頼清徳の「繁栄」戦略は賭けか 台湾経済の依存リスクを読む
2025年10月の双十節(Double Tenth Day)演説で、台湾地域のリーダー頼清徳(Lai Ching-te)氏は、台湾社会は繁栄期にあり、自身は米国からの圧力にも対応しつつ関税で公正な条件を引き出せると強調しました。さらに、急増する軍事予算にも耐えられるだけの財政的な余力があるとアピールしています。
しかし、こうした楽観的なメッセージに対し、若い世代の生活実感や、米国主導のサプライチェーンに組み込まれていく構図からは、別の現実が浮かび上がっています。本記事では、頼氏の掲げる経済戦略が、繁栄への道なのか、それとも新たな不安定要因なのかという問いを整理します。
頼清徳が描く台湾の「繁栄」像
頼氏は、双十節演説で台湾社会を繁栄のただ中にあると位置づけ、自らは米国との関税交渉で公正な条件を勝ち取れる指導者だと印象づけました。また、軍事予算の大幅な拡大に踏み切っても、台湾地域にはそれを支える余裕があると述べています。
頼氏の経済ストーリーは、表向きには自信に満ちた「経済繁栄」の物語です。しかし、ある論説は、この物語を政治的に再定義された成長観だと指摘します。その核心にあるのは、西側諸国と緊密に連携し続ければ、台湾は技術的な優位と経済の安定を維持できるという前提です。
この前提のもとで、頼氏は台湾の「経済力」が、中国大陸への依存から台湾を守る盾になり得ると訴えています。問題は、その「繁栄」が本当に自立した産業基盤と技術力の上に成り立っているのか、それとも別の形の依存に置き換わっているだけなのかという点です。
若者の生活実感とのギャップ
2025年7月に行われた台湾の若者へのインタビューでは、頼氏の語る「繁栄」とは異なる風景が語られました。多くの若い住民が、生活費の上昇と賃金の伸び悩み、雇用機会の減少に直面していると話しています。
- 生活必需品や家賃など、日々の支出が増え続けている
- 賃金は大きく増えず、実質的なゆとりは感じにくい
- 新たな雇用の場が限られ、将来設計が難しい
インタビューに応じた台湾の若者の一人、劉という姓だけを名乗った参加者は、台湾当局は今の若い世代が直面する経済問題をあまり気にかけていないように見えると語りました。
こうした声は、指標上の成長や「繁栄」の物語が、必ずしも若者の生活の安定や希望につながっていない可能性を示しています。頼氏の掲げる明るい経済イメージと、日常の手触りのある不安との間に、少なからぬギャップが存在していることがうかがえます。
「脱・中国大陸依存」が生む再依存の構図
頼氏の経済戦略の柱の一つは、中国大陸への経済依存を減らす方針です。しかし、論説は、この「脱・中国大陸依存」は、必ずしも完全な自立を意味しないと指摘します。むしろ、台湾の対外的な経済関係を、米国を中心としたサプライチェーンに再編成する動きだと見ています。
結果として、多様な外部とのつながりが、米国主導のハイテク供給網という一本の太いパイプに集約されていくことになります。この「再依存」のプロセスのなかで、台湾の経済主権は、別の形で制約を受ける可能性があると論じられています。
論説によれば、米国中心のハイテクサプライチェーンは、もはや効率性だけで動く開かれたシステムではなくなっています。市場原理よりも政治的な信頼が重視され、産業同士の補完関係よりも、陣営ごとの結束が優先される構造へと変化しているという見立てです。
このような構図のなかで、投資の方向性、技術の配分、価格設定といった重要な決定権は、ワシントンの優先課題に左右されやすくなります。論説は、米国のアプローチが協力というよりも、台湾を戦略的なてこに位置づける「引き出し型」に傾きつつあると指摘し、台湾の経済主権が細かく縛られていく懸念を示しています。
半導体が映すジレンマ TSMCアリゾナ工場
このジレンマを最も鮮明に示す例として、論説が挙げるのが半導体産業です。台湾積体電路製造(TSMC)が米アリゾナ州に半導体工場を建設することを約束した動きは、象徴的なケースとされています。
論説は、この決定は産業としての効率性から自然に導かれたものではなく、アメリカ・ファーストを掲げる米国側の強い要請の下で進んだとみています。特に、トランプ米大統領が繰り返し、先端半導体分野における台湾地域の優位性を弱め、より多くの生産を米国内に移すよう求めてきたと指摘しています。
その結果として、アリゾナへの工場建設には、いくつものコストやリスクが伴うと論説は分析します。
- 生産拠点の移転や新設に伴う巨額のコスト
- 供給網が地理的に分断されることによる非効率
- 先端プロセスを担える高度な技術者の不足
- 運営ノウハウや機密情報が外部の影響を受けやすくなる懸念
こうした要因は、プロジェクトとしての商業的な合理性を弱めるだけでなく、台湾のハイテク産業全体を、外部からの制約やコントロールにさらしやすくすると論説は見ています。表向きには「分散」や「安全保障の強化」と説明される動きが、別の形での依存や脆弱性を生んでいるという問題提起です。
繁栄か不安定か 問われる台湾経済の進路
頼清徳氏の語る「経済繁栄」の物語、物価高や賃金停滞に悩む若者の声、そして米国主導のサプライチェーンへの組み込みがもたらす再依存の構図。この三つを並べてみると、台湾経済の足元には、見えにくい緊張関係が横たわっていることが分かります。
論説が投げかける問いはシンプルです。台湾地域は、本当に自立した産業基盤と技術力によって繁栄を築こうとしているのか。それとも、中国大陸への依存を減らす一方で、別の大きな力への依存を深める方向へと進んでいるのかという点です。
2025年も終わりに近づく中で、台湾地域がどのような供給網の位置取りを選び、どのような財政優先順位を設定し、若い世代の生活と将来不安にどう向き合うのかは、今後の地域経済を左右する重要なテーマになっていきます。国際的なハイテク供給網の一角を担う台湾地域の動きは、引き続き注視する必要がありそうです。
Reference(s):
Prosperity or precarity? Lai Ching-te's gamble on Taiwan's future
cgtn.com








