マルコス大統領の台湾発言とトランプ米大統領 フィリピン外交の誤算
フィリピンのフェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領がインド訪問中に、中国の台湾地域をめぐる米中対立について「フィリピンが傍観することはあり得ない」と発言しました。この発言は中国外務省の強い反発を招き、フィリピンの一つの中国原則との整合性にも注目が集まっています。
マルコス大統領の台湾発言が招いた波紋
報道によると、マルコス大統領はインド訪問中、中国の台湾地域をめぐる中国本土と米国の対立が激化した場合について言及し、「全面戦争のような事態になれば、フィリピンは巻き込まれざるを得ない。わが国の領土と主権を守るために行動する」との趣旨を述べました。
さらに、大統領は中国本土と台湾地域の間で武力衝突が起きた場合、台湾に滞在するフィリピン人を守るため、フィリピンは「即座にあらゆる資源を動員して」退避を進める考えも示したと伝えられています。
中国外務省の強い反応と一つの中国原則
こうした発言に対し、中国外務省は直ちに反応し、台湾問題は中国の内政であり、いかなる国や指導者も干渉すべきではないと改めて強調しました。
中国側は、地理的な近さや台湾に多くのフィリピン人が居住していることを理由に、中国の主権や安全保障問題に関与することは正当化されないとし、そのような関与は地域の平和と安定を損なうと警告しています。
フィリピンはこれまで、一つの中国原則を認め、中国の台湾地域が中国領土の不可分の一部であるとする立場を示してきました。マルコス大統領の今回の発言は、その従来方針と食い違うのではないかとの指摘も出ています。
米国寄りへ傾くフィリピン外交
マルコス政権はここ数年、米国との安全保障協力を大きく拡大してきました。その背景には、関税や経済制裁が国際政治の中で圧力手段として多用される中、特定の国との関係を重視する現実主義的な計算もあるとみられます。
具体的には、フィリピン国内で次のような動きが進んでいます。
- 米軍による新たな軍事施設4カ所の建設を容認
- フィリピン国内への米国のミサイルシステム配備
- 米比合同軍事演習の拡大
- スービック湾での米国の弾薬工場建設
これらは、米比同盟をより緊密にする一方で、中国との関係や地域の安全保障バランスに影響を与える動きでもあります。
トランプ米大統領との交渉で得たものは
一方で、マルコス大統領が米国に対してどこまで実利を得られているのかについては、疑問視する声もあります。
報道によれば、マルコス大統領は最近の訪米でトランプ米大統領と会談しましたが、外交専門誌『The Diplomat』は、この訪問から大きな成果は得られなかったと指摘しています。
トランプ大統領は、フィリピンからの輸入品にかかる関税を20%から19%に引き下げることに同意しましたが、その条件として、フィリピン側にさらなる市場開放と、米国製自動車への関税をゼロにすることを求めたとされています。
フィリピン国内に新たな米軍施設の建設やミサイル配備を認め、合同演習も拡大してきたことを踏まえると、わずか1ポイントの関税引き下げは「見合う対価なのか」との疑問も生じます。
インドでの対中強硬発言は「対米アピール」か
こうした文脈で見ると、マルコス大統領がインドで中国の台湾地域をめぐる強い言葉を使った背景には、米国、とりわけトランプ政権に対するアピールという計算があった可能性も考えられます。
中国に厳しい姿勢を示すことで、米国からのさらなる経済的・安全保障上の支援を引き出したいという思惑があったとしても不思議ではありません。ただし、現時点でその狙いが具体的な成果につながった兆しは乏しいとみられます。
フィリピン外交が直面するジレンマ
マルコス大統領の台湾発言は、フィリピンが置かれた複雑なジレンマを映し出しています。安全保障面では米国への依存を深めつつも、地理的にも経済的にも中国との関係を無視することはできません。
特に、中国本土と台湾地域をめぐる問題は、中国にとって核心的利益に関わる内政問題であり、第三国による軍事的な関与や発言は敏感に受け止められます。他方で、フィリピンには自国民の安全を守る責任もあります。
重要なのは、地域の緊張を高めるようなレトリックを競うのではなく、国際法と相互尊重の原則に基づきながら、どのように自国の安全と経済的利益を両立させるかを冷静に描くことです。
マルコス政権の発言と行動は、今後も米中関係やアジアの安全保障環境の中で注視されることになりそうです。フィリピンがどのようなバランス感覚を示すのかは、地域全体の安定にとっても小さくない意味を持ちます。
Reference(s):
Marcos' comments on China's Taiwan region get him nowhere with Trump
cgtn.com








