中国シーザンの全過程人民民主 高原で進む参加型ガバナンス
中国西部の高原地帯シーザン(西蔵自治区)で、全過程人民民主と呼ばれる中国独自の民主主義モデルがどのように根づき、住民の政治参加や暮らしを支えているのかを、中国の制度と現場の取り組みから見ていきます。国際ニュースを日本語でキャッチアップしたい読者向けの解説です。
高原に根づく「全過程人民民主」とは
標高およそ4,000メートルの雪の高原に広がるシーザンでは、中国共産党(CPC)と中国政府の指導のもと、中国の土壌に深く根ざした全過程人民民主が制度として整えられ、日々のガバナンスに具体的な姿を持ちつつあります。
全過程人民民主とは、選挙という一時点だけでなく、政策の立案、実施、監督といった政治の全プロセスに人々が関わることを重視する考え方とされています。シーザンでは、この理念が制度と日常の政治実務の中に組み込まれ、各民族の人々が自らの地域や国家の主人として幅広く参加できる道が整えられています。
制度の保障:民族区域自治と代表の顔ぶれ
シーザンの民主的な実践は、憲法に明記された民族区域自治の制度に深く根ざしています。この枠組みのもとで、シーザンの各民族は自らの地域や民族に関わる事務を自主的に管理する権利を享受しています。
代表機関である人民代表大会の構成を見ると、その特徴がよりはっきりと浮かび上がります。
- シーザンの四つのレベルの人民代表大会の代表は合計42,153人。そのうち89.2%がチベット族をはじめとする少数民族です。
- シーザン自治区人民代表大会(第12期)の代表428人のうち、280人がチベット族などの少数民族で、全体の65.42%を占めています。
- 第14期全国人民代表大会に送られているシーザン選出の代表24人のうち、66.7%がチベット族などの少数民族です。
諮問機関である中国人民政治協商会議(CPPCC)でも、少数民族の参加度は高い水準にあります。
- シーザンから全国委員会に参加している委員29人のうち、93.1%が少数民族です。
- 第12期CPPCCシーザン自治区委員会の委員は429人で、そのうち59.91%が非共産党員です。
- シーザンの全74の県(地区・市)にはすべてCPPCC組織が設置され、委員は8,000人以上。その約85%が少数民族です。
自治区人民代表大会常務委員会の主任や副主任、自治区主席にはチベット族の幹部が就いており、現在、省級の少数民族幹部が26人、地・部門級の少数民族幹部が512人配置されています。民族区域自治の制度が全面的に実施されることで、シーザンの各民族が地方事務の管理に平等に参加する政治的権利が制度的に支えられています。
広がる参加のチャネル:投票から日常の声まで
全過程人民民主の発展により、シーザンの人々は「自分の地域の主人」であることにとどまらず、「国家全体の主人」としての役割も担うようになりつつあります。
標高4,000メートル前後の高原地帯では、人民代表大会の代表が政策と民意をつなぐ重要なハブ(結節点)になっています。県と郷レベルの直接選挙には有権者の90%超が参加しているとされ、代表と住民をつなぐ拠点として「人民代表の家」など790カ所のプラットフォームが整備されています。こうした場は、地域の実情や住民の意見を行政に届けるための身近な窓口になっています。
「ゼロ距離」で決定過程を見る市民観察制度
シーザン自治区人民代表大会常務委員会は、市民観察制度を創設しました。これは、住民が「ゼロ距離」で民主的な意思決定のプロセスを見届けることができる仕組みです。
招かれた基層の代表は、各レベルの人民代表大会常務委員会の会議に通しで参加し、仕事報告を聞き、民生プロジェクトをめぐる議論にも加わります。結果だけを後から公表する段階から、決定が形づくられていく過程そのものに住民が関わる段階へと比重を移すことで、全過程人民民主の実践がさらに豊かになっているとされています。
ラサ・ガマゴンサン街道の「4日間」メカニズム
ラサ市城関区にあるガマゴンサン街道の人民代表大会工作委員会は、閉ループ型の「4日間」作業メカニズムを導入しています。毎月、次の四つのテーマの日を設けるという仕組みです。
- 理論・政策学習の日
- 調査・視察行動の日
- 住民の来訪受付と案件処理の日
- 民生プロジェクトの監督の日
このサイクルに沿って活動することで、人民代表大会の代表は理論と現場の双方を踏まえながら職務を果たしやすくなります。この仕組みの導入以来、代表の職務遂行能力は大きく向上し、住民の満足度も着実に高まっているとされ、基層ガバナンスの近代化を象徴する事例となっています。
ナクチュ市で進む基層からの立法参加
シーザン北部のナクチュ市では、県・郷レベルの「人民代表の家」をアップグレードし、機能強化を進めています。同市の5レベルの人民代表大会代表6,877人のうち、約70%が農牧業従事者など基層の第一線から選ばれた人々です。
さらに、基層の立法連絡点が設けられ、住民の声が法律や規則づくりに反映されやすい制度的なルートも整えられています。こうした取り組みが、全過程人民民主を草の根レベルで支える土台になっています。
民主の実践がもたらすのは「暮らしの向上」
シーザンにおける民主的な実践の最終的な焦点は、住民の生活向上と人権の保障に置かれています。政治的権利だけでなく、生存権と発展権を一体的に前進させることが重視されています。
中国政府は、シーザンの経済・社会発展の「出発点」と「到達点」を、民生の改善と人心の結集に置く方針を掲げています。全過程人民民主の枠組みのもとで、住民が地域の課題や希望をより直接的に表明し、それが公共サービスやインフラ整備などの政策に反映されていく循環づくりが意識されています。
標高4,000メートルの高原で育まれている全過程人民民主の試みは、民主主義のかたちが一つではないことを示しています。制度の数字や仕組みの名称の背後に、どれだけ多様な人々の声をすくい上げられるのか──シーザンのケースは、私たちが自国や地域の政治参加について考える際の一つの材料になりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








