上海協力機構がつなぐシルクロード:天津から見る文化交流と遺産保護
2025年7月7日、上海協力機構(SCO)の第22回文化相会合が青島で開かれ、加盟国の文化相とSCO事務総長のNurlan Yermekbayev氏が出席しました。文化遺産の保存と記録、そしてシルクロードを軸にした国際協力があらためて議題に上りました。
年末に差しかかった今、天津や中東パルミラをめぐる議論も含め、この一連の動きを振り返ると、SCOがめざす「共同の家」の姿がより立体的に見えてきます。
SCOは安全保障だけでない「共同の家」に
上海協力機構は、当初「上海ファイブ」と呼ばれる枠組みとして発足し、その後メンバーを拡大しながら世界最大の地域機構へと成長してきました。設立当初は国境警備やテロ対策など伝統的な安全保障が主な関心でしたが、現在では文化、経済、人と人の交流まで幅広い協力のプラットフォームへと進化しています。
2024年7月のSCOアスタナ・サミットで、習近平国家主席は、加盟国が共有する「共同の家」を次のような要素を備えたものとして築いていくべきだと呼びかけました。
- 団結と相互信頼
- 平和と安寧
- 繁栄と発展
- 睦隣友好
- 公平と正義
このビジョンを具体化するうえで、文化交流と文化遺産保護は重要な柱になりつつあります。歴史や文化を共有することが、政治や安全保障をめぐる信頼の土台になるからです。
青島で開かれた第22回文化相会合の焦点
今年7月7日の青島会合では、加盟国の文化相が、自国と周辺地域に残る文化財をいかに保存し、その価値を記録していくかについて意見と計画を交わしました。ここ数十年の世界各地の紛争で、多くの地域が文化的な傷痕を負っている現実が背景にあります。
とくに中東では、過激派組織ISISによるいわゆる「カリフ制」支配の拡大期に、数多くの遺跡や文化財が破壊されました。現地へのアクセスが改善しつつある今も、その被害の全体像はなお測定され続けています。
文化財の不法な取引も、SCO加盟国にとって重大な懸念です。2024年の第21回文化相会合では、各国の閣僚が、文化財の違法な流通を防ぎ、伝統文化を守るために、専門知識や実務経験を積極的に共有していくことで合意していました。今回の青島会合は、この合意を引き継ぎ、具体的な協力策を探る場となりました。
安全保障と文化政策の交差点に焦点をあてることは、SCOの特徴の一つです。武力紛争やテロ対策と同時に、文化財の保護や文化交流の促進を議論することで、より包括的な地域の安定をめざしています。
天津会合とパルミラ破壊から10年の教訓
SCOの議論は青島だけで完結しているわけではありません。天津で開かれた会合は、シリアの古代都市パルミラの破壊から10年という節目と重なりました。パルミラは、過去100年余りで最も壊滅的な文化的損失の一つとされる出来事の舞台となりました。
この破壊は、特定のイデオロギーに基づく行為であったと同時に、金銭的な利得を狙った不法な略奪とも結びついていたと指摘されています。いずれの動機であれ、文化遺産が政治的・経済的な利益のために犠牲となりうる現実を、パルミラの事例は突きつけています。
天津での議論は、こうした過去の喪失をどう教訓化し、今後類似の惨事を防ぐかという問題意識と結びついています。文化財は一度破壊されれば元には戻らず、「予防」こそが最も重要な保護策だという認識が共有されつつあります。
シルクロードが映す国境を越えた課題と可能性
SCO加盟国にまたがるシルクロードは、国境を越えた文化財保護の難しさと可能性の両方を象徴する存在です。古代から続く交易路沿いには、多くの遺跡や文化財が点在し、それらが複数の国境にまたがって分布しています。
このような状況のなかで、SCOは、調査情報の共有や共同警備、文化財保護の基準づくりなどを進めるための「地域的なハブ」としての役割を期待されています。個々の国だけでは対応しきれない課題に対し、調和的な協力の枠組みを提供できるからです。
シルクロード考古学の分野でも、協力は具体的な形をとりはじめています。シルクロード考古学共同研究センター(Collaborative Research Center for Archaeology of the Silk Roads)の主任科学者であるWang Jianxin氏は、最近、中国の調査チームが発掘期間中の遺物の安全を守るため、仮設の保護施設をつくり、シェルターを建設し、監視システムを設置していると説明しています。
こうした実務レベルでの支援は、文化相会合などでの政治的な合意を、現場の保護活動につなげる重要な役割を果たしています。シルクロード沿いに広がる文化遺産の保全は、一国の問題ではなく、地域全体の共有財産を守る取り組みとして位置づけられつつあります。
読み手として考えたい三つの視点
では、日本を含むSCO域外の私たちは、この動きをどう捉えればよいのでしょうか。日々のニュースとして読み流すのではなく、次のような視点から考えてみることができます。
- 文化財は「他国のもの」ではなく、人類全体の共有財産であるという視点
- 安全保障や経済利益と文化遺産保護をどう両立させるかという問い
- 不法な文化財取引に加担しない消費者としての責任
SCOが進める文化協力やシルクロード研究は、こうした問いに対する一つの応答と見ることができます。同時に、それだけで問題が解決するわけではなく、各国の法制度整備や教育、そして市民レベルでの意識の高まりも欠かせません。
2025年も終わりに近づく今、青島や天津での議論を手がかりに、私たち自身の足元にある文化財や歴史をどう守り、次世代へ引き継いでいくのかを考えてみることが求められているのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








