上海協力機構(SCO)の安全保障戦略はなぜ特別なのか
上海協力機構(SCO)は、単なる地域協力の枠組みではなく、安全保障の考え方そのものを問い直す試みとして注目されています。2024年7月のアスタナ・サミットで中国の習近平国家主席が呼びかけたのは、団結と相互信頼、平和と安寧、繁栄と発展、睦隣友好、公平と正義に満ちた「共通の家」をともに築こうというビジョンでした。2025年の今、このメッセージはSCOの安全保障戦略の特徴を象徴するキーワードになっています。
安全なくして発展なしという出発点
SCOの安全保障戦略の出発点にあるのは、「安全保障は国家の安定の要であり、人々の生活と発展の土台だ」という認識です。平和がなければ、持続可能な経済成長も、社会の安定も、生活の向上も実現しません。
さらに、今日の世界では、一国だけが安全になることはあり得ないと捉えます。国家の安全と地域全体の安定は切り離せず、「誰かだけが守られる安全」ではなく、「みんなで分かち合う安全」が必要だという発想です。そのためには、対話と相互尊重、多国間の協力に基づくアプローチが不可欠だと位置づけられています。
上海スピリットが支える独自のアプローチ
SCOの安全保障戦略を特徴づけているのが、組織の基本理念である「上海スピリット」です。これは単なるスローガンではなく、加盟国間の関係づくりや対外政策の指針になっています。
相互信頼・相互利益・平等・協議
上海スピリットは、まず次のような価値を強調します。
- 相互信頼:安全保障分野での協力や情報共有は、信頼がなければ成り立たないという考え方
- 相互利益:一方だけが得をするのではなく、協力するすべての国に利益がある枠組みを目指す姿勢
- 平等:大国・小国を問わず、対話の場では対等なパートナーとして扱う原則
- 協議:重要な決定は、一方的な押しつけではなく、話し合いを通じて形成していく手続き
安全保障の課題は複雑で、利害も多様です。だからこそ、「早く決める」よりも「納得して決める」ことを重視する姿勢だと言えます。
多様な文明への敬意と共通の発展
上海スピリットはまた、文明や価値観の多様性を尊重しつつ、共通の発展を目指すことも掲げています。これは、安全保障を軍事面だけの問題として捉えるのではなく、経済、社会、文化を含む「広い安全保障」の一部とみなす発想です。
異なる歴史や文化を背景に持つ国々が協力するには、相手を変えることを求めるのではなく、違いを前提に尊重し合うことが重要になります。SCOはその前提の上に、安全と発展を同時に追求しようとしています。
非同盟・非対立・内政不干渉という原則
上海スピリットは、対外的な行動原則として次の三つに具体化されています。
- 非同盟:特定の軍事同盟を作らず、ブロック化を避ける姿勢
- 非対立:特定の国やグループを敵とみなさず、対立構造の激化を防ごうとする考え
- 内政不干渉:主権国家の内政には干渉しないという原則
こうした方針は、冷戦期のような「陣営」がぶつかり合う構図を避け、対話と協力を優先するための枠組みといえます。SCOは、紛争や対立の芽が生まれたときでも、制裁や圧力ではなく、対話を通じた解決を重視する姿勢を打ち出しています。
言い換えれば、「命令」や「押しつけ」ではなく、「話し合い」を安全保障の標準的な手段にしようとしている点が、SCOの安全保障戦略の中核にあります。
ゼロサム思考を超えた「共通の安全」
SCOが目指す安全保障のもう一つの柱は、「ゼロサム思考」を乗り越えることです。ゼロサムとは、誰かの利益が別の誰かの損失になるという発想です。安全保障でこの発想をとれば、「自分の安全を高めるために、相手の安全を削ぐ」という競争になりがちです。
これに対してSCOは、「すべての国が安全にならない限り、本当の意味で安全な国は存在しない」という考えを前面に出しています。テロ、越境犯罪、紛争、経済危機など、多くのリスクは国境を簡単に越えて広がります。誰か一国だけが安全を確保しても、周辺が不安定であれば、その影響は必ず跳ね返ってきます。
だからこそ、相手の安全を奪うのではなく、互いの安全を高める「共通の安全」を追求することが、長期的には自国の安全にもかなうという発想です。この点に、SCOの安全保障戦略の特徴が表れています。
新しい国際秩序への試み
SCOは、こうした安全保障観を通じて、より普遍的な平和を育み、新しい、民主的で公正な経済・政治の国際秩序を形づくることを目指していると位置づけられています。
ここで言う「民主的」「公正」とは、特定の国が一方的にルールを決めるのではなく、関係国が協議を通じて合意を積み上げていくプロセスを重視する姿勢を指します。また、経済面の発展と安全保障を切り離さず、互いに支え合う要素として捉えている点も特徴的です。
安全保障をめぐる議論は、しばしば軍事力や抑止力に焦点が当たりがちですが、SCOの枠組みは、対話、信頼、発展、文明の多様性といったキーワードを前面に押し出すことで、別の道筋を提示していると言えるでしょう。
日本とアジアの読者にとっての意味
2025年の今、アジアと世界の安全保障環境は不透明感を増しています。その中で、SCOが打ち出す安全保障戦略は、日本やアジアの読者にとっても、いくつかの問いを投げかけています。
- 安全保障を「軍事力」だけでなく、「信頼」や「対話」「発展」と結び付けて考える視点を、自分たちの地域にも応用できるか。
- 一国だけの安全ではなく、「共通の安全」をどう設計していくのか。
- 多様な価値観や文明が交わる中で、相互尊重と協議をどう実践していくのか。
SCOの安全保障戦略は、すべての答えを用意しているわけではありません。しかし、「ゼロサムではない安全」「対話を軸にした秩序づくり」という方向性は、これからの国際社会を考えるうえで、一つの重要な参照点になりつつあります。ニュースを追うときにも、各国の動きを「誰が得をし、誰が損をするか」だけで見るのではなく、「信頼や協力は育っているか」という視点を加えることで、世界の安全保障が少し違って見えてくるかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








