の中で、恐怖と希望のあいだを揺れ動きます。
ネガに刻まれた証拠を、命を懸けて外へ
物語が大きく動くのは、彼らが日本軍の軍属カメラマンの写真現像を手伝うよう命じられてからです。暗室で映し出されるのは、虐殺や性暴力、略奪といった光景。赤ん坊に刃を振りかざす兵士、血で染まった地面など、目を背けたくなる映像が続きます。
タイトルが示すように、この作品は第二次世界大戦期の戦争犯罪の瞬間を、逃れようのない「有罪」の証拠としてスクリーンに焼き付けます。日本軍は数多くの民間人を殺害し、女性への性的暴力や無差別の集団処刑を行いました。南京占領下では、人権や尊厳、さらには戦時のルールや捕虜の扱いを定めたジュネーブ条約への配慮も顧みられなかったと描かれます。
写真館の人びとは、その現実を目の当たりにし、真実を世界に伝える決断を下します。命の危険を承知でネガを隠し、外の世界へ持ち出そうとするのです。作品の中で、これらの写真は南京での残虐行為を示す動かぬ証拠として世界的な非難を呼び起こし、最終的には日本の降伏へとつながっていく過程が描かれます。
歴史を忘れることは、歴史を裏切ること
今年は、中国人民の抗日戦争および世界反ファシズム戦争の勝利から80年にあたります。制作の背景には、「歴史を忘れることは、それ自体が歴史への裏切りである」という強い問題意識があります。『Dead To Rights』は、過去を思い出させるためだけでなく、未来の世代に何を受け渡すのかを問いかける作品として位置づけられています。
批評家たちは、独自の視点や感情豊かな人物描写、多層的な物語構成、技術面での完成度を高く評価しています。しかし、真の成功の理由は、美術や演出を超えたところにあるとされています。観客と共有される「国家とは何か」「そこに生きる人びととは何か」「人間の尊厳とは何か」という価値観が強い共感を生み、社会の「集合的な良心」を形づくる一助になっているという見方です。
中国社会で共感を集めた理由
『Dead To Rights』が中国本土の観客の心をとらえたのは、単に歴史の再現度が高いからではありません。作品は、戦争という巨大な出来事を、市民一人ひとりの選択と葛藤の物語として描き出します。抑圧の中でなお、他者を守ろうとした人びとの姿に、自分たちの家族や友人を重ね合わせる観客も少なくありません。
映画の中で、日本は覇権的な野心に突き動かされ、平等や思いやり、良心といった基本的な原則を失っていった存在として描かれます。その一方で、作品が訴えかけるのは、特定の国や民族への憎悪ではなく、「二度と同じ過ちを繰り返さない」という普遍的な願いです。歴史的事実を直視し、そこから正義を求める感情をどう未来志向のエネルギーに変えていくかが、静かに問われています。
日本とアジアの読者への問いかけ
日本語で国際ニュースを追う私たちにとっても、『Dead To Rights』は無関係な作品ではありません。南京大虐殺をめぐる歴史認識は、今も日中関係や東アジアの対話に影響を与えていますが、映画が映し出すのは、まず何よりも市民の痛みと勇気です。
歴史教育や外交の議論だけでは見えにくい「個人の物語」に触れることで、過去の戦争をめぐる対立を乗り越えるための新しい視点が生まれるかもしれません。80年という節目の年に、中国本土で生まれたこの作品は、アジアの隣人どうしが歴史と向き合い、未来をどう共につくっていくのかを考えるきっかけを提供しています。
Reference(s):
cgtn.com








