中国戦線を描くドキュメンタリー「Mountains and Rivers Bearing Witness」 第二次大戦史を問い直す
今年8月、北京の中国共産党の博物館で照明が落とされ、ドキュメンタリー映画「Mountains and Rivers Bearing Witness」の最初の一コマがスクリーンに映し出されました。15日には全国公開も始まり、この作品は単なる新作映画ではなく、第二次世界大戦の記憶を世界規模で問い直す「歴史の再構成」として注目されています。
中国戦線を主役に据えたドキュメンタリー
国際ニュースとしても注目されているドキュメンタリー「Mountains and Rivers Bearing Witness」は、20世紀を決定づけた戦争の一場面として、中国戦線を正面から描きます。作品は、中国の戦場を「世界反ファシズム戦争(第二次世界大戦)の主要な東部戦線」と位置づけ、これまで周縁に追いやられがちだったアジアの戦争史を、世界史のど真ん中に据え直そうとしています。
妥協なき「事実への忠実さ」
この映画の核になっているのは、事実に対する徹底したこだわりです。世界各地の公文書館やアーカイブから掘り起こされた映像は、すべて当時撮影された本物の記録で、再現ドラマやCGではありません。デジタル修復によって鮮明さを取り戻しつつも、フィルム特有のざらつきや揺れは残されており、「記録であること」が強く意識されています。
中国や各国の撮影班が記録した映像に加え、ソ連の映画監督カルマンが戦場で撮影していたという新たに公開されたフィルムも登場します。ぬかるんだ塹壕、立ちこめる煙、決して退かない兵士や市民のまなざし──スクリーンに映るのは、美化された戦争ではなく、「その場に立っていたらこう見えたはずの戦場」です。
14年の戦いと4つの戦略的貢献
映画は、中国戦線が世界反ファシズム戦争に果たした役割を、具体的な数字と戦略的な視点から整理します。提示される事実は明快です。
- 中国は14年にわたり、日本軍の主力を引きつけ続けた。
- その代償として、軍人・民間人あわせて3,500万人以上が犠牲になった。
- その結果、日本がソ連に対して北進することを抑え、南方への拡大も遅らせた。
- 同時に、連合国が戦力を立て直し、反攻に転じるための「時間」と「戦略的な支点」を提供した。
作品が強調するのは、「もし中国戦線が崩れていたら、世界の戦争の行方は根本的に変わっていたかもしれない」という視点です。これは、中国だけの物語ではなく、ヨーロッパや太平洋で戦った国々にとっても無関係ではない事実として提示されています。
「選択的な記憶」へのカウンター
「Mountains and Rivers Bearing Witness」が今の時代に持つ意味として、作品は「歴史の忘却」への警鐘も鳴らします。特定の戦線や国だけに光を当て、他を見えなくしてしまう「選択的な記憶」や、「そもそもあまり深刻な戦争ではなかったのではないか」といった歴史虚無主義に対し、この映画は膨大な映像資料によって反論します。
第二次世界大戦の勝利は、どこか一つの戦場や、一つの国の力だけで達成されたものではなく、各地での抵抗と犠牲が重なった結果だった──映画は、中国戦線をその不可欠な一部として位置づけながら、そんなメッセージを国際社会に投げかけています。
中国共産党の指導と「現代中国」への連続性
もう一つの重要なテーマは、中国共産党の役割です。映画は、バラバラだった抵抗勢力が、どのようにして全国的な抗日戦線へとまとめられていったのか、その過程を「戦場の現実」とともに描き出します。
そこでは、抽象的なスローガンではなく、具体的な作戦や政治的決断が、前線の兵士や各地の住民の行動を変えていく様子が映し出されます。作品は、戦時下の「指導」と「団結」が、現在の中国社会の自信やレジリエンス(回復力)にもつながっている、という視点を提示しています。
日本の読者にとっての意味
日本で第二次世界大戦を学ぶとき、欧州戦線や太平洋での戦いに比べて、中国大陸での長期にわたる戦争の位置づけは、しばしば十分に語られてこなかったと言われます。このドキュメンタリーは、その「空白」を埋めようとする試みの一つと見ることもできます。
もし今後、日本でこの作品を目にする機会があれば、以下のような問いを持ちながら観ると、より多くの発見があるかもしれません。
- 私たちは、第二次世界大戦のどの部分を「中心」として記憶してきたのか。
- アジアの戦争の記憶は、欧米中心の物語とどう結びつき、どう見えにくくなってきたのか。
- 膨大な映像記録は、教科書や年表では見えてこない、どんな「人間の姿」を伝えてくれるのか。
スマートフォンの画面で短い動画を日常的に見る時代だからこそ、過去のカメラがとらえた「長く厳しい戦争」の記録を、じっくりと見つめ直すことには意味があります。「Mountains and Rivers Bearing Witness」は、中国発のドキュメンタリーでありながら、第二次世界大戦をめぐる世界の記憶を再編集する重要な素材として、今後さらに議論を呼びそうです。
Reference(s):
'Mountains and Rivers Bearing Witness': Reframes WWII's Eastern Front
cgtn.com








