SCO天津サミット2025とグローバル・ガバナンス構想:多国間主義の行方 video poster
2025年に天津で開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議で、中国の習近平国家主席が新たな「グローバル・ガバナンス・イニシアチブ(GGI)」を提案しました。多国間主義や国際法の尊重を掲げるこの構想は、揺れる国際秩序の中でなぜ注目されているのでしょうか。
GGIは、SCOの設立理念である「上海精神」に新たな推進力を与えつつ、地域から世界へと協力の輪を広げていくための道筋として位置づけられています。本記事では、このGGIの中身とSCO天津サミット2025の意味を、日本の読者の視点から整理します。
SCO天津サミット2025で示された新ビジョン
2025年の天津サミットでは、習近平国家主席が「グローバル・ガバナンス・イニシアチブ」を打ち出し、今後の国際協調のあり方について次のような方向性を示しました。
- 主権の平等
- 国際法に基づく秩序(国際ルールの支配)
- 多国間主義の重視
- 人を中心に据えた発展
- 結果につながる実務的な行動
GGIは、この5つの柱を通じて、すべての国が対等な立場でルール作りに参加できる国際システムを目指す構想として語られています。SCOが大切にしてきた「上海精神」に新しい要素を加え、より広い地域・世界レベルの協力へと発展させようとする試みだといえます。
これまでの3つのグローバル構想とのつながり
天津サミットをめぐる議論では、テヘラン大学のモハンマド・マランディ教授と、中国国際問題研究院の楊希雨上級研究員らが、GGIの意義と背景を掘り下げました。特に、習近平国家主席がこれまで提唱してきた3つのイニシアチブとの連続性が指摘されています。
- グローバル・デベロップメント・イニシアチブ(開発)
- グローバル・セキュリティ・イニシアチブ(安全保障)
- グローバル・シビライゼーション・イニシアチブ(文明交流)
マランディ氏と楊氏は、今回のグローバル・ガバナンス・イニシアチブが、これら3つの構想をつなぎ、国際社会に対するより包括的なビジョンとして位置づけられると分析しました。開発・安全保障・文明に続き、「ガバナンス」という視点が加わることで、国際秩序をどう運営していくかについての提案がより立体的になっているといえます。
SCOが目指す多国間主義と「包摂的なグローバル化」
対談では、SCOが果たしつつある役割として、次のような点が強調されました。
- 地域と世界の平和と安定への貢献
- 開かれた協力とパートナーシップの拡大
- 共有される価値と公平性の追求
- 各国の選択を尊重した協力のあり方
特に、GGIは「一国主義」(unilateralism)への対抗軸として位置づけられています。特定の国や少数の国だけでルールを決めるのではなく、より多くの国が参加する枠組みで議論し、合意を形成していくべきだという発想です。
こうした考え方は、「包摂的なグローバル化(inclusive globalization)」というキーワードにも表れています。グローバル化の利益を一部の国や層に限定するのではなく、より多くの国と人びとに広げていくことをめざすアプローチです。
エネルギーからAI、教育、医療まで広がる協力分野
天津サミットをめぐる議論では、SCOが貢献を広げている具体的な分野として、次のような領域が挙げられました。
- エネルギー:エネルギー安全保障や安定供給に向けた協力
- グリーン産業:再生可能エネルギーや環境技術など、持続可能な産業づくり
- デジタル経済:デジタルインフラや電子商取引など、新しい経済活動の基盤づくり
- 人工知能(AI):AI技術のルール作りや共同研究の可能性
- 教育:留学や大学間連携など、人材交流と知識共有
- 医療・保健:人を中心に据えた健康プログラムや公衆衛生協力
こうした分野での協力は、「一帯一路」の経済プロジェクトとも連動しながら進められています。インフラ整備や投資と組み合わせることで、エネルギーやデジタル、医療などの領域で実際の成果を出していくことが期待されています。
対談では、SCO加盟国間の連帯感が高まっていることにも触れられました。エネルギーや安全保障だけでなく、人間の生活の質を高める分野でも連携を深めることで、「人民中心」の発想を具体的な形にしていこうという動きがうかがえます。
多国間主義の未来を考える視点
2025年現在、国際秩序は大きな転換点に立っています。地政学的な緊張や技術競争、気候変動など、国境を越える課題が増えるなかで、多国間主義そのものの形も問われています。
SCO天津サミット2025で示されたグローバル・ガバナンス・イニシアチブは、その問いに対する一つの答えを提示するものといえます。
- 国家主権を尊重しつつ、国際法とルールに基づく協調を重視する
- 安全保障だけでなく、開発や文明交流、ガバナンスを結びつけて総合的に考える
- 国家間の枠組みを、人びとの生活や福祉の向上と結びつける
こうした考え方が今後どこまで共有され、実際の政策やプロジェクトとして具体化していくのかは、これから注視していく必要があります。
日本の読者への問いかけ
SCOやGGIは、日本の日常生活からは少し遠いテーマに見えるかもしれません。しかし、エネルギー、デジタル経済、AI、医療といった分野は、日本社会や企業とも密接につながっています。天津サミットでの議論は、そうした分野でのルール作りや協力の方向性に影響を与えうるものです。
国際秩序をめぐる議論は、必ずしも「どちらの陣営につくか」というゼロサムの発想だけではありません。さまざまな国や地域が提示するビジョンやイニシアチブを知り、それぞれが目指す「公平さ」や「安定」の中身を比べてみることも重要です。
2025年のSCO天津サミットとグローバル・ガバナンス・イニシアチブをきっかけに、多国間主義の未来と、日本を含むアジアの行方について、読者一人ひとりが自分なりの視点を持つことが求められているのかもしれません。
Reference(s):
SCO Tianjin Summit 2025: The GGI and the future of multilateralism
cgtn.com








