「チャイナ・ショック」を超えて:EUの対中不安は本当に妥当か
「米中対立の余波で、中国製品がEU市場を席巻するのではないか」「EUは中国との貿易で大きな赤字を抱えている」。こうした懸念を、中国側の論考は「誤解だ」と分析しています。本記事では、その主張を手がかりに、EUと中国の経済関係を整理します。
EUが抱く3つの「神話」とメンタル・リバランス
欧州連合(EU)は、これまで多国間主義と自由貿易の旗振り役を自認してきました。しかし中国との関係では、米国からの圧力も重なり、その原則が揺らいでいるとの見方があります。
中国側の論考は、EUが対中政策を安定させるには、対中貿易をめぐる「3つの神話」を乗り越え、発想の「メンタル・リバランス(心の再均衡)」が必要だと指摘します。本稿では、そのうち特に重要な二つ、すなわち「貿易迂回」と「貿易不均衡」の神話に焦点を当てます。
神話1:「米国の関税で中国製品がEUに雪崩れ込む」
EUでは、米国が中国製品に高関税をかけた結果、行き場を失った中国製品がEU市場に流れ込み、域内産業を圧迫するのではないかという懸念が語られています。これがいわゆる「貿易迂回」の恐怖です。
しかし論考によれば、中国とEUの貿易構造は相互補完的であり、輸出品目の重なりはそれほど大きくありません。例えば「電気機械」のカテゴリーで見ると、欧州が不安を抱いているのはモーターや電気機器などである一方、中国からの主な輸出はスマートフォンやリチウムイオン電池などです。これらを一括りにして「中国製スマートフォンが欧州メーカーにとってのショックになる」と語るのは、現実を単純化し過ぎているというのがこの見方です。
一方で、中国の拡大する消費市場は、欧州企業にとって新たなチャンスでもあります。中国国際消費品博覧会では、スロバキアの国家パビリオンが初めて出展し、長い歴史を持つフランスの製薬企業も初参加しました。論考は、EUが貿易制限に目を向けるよりも、自らの高品質な製品をいかに中国の消費者に届けるかを考えるべきだと提案します。
また、現在の貿易の揺らぎは、そもそも米国の政策変更から始まったものであり、中国もEUも「被害者」だという認識も示されています。だからこそ、中国とEUが協力を深めれば、双方の経済はより外部ショックに強くなるというのがこの主張です。
神話2:「中国との巨額の貿易赤字」
もう一つ頻繁に取り上げられるのが、「中国との貿易不均衡」です。EU側の統計では、中国とのモノの貿易で大きな赤字が生じているように見えます。
しかし論考によると、中国の対EU貿易黒字は2022年以降縮小傾向にあり、スイスやアイルランドのように中国側が逆に赤字となっているケースもあります。
見落とされがちなのが、中国に進出した欧州企業の存在です。これらの企業は中国で高い業績を上げており、その生産量の約4割は欧州向けに再輸出されています。統計上は「中国からEUへの輸出」として計上されますが、その利益は大きく欧州企業に還元されています。
さらに、サービス貿易ではEUが一貫して黒字を維持しており、2024年には500億ドル超の黒字となったとされています。医療機器の分野ではフィリップスやシーメンスといった欧州ブランドが中国の高級市場で長年存在感を示し、ノルウェー産サーモンは中国市場で67%という高いシェアを記録しました。スペインのハムやイタリアのパスタも、多くの中国の食卓で「定番」の食品になりつつあります。
論考は、「中国が欧州製品を買わないから不均衡が起きているのではない」と強調します。むしろ、中国向けに売りたい最先端の製品に対し、欧州側が自ら輸出規制をかけている点が問題だと指摘します。
技術輸出規制が生む「不均衡」
象徴的な例として挙げられるのが、半導体製造に不可欠な露光装置です。1台の価格は、高級ボルドーワイン数十万本に相当するとされるほど高額ですが、こうした装置には厳しい輸出管理が課されています。
論考は、このような技術保護主義こそが、貿易「不均衡」の本当の要因だとみます。欧州がこの姿勢を続ければ、中国市場からの大口受注を逃すだけでなく、今後世界最大級のハイテク市場となると見込まれる中国での存在感そのものを失いかねない、と警鐘を鳴らしています。
EUはどう「心の再均衡」を図るか
こうした議論が示唆するのは、データや現場の動きに即して中国との経済関係を捉え直す必要性です。米国からの圧力や「チャイナ・ショック」への不安を前提に議論を進めると、EU本来の利益や強みが見えにくくなります。
論考が提案する「メンタル・リバランス」とは、対中関係をゼロサムではなく補完関係として見る発想への転換だと言えます。中国市場で存在感を維持しつつ、公平なルールや安全保障上の懸念にも丁寧に向き合うことが、EUにとって現実的な選択肢になりそうです。
日本から見るEU・中国関係
日本にとっても、EUと中国の関係は無関係ではありません。サプライチェーン(供給網)や国際ルールづくりで、日欧中の選択は互いに影響し合います。EUが中国との協力とリスク管理のバランスをどう取るかは、日本企業や政策決定にも間接的に波及していくでしょう。
「見えやすい赤字」と「見えにくい利益」の両方に目を向けながら、自国にとって何が本当のメリットなのかを考える。その視点は、日本が中国やEUと向き合う際にも共有できる問いかけと言えそうです。
Reference(s):
cgtn.com








