スポーツ人気は経済成長につながるか 中国とラテンアメリカの架け橋 video poster
スポーツ人気は、どのようにして経済成長や社会の包摂につながるのでしょうか。2025年7月末、北京にラテンアメリカの関係者が集まり、中国とラテンアメリカ・カリブ海地域(LAC)をつなぐスポーツの可能性について議論しました。本稿では、その対話から見えてきたポイントを日本語で整理します。
北京で語られたテーマ 中国とLACをつなぐスポーツ
今回の対話は、番組「The Hub」の一企画として行われ、テーマは「From Sports Popularity to Economic Growth(スポーツ人気から経済成長へ)」でした。北京には、中国とラテンアメリカ双方から官民の関係者や研究者、起業家が集まり、スポーツを通じた協力のかたちを探りました。進行役を務めたのは王冠(Wang Guan)氏です。
参加者たちの共通認識は明確でした。スポーツは単なる勝敗やメダル争いではなく、価値観を育て、コミュニティをつなぎ、機会を生み出すためのプラットフォームであるということです。とくに若者や女性など、社会的に脆弱な立場に置かれやすい人びとにとって、スポーツは人生を形づくり、自己肯定感を高める重要な手段になり得ると強調されました。
草の根スポーツから「強いシステム」をつくる
議論の一つの柱は、草の根レベルでのスポーツ参加をどう広げ、そこから「強いシステム」をつくるかという点でした。日々の練習や地域の大会といった身近なスポーツ経験が、やがてプロリーグや関連産業の土台となり、経済活動を支えるという発想です。
ウルグアイとブラジルのサッカー文化
ラテンアメリカ側からは、ウルグアイの深く根付いたサッカー文化や、ブラジルの「フットボール・フォー・ピース(football for peace)」の取り組みが紹介されました。ウルグアイでは、地域クラブや学校チームがコミュニティの核となり、世代を超えて人びとがつながる場になっています。
ブラジルの「フットボール・フォー・ピース」は、対立や暴力の影響を受けている地域でサッカーを通じて対話や協力の力を育てるプログラムです。競技技術の向上だけでなく、「ルールを守る」「相手を尊重する」といった価値を共有することが重視されています。こうした取り組みが、地域の安定や人材育成につながり、長期的には経済の基盤を強くしていくという視点が示されました。
ニカラグアで進むインフラ投資
ニカラグアでは、スポーツ施設やインフラへの投資が進んでいることも紹介されました。スタジアムや練習場の整備は、単に競技者のためだけではなく、建設や運営にかかわる雇用を生み、周辺の飲食・交通・観光など幅広い産業に波及効果を持ちます。
こうした背景について、ニカラグアのスポーツ協会共同会長であるダニエル・ペレス・セケイラ(Daniel Pérez Sequeira)氏が経験を共有しました。インフラ整備は時間もコストもかかりますが、長期的な視点で地域の未来をつくる投資だという視点が示されています。
フィランソロピーと企業責任が支える持続可能なモデル
議論のもう一つの軸は、フィランソロピー(慈善活動)や企業の社会的責任をどう活かし、持続可能なスポーツモデルをつくるかというテーマでした。中国のフィランソロピストである李天(Li Tian)氏も参加し、寄付や社会貢献活動がスポーツの現場をどう支えているかが語られました。
例えば、次のような形が挙げられました。
- 地域の子ども向けクラブへの資金支援
- 指導者やコーチの育成プログラムへの投資
- 女子スポーツや障がい者スポーツへの重点的なサポート
- 大会開催を通じた地域経済の活性化
企業側にとっても、こうした取り組みは単なるイメージ戦略ではなく、将来の顧客や従業員を育てる「社会への長期投資」として位置づけられます。スポーツを支えるエコシステムをつくることが、結果として安定した市場・雇用・イノベーションにつながるという視点が共有されました。
若者と女性にひらかれたスポーツの場
パネルでは、特に若者と女性に焦点を当てた議論も行われました。スポーツの現場は、教育や就労の機会が限られがちな人びとにとって、自己表現とネットワーク形成の貴重な場となります。
少年少女向けのプログラムは、単に運動能力を伸ばすだけでなく、チームワークやリーダーシップ、時間管理といった「社会で生きていく力」を育てます。女性にとっても、スポーツがキャリアの選択肢や経済的自立への道を広げる可能性が語られました。
脆弱なコミュニティにおいては、安心して集まれる場所があるかどうかが、人生の選択肢を大きく左右します。そこでスポーツが果たす役割は、健康増進や娯楽にとどまらず、暴力や犯罪から距離を置き、学びと対話の機会を提供する「安全な拠点」としての機能だと指摘されました。
国際協力がひらく経済と文化のブリッジ
中国とラテンアメリカの関係者が一堂に会した今回の対話は、スポーツが文化と経済の両面で「橋」になり得ることを象徴しています。国や地域が異なっていても、ボールひとつ、コート一面から始まる共通体験は、ことばの壁を超えたコミュニケーションを生み出します。
パネルでは、スポーツを軸にした国際協力には次のような可能性があると議論されました。
- 指導法や運営ノウハウを共有する研修やワークショップ
- 若者世代を対象とした交流大会や共同プログラム
- スポーツ施設整備に関する経験や教訓の共有
こうした協力が進めば、スポーツ産業そのものの成長に加え、観光、教育、テクノロジーなど周辺分野にも新たなビジネス機会が生まれる可能性があります。スポーツが「中国とLACのブリッジ」として機能する構図が浮かび上がります。
日本への示唆 スポーツをどう地域と結びつけるか
今回の議論は中国とラテンアメリカを中心としたものですが、日本にとっても示唆に富んでいます。地方都市の人口減少や地域経済の課題が指摘されるなかで、スポーツを地域づくりや国際連携とどう結びつけるかは、共通のテーマといえるからです。
日本にとって参考になり得る視点として、次のようなポイントが挙げられます。
- 草の根スポーツを支える仕組みづくり(指導者育成、施設の開放など)
- 企業の社会貢献とスポーツの連携を長期投資として位置づける発想
- 若者や女性を中心に据えたプログラム設計
- アジアやラテンアメリカとのスポーツ交流を通じた新たな経済機会の創出
スポーツを「余暇の楽しみ」から「社会と経済をつなぐインフラ」として捉え直すことで、日本国内の議論も一段深まるかもしれません。
おわりに スポーツは価値観と機会をつくる
北京での対話に参加したパネリストたちは、スポーツを通じて人生が変わった具体的な経験を共有しながら、スポーツがいかに社会の包摂と経済発展に寄与し得るかを語りました。
スポーツは競技の結果以上のものを生み出します。価値観を育て、コミュニティを強くし、国や地域を超えた信頼を積み重ねる力があります。2025年夏の中国とラテンアメリカの対話は、その可能性をあらためて可視化したと言えるでしょう。今後、どのような協力のかたちが具体化していくのか、引き続き注目したいテーマです。
Reference(s):
From Sports Popularity to Economic Growth: Building China-LAC Bridges
cgtn.com








