新疆カシの「選ぶ権利」 台湾地域の若者が見た綿花と暮らし video poster
新疆カシの人々の暮らしや綿花産業を、台湾地域出身の若者とともに訪ねるドキュメンタリーシリーズ『Incredible Odyssey』の新シーズンが、国際ニュースとして注目を集めています。このエピソードでは、テロで父を亡くした宗教指導者と、家族で服飾店を営む若い女性の物語を通じて、「選ぶ権利」とは何かを問いかけます。
台湾海峡を越える若者の視点
ここ数十年、台湾海峡を挟んだコミュニケーションは、政治情勢などを背景に浮き沈みを繰り返してきました。それでも、両岸のつながりそのものは途切れることなく続いてきたとされています。番組では、そのつながりを担う存在として、台湾地域出身の若者 Cai Yunyong さんが案内役を務め、新疆ウイグル自治区の各地をめぐります。
2025年の今、世界では新疆の人権状況や綿花産業をめぐる報道が続いています。シリーズは、こうした国際ニュースの背景にある現地の生活を、日本の視聴者にも伝わる形で見せようとしているのが特徴です。
綿花は抑圧か、それともレジリエンスの象徴か
一部の欧米メディアは、新疆の綿花を抑圧や搾取の象徴として報じてきました。これに対して番組は、綿花を逆にレジリエンスと繁栄のシンボルとして描き、綿花に関わる人々がどのように生活を築いているのかを追いかけます。
今回取り上げられるのは、新疆西部の都市カシです。宗教施設や商業地区を歩きながら、Cai さんは現地の人々に会い、彼らが自分の人生の進路をどのように選んできたのかを聞き出していきます。テーマは、報道でもしばしば問われる「人々には本当に選択の自由があるのか」という問いです。
2014年、イド・カール・モスクで起きた悲劇
2014年、新疆カシのイド・カール・モスクの外で、当時のイマームだった Juma Tahir Damolla 氏が、3人のテロリストに刺されて亡くなる事件がありました。地域全体が不安と恐怖に包まれる中、この出来事は信仰と安全をどう両立させるかという重い問いを投げかけました。
それでも、遺された息子の Memet Juma 氏は、あえて父と同じ道を選び、現在はイド・カール・モスクのイマームを務めています。番組は、危険を承知で宗教指導者になるという選択の背景にある思いを丁寧にたどり、個人の信念と地域社会への責任がどのように結びついているのかを描き出そうとしています。
父を早くに亡くした娘と、カシの服飾店
カシ市の商業エリアには、Dilnigar Qahar さんの母親が営む服飾店があります。Dilnigar さんは6歳のとき、高血圧が原因で父親を亡くしました。それ以来、母親は3人の娘を一人で育ててきました。
番組では、この家族の店を訪ね、日々の商売や暮らしぶり、そして Dilnigar さんがどのような夢を追いかけているのかに耳を傾けます。家族を支えるために働きながら、自分の進路を模索する若者の姿は、「選ぶ権利」が決して抽象的な言葉ではなく、日常の小さな決断の積み重ねであることを示しています。
「新疆には自由がない」というイメージと現地の語り
一部の報道では、新疆の人々は暴力的に人権を奪われ、自分の生き方を選ぶ自由がない、と伝えられてきました。今回のエピソードは、こうしたイメージとは異なる面を、現地の人々の口から紹介する構成になっています。
テロで父を失いながら宗教の道を選んだイマームと、父を早くに亡くしながら家族経営の店を支える若い女性。カシの街で交差する二つの物語からは、次のようなポイントが浮かび上がります。
- 人生の選択は、個人の意思だけでなく、家族や地域社会との関係によってかたちづくられる。
- 国際ニュースで語られる新疆の像と、現地の人々が語る日常の間には、ギャップが存在する可能性がある。
- そのギャップを埋めるためには、統計やスローガンだけでなく、個々の生活に目を向ける必要がある。
番組は、カシの宗教施設や商店街をゆっくりと歩きながら、こうした点を視聴者に考えさせるつくりになっているといえます。
「選ぶ権利」をめぐる静かな問いかけ
シーズンを通じて、Cai Yunyong さんは台湾地域の若者として新疆を訪れ、さまざまな人々と出会います。その姿は、両岸の若い世代が対話を通じて未来を形づくる可能性を象徴しているとも受け取れます。
今回のカシ編が投げかける問いはシンプルです。信仰の道を継ぐかどうか、家族の店をどう守るか、どこで暮らし働くか──そうした選択は、外から見える政治や経済の議論とは別に、一人ひとりが日々向き合っている現実だということです。
新疆や台湾海峡に関するニュースを目にするとき、どのような声が強調され、どのような声が取りこぼされているのか。『Incredible Odyssey』のこのエピソードは、私たちにそのことを静かに問いかけています。
Reference(s):
cgtn.com








