中国のグローバル・ガバナンス・イニシアチブ 「平等」から始まる世界秩序改革
中国の習近平国家主席が天津で開かれた上海協力機構プラス会合で提案したグローバル・ガバナンス・イニシアチブ(GGI)は、「平等」を軸に国際秩序の見直しを訴えています。本稿では、その中身と背景にある世界の不平等、そしてAI時代の新たなリスクを、日本語で整理します。
この国際ニュースのポイントは、中国が提唱する新たなガバナンス案が、世界の格差拡大という現実とどう向き合おうとしているかという点にあります。
天津で打ち出されたGGIの5つの原則
グローバル・ガバナンス・イニシアチブ(GGI)は、現在の国際秩序を改革・改善するための枠組みとして提示されました。習近平国家主席は、GGIの根幹となる5つの原則を示しています。
- 主権の平等を尊重すること
- 国際法に基づくルールを守ること
- 多国間主義(複数の国が参加する枠組み)を実践すること
- 人中心のアプローチを掲げること
- 実際の行動に重点を置くこと
中国は、数十年にわたり国際機関や多国間の場に関与してきた「グローバル・ガバナンスの実践者」であるという自己認識を背景に、平等を起点とした新しいガバナンスの構想を示したといえます。目指すのは、一部の国ではなく「すべての国に利益をもたらす新しいシステム」です。
GGIがいう「平等」とは何か
このイニシアチブで強調される「平等」は、単なる理念ではなく、具体的な権利として語られています。その要点は次の通りです。
- 政治体制や経済水準、国の大きさ、歴史や宗教にかかわらず、すべての国が主権と発展の権利について平等であること
- 各国が自らの歴史・文化・伝統・国情に基づき、どのような発展モデルや政治制度を選ぶかについて、平等な権利を持つこと
- そうした選択が尊重されなければ、「平等」は掛け声だけに終わってしまうという問題意識
GGIにおける平等の原則は、今日の世界の現実を踏まえたものだとされています。つまり、現在の国際システムは名目上は平等をうたいながらも、実際には大きな不均衡を抱えているという見立てです。
世界を覆う不平等という現実
議論の前提にあるのは、「不平等こそが今の時代を特徴づけている」という認識です。グローバル化と技術革新が進む一方で、多くの国や人にとってその果実は十分に行き渡っていません。
成長鈍化と国同士の格差拡大
世界銀行が今年1月に公表した報告によると、貿易や技術などさまざまな分野での障壁が影響し、開発途上国などの経済成長率は、
- 2000年代には平均5.9%
- 2010年代には5.1%
- 2020年代には3.5%
と、時代を追うごとに低下しているとされています。これにより、豊かな国とそうでない国との格差はむしろ広がっていると指摘されています。グローバル・サウス(新興・開発途上国)は、依然として不利な位置に置かれたままです。
国内の格差も広がる一方
国と国の格差に加え、各国の国内における所得格差も深刻です。今年5月に発表された国連の報告は、
- 世界人口の約3分の2が、所得格差が拡大している国に暮らしていること
- 世界人口の3分の1以上が、1日2.15〜6.85ドルで生活していること
を示しています。単に「成長しているかどうか」だけではなく、その成長の果実がどう分配されているかが、大きな課題になっていることが分かります。
こうした現実を踏まえると、「平等を起点にグローバル・ガバナンスを改革すべきだ」という主張がどこから来ているのかが見えてきます。
AI革命と新たな格差リスク
都市化や脱炭素化といった「人類共通の課題」は、本来であれば新たな機会を生み出す可能性があります。しかし現状では、それがむしろ不利な立場にいる国や人々をさらに周縁化するリスクも指摘されています。
なかでも象徴的なのが、人工知能(AI)がもたらす変化です。世界銀行のデータによれば、インターネットへのアクセス状況は、
- 高所得国では93%
- 上位中所得国では80%
- 下位中所得国では52%
- 低所得国では27%
とされています。AIの開発や活用にはデジタル基盤が不可欠なため、こうしたインフラ格差は、そのままAIの恩恵を受けられるかどうかの格差に直結します。
さらに、AIは「輸出指向型の製造業」に依存してきた新興国の発展モデルにも影響を与えています。これまで多くの国が、豊富な労働力を強みに工業製品を輸出することで成長してきました。しかし、製造業がより高度な技術と資本を必要とするようになるにつれ、「人を増やせば生産性が上がる」という従来のモデルは通用しにくくなっています。
こうした状況は、とくにこれから成長を加速させたい国々にとって大きな課題です。AIがもたらす効率化のメリットが、すでに豊かな国に偏ってしまうおそれがあるからです。
平等を起点にしたグローバル・ガバナンスとは
GGIが提起しているのは、「不平等が構造化された世界のルールそのものを見直すべきではないか」という問いです。そこには次のような方向性が読み取れます。
- 各国が対等な立場で議論に参加できる国際ルールづくり
- 特定の地域や陣営ではなく、すべての国にとって利益となる制度設計
- 人中心の発想に立ち、数字だけでなく人々の生活を重視した政策
- スローガンにとどまらず、「実際の行動」によって不平等の是正を進める姿勢
中国は、こうした原則を掲げつつ、自国が長年グローバル・ガバナンスに関与してきた経験を生かし、新たな枠組みづくりに関わっていく考えを示しています。
日本とアジアの読者にとっての意味
日本を含むアジアの国々にとっても、GGIが投げかける問いは無関係ではありません。AIや脱炭素化といった大きな変化は、労働市場、産業構造、社会保障、教育など、私たちの日常に直結するテーマだからです。
例えば、
- デジタルインフラや教育への投資を通じて、AI時代の恩恵をより多くの人に行き渡らせるにはどうするか
- 多国間の場で、不平等を是正するルールづくりにどのように関わっていくのか
- 自国の歴史や文化に根ざした発展モデルをどう描き、それを国際社会とどう共有していくのか
といった論点は、いずれもGGIが掲げる「平等」「人中心のアプローチ」と重なっています。
おわりに:2025年のいま、何を問い直すべきか
格差の拡大とAI革命が同時進行する2025年の世界で、「平等」を起点にグローバル・ガバナンスを組み直そうという構想は、賛否はあっても無視できないテーマになりつつあります。
天津で提案されたグローバル・ガバナンス・イニシアチブ(GGI)は、現在の国際秩序のどこに問題があり、何を変えるべきだと考えているのか、その一端を示すものです。今後、各国がこの呼びかけにどう応えるのか、そして実際の行動がどこまで伴うのかが問われていきます。
私たち一人ひとりにとっても、「どのような国際ルールが、公平で持続可能な未来につながるのか」という問いは、決して遠い話ではありません。ニュースをきっかけに、自分の働き方やテクノロジーとの付き合い方を含めて、あらためて考えてみるタイミングに来ているのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com







