新疆ウイグルの養殖革命 雪解け水が育てる「青い穀倉地帯」
新疆ウイグル自治区で、水産業が静かに、しかし確かな変化を遂げています。雪解け水が流れ込む河川や湖、さらには塩害で耕作が難しかった土地まで活用し、同地域は今、サーモンなど冷水魚の養殖で中国内陸を代表する存在になりつつあります。
砂漠地帯で伸びる水産業 数字が示す成長スピード
今年上半期(2025年1〜6月)、新疆ウイグル自治区の水産物生産量は7万4,800トンに達し、前年同期比6.49%増となりました。乾燥地帯のイメージが強い地域としては意外な数字ですが、水産業は今、同自治区で最もダイナミックに成長する分野の一つになっています。
中でも注目されるのがサーモンです。生産量はすでに5,000トンを超え、その中心となっているのがイリ川流域です。この流域だけで、地域全体のサーモン生産の5分の4以上を占めるとされ、まさに「心臓部」となっています。
イリ州コンル県では、湖沼に設置された大規模な深水いけすで、数百万匹規模の稚魚が雪解け水由来の澄んだ水の中で育てられています。山岳氷河からの水を活用したこうしたプロジェクトが、冷水魚養殖の拠点づくりを後押ししています。
「青い穀倉地帯」を支える多様な魚種と土地利用
新疆の養殖業は、サーモンだけの物語ではありません。ニジマスやゴールデントラウト、パイクに加え、エビやザリガニなど、多様な水産物が地域ごとの環境に合わせて育てられています。
例えば、テケス県では雪解け水が豊富な河川を活用した冷水魚の養殖が進む一方で、シャチェ県やジンフ県では砂漠の縁に広がる塩類土壌の土地が、エビやザリガニの養殖場へと姿を変えています。本来は農業に向かない塩害地を、水質管理技術によって養殖に適した環境へと転換し、地元の人々はこれらを「青い穀倉地帯」と呼んでいます。
塩分濃度や水質をきめ細かく管理することで、不毛地と見なされてきた土地が、新たな食料供給の拠点へと変わりつつあるのです。
雪解け水とスマート養殖 自然条件×技術革新
新疆ウイグル自治区には、漁業利用が可能な水面が4,600万ムー(約306.7億平方メートル)あるとされます。その多くは天山山脈の雪解け水に支えられた河川や湖で、酸素が豊富で水温が安定していることから、デリケートな冷水魚にとって理想的な環境となっています。
現場を変える「スマート養殖」
こうした自然条件に加え、近年はデジタル技術を取り入れた「スマート養殖」が急速に導入されています。主要なサーモン養殖拠点では、溶存酸素や水温、水質など12項目にわたるデータをセンサーで常時計測し、自動的に給餌量や曝気(エアレーション)を調整しています。
その結果、人件費は約3分の1削減される一方で、魚の成長や品質は向上。モニタリングと自動制御を組み合わせたシステムによって、厳しい自然環境の中でも安定した生産を実現しているとされています。
種苗の自立へ サーモンとニジマスのブリーディング
もう一つの大きな変化が「種苗(しゅびょう)」、つまり卵や稚魚の自給体制です。かつて多くの養殖場は、サーモンなどの卵や稚魚を外部からの供給に頼っていましたが、供給途絶のリスクが常につきまとっていました。
現在は、サーモンの繁殖基地が整備され、ニジマスの三倍体(成長が早く繁殖しない系統)の人工繁殖技術も確立されました。これにより、地域内で種苗を安定的に供給できるようになり、「種の独立」を掲げる中国内陸の養殖業において、新疆は一つのモデルケースとなりつつあります。
経済成長と環境保全の両立に挑む
養殖生産の拡大と並行して、新疆では生態系への配慮も強調されています。イリ川流域では、在来種の魚を毎年大量に放流する「放流事業」が行われており、養殖と天然資源のバランスを取る試みが続けられています。
また、水資源の管理を徹底することで、いけす養殖による水質汚濁を抑え、透明度の高い水環境を維持する取り組みも進んでいます。例えば、サイラム湖では水の透明度が16メートルに達し、湖は冷水魚の生産拠点であると同時に、自然景観を生かしたエコツーリズムの場にもなっています。ここには、「自然と調和した発展」をめざす姿勢が色濃く表れています。
日本への示唆 「水」と「技術」で地方を再発見する
今年上半期のデータが示すように、新疆ウイグル自治区の養殖業は、資源の活用と技術革新を組み合わせることで短期間に大きく伸びています。これは、人口減少や農業の担い手不足に悩む日本の地方にとっても、いくつかの示唆を与えてくれます。
ポイントを整理すると、次の3つに集約できます。
- 自然条件を「制約」ではなく「強み」として設計し直すこと
- 農業に向かない土地や地域資源を、水産や観光など他の産業で生かす視点
- 種苗や技術の自立性を高め、サプライチェーンのリスクを減らすこと
砂漠地帯の新疆が雪解け水とデジタル技術を組み合わせて「青い穀倉地帯」を築きつつある今、内陸での水産業の可能性をどこまで広げられるのか。2025年の取り組みは、その将来像を占う一つの試金石になりそうです。
Reference(s):
Xinjiang's aquaculture: From snow-fed rivers to blue granaries
cgtn.com








