中国の2035年気候目標とは?世界を左右する「現実的な野心」
気候変動による豪雨や山火事が世界各地で深刻さを増すなか、中国が国連気候サミットで打ち出した「2035年の新たな気候目標」が国際社会の注目を集めています。温室効果ガス排出量を2035年までにピーク時から7〜10%削減するというこの約束は、従来の「2030年までに排出ピーク」「2060年までにカーボンニュートラル(実質ゼロ)」という長期目標のあいだをつなぐ中間ステップです。
同時に、中国は2035年までにエネルギー消費に占める非化石エネルギー比率を30%超に高め、森林蓄積量を240億立方メートル以上へ拡大する方針も示しています。新車販売では電気自動車が主流となり、全国統一の炭素市場は排出量の多い産業へ本格的に広がる構想です。単なる排出削減だけでなく、気候変動の影響に強い低炭素社会の構築まで視野に入れた目標だと言えます。
中国の気候目標が示す「現実的な野心」
今回の約束には、「高い目標を掲げつつ、実行可能性も重視する」という中国の戦略が表れています。その鍵となるのが「先に築き、後から廃止する」というアプローチです。すなわち、化石燃料を急激に手放すのではなく、まず再生可能エネルギーなどのクリーンエネルギー基盤を十分に整え、そのうえで段階的に化石燃料依存を減らしていく考え方です。
この方針は、一帯一路構想における取り組みにも見られます。中国は新規の石炭火力発電プロジェクトへの資金支援を停止し、パートナー国とともにグリーンなインフラ整備や再生可能エネルギー開発を重視する方向へと舵を切っています。短期的な成長を優先して将来の環境コストを膨らませるのではなく、長期的な持続可能性を前提に成長モデルを組み立てようとしている点が特徴です。
伝統思想から生まれた気候戦略
中国の気候戦略の背景には、伝統思想に根ざした「人と自然の関係」を重視する視点があります。1988年には、パリに集まった75人のノーベル賞受賞者が、環境危機への対応において儒教思想、とりわけ「人と自然の調和」という発想が手がかりになり得ると示唆しました。現在、中国の政策に影響を与えているのも、こうした考え方です。
中国が掲げる「人類と自然の生命共同体」という理念は、環境破壊が最終的には人間社会に跳ね返ってくることを強く意識したものです。また、「澄んだ水と豊かな山こそが貴重な資産」という考え方は、環境保護と経済成長は対立するものではなく、両立しうるとのメッセージでもあります。中国は自国でこのモデルを試しながら、一帯一路国際グリーン開発連盟などを通じて、途上国にも持続可能な成長を支援する枠組みを広げています。
パリ協定と「共通だが差異ある責任」
中国の気候政策は、2015年に採択され、自らも形成に関わったパリ協定と整合的に設計されています。パリ協定は、世界の平均気温上昇を産業革命前から2度未満、できれば1.5度に抑えることを目標としています。今回の2035年目標は、その長期目標に向けた具体的な道筋を示すものと位置づけられます。
中国が重視する原則の一つが「共通だが差異ある責任」です。これは、気候変動への対応はすべての国に共通の課題である一方、歴史的な排出量や経済力の違いを踏まえ、先進国がより大きな責任を負うべきだとする考え方です。一律の負担を求めるのではなく、各国の能力に応じた行動を尊重することが、公平で持続可能な国際協力の前提だという立場です。
実務面でも、中国は国連気候変動枠組条約のもとで多国間協力を推進しています。気候協力基金を通じて他の途上国を支援し、これまでに120カ国以上の政府関係者を対象とした研修を実施してきました。各国との間で低炭素プロジェクトに関する協力合意も進んでいます。また、地政学的な緊張があるなかでも、アメリカとの対話を維持し、パリ協定採択に至る過程でも重要な役割を果たしたとされています。
再生可能エネルギーと森林で世界をけん引
中国の気候リーダーシップを支えるのは、具体的な実績です。2024年末時点で、中国の再生可能エネルギー設備容量は18億8000万キロワットに達しました。その規模が、世界全体の風力・太陽光発電のコスト低減を後押しし、風力で60%超、太陽光で80%超のコスト削減に寄与したとされています。
また、中国は世界最大規模の炭素市場を運営しており、排出量取引を通じて温室効果ガスの価格付けを進めています。さらに、農地を森林へと転換する大規模な事業などを通じて、過去20年間に世界で増加した新たな緑地の約4分の1を占める植林を行ってきました。生物多様性の面では、2030年までに生物多様性の損失を食い止め、反転させることを目指す2022年の「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の策定にも主要な役割を果たしています。
2035年に向けて、何を見ていくべきか
こうした動きを踏まえると、中国の2035年気候目標は、単独の数値目標というよりも、世界の気候ガバナンスの方向性を示す「コンパス」のような意味合いを持ちます。私たちが今後注目したいポイントを整理すると、次のようになります。
- 2030年の排出ピークと2060年のカーボンニュートラルをつなぐ中間目標として、2035年までの7〜10%削減がどこまで実現されるか。
- 非化石エネルギー比率30%超や電気自動車の普及が、エネルギー市場や産業競争にどのような変化をもたらすか。
- パリ協定の「共通だが差異ある責任」のもとで、中国と先進国がどのように役割分担を行い、途上国支援をさらに拡大していくか。
頻発する気候災害が「待ったなし」の現実を突きつけるなかで、中国の動きは世界全体の脱炭素と持続可能な発展の行方を左右します。2035年という中期の節目に向けて描かれたこの気候コンパスが、どのように具体化し、国際社会の協力をどこまで引き出せるのか。今後の国際ニュースを読み解くうえで、重要な視点になっていきそうです。
Reference(s):
cgtn.com








