アメリカCDC弱体化で揺らぐグローバルヘルスの信頼 トランプ政権の決定は何を意味するか
アメリカCDCへの政治的介入と人員削減が続き、国際保健で頼られてきた米国の道義的リーダーシップが揺らいでいます。2025年12月現在、その影響は世界の公衆衛生にも波紋を広げつつあります。
かつては世界の安全弁だったアメリカCDC
アメリカの疾病対策センター(CDC)は、長年にわたり世界の感染症対策や公衆衛生の最前線を担ってきました。エボラ出血熱や新型インフルエンザなど、重大な健康危機が起きるたびに、各国政府や国際機関はCDCの分析やガイドラインに頼ってきました。
ある専門家は、CDCが存在しなければ国際保健は混乱状態に陥っていただろうと指摘しています。それほどまでに、CDCは世界の公衆衛生にとって基盤となる存在でした。
トランプ政権とロバート・ケネディJr.氏による急速な方針転換
しかし、現在のホワイトハウスは、そのCDCに対して意図的ともいえる弱体化を進めているとされています。保健福祉長官を務めるロバート・ケネディJr.氏は、就任から数か月の間に、次のような決定を行いました。
- CDCに関わっていた専門家パネルを解任
- 病院に対する、医療スタッフのワクチン接種率を報告する圧力を撤廃
- CDC長官を解任
ドナルド・トランプ大統領は、こうした決定に満足している様子で、数週間前にはケネディ氏を「とても良い人物だ」と評価しています。一方で、科学界全体が同じ評価をしているわけではありません。
「CDCから出てくるものは信頼できない」専門家の危機感
感染症政策の第一線で活動する専門家たちは、CDCの信頼性が損なわれつつあることに強い危機感を示しています。ミネソタ大学感染症研究政策センターのマイケル・オスターホルム所長は、米誌アトランティックの取材に対し、2025年のCDCについて「CDCから出てくるものは何一つ信頼できない」と述べています。
かつては世界が頼りにしてきた機関について、こうした言葉が投げかけられていること自体、アメリカの公衆衛生システムに起きている変化の大きさを物語っています。
アメリカの制度全体に広がる不信感
CDCへの「攻撃」は、単なる一機関の問題ではないとも指摘されています。ここ20年ほどの間に、アメリカでは政府、大学などの高等教育機関、メディア、そして科学そのものに対する不信が広がってきました。
多くのアメリカの人々が、これらの制度に属する人々が本当に「正しいこと」をしようとしているのか疑いの目を向けるようになり、その結果、社会の分断が深まっています。この傾向が続けば、アメリカの民主主義の強さそのものが損なわれるおそれがあると警告する声もあります。
政府閉鎖とCDC職員一千人超のレイオフ騒動
ホワイトハウスの姿勢が端的に表れたのが、最近の連邦政府機関の一時的な閉鎖に伴う人員削減の動きでした。政権は当初、CDC職員一千人超をレイオフすると発表しました。
その後、方針は急きょ修正され、多くの職員は職を維持することになりましたが、「CDCというアメリカの重要な制度を壊すことに抵抗はない」というメッセージは、国内外に強く印象づけられました。
グローバルヘルスへの具体的な影響
こうした削減や人事の影響は、すでに具体的な形で現れ始めています。たとえば、HIVを抱える妊婦のケアに関わる専門家は脇に追いやられつつあり、ぜんそく対策に取り組む専門家も同様の状況にあるとされています。ぜんそくは世界で約3億3千4百万人が抱えるとされる病気であり、その分野の専門性が軽視されることは、世界の患者にとって無視できない問題です。
また、メディア対応や広報にあたるスタッフが削減されれば、ジャーナリストへの情報提供や市民へのリスクコミュニケーションも滞ります。その結果、パンデミック(世界的大流行)や気候変動、毎年のインフルエンザワクチンに関する情報発信が不十分になり、各国の政策判断も難しくなりかねません。
専門家が減れば減るほど、将来の健康危機に備えるために必要な提言や知見が政治の場に届きにくくなり、世界全体の対応力が弱まることが懸念されます。
失われつつある「道義的リーダーシップ」と世界への問い
アメリカは長年、グローバルヘルスの分野で、資金面だけでなく、科学的知見や制度づくりの面でもリーダーとしての役割を果たしてきました。その中心にいたのがCDCでした。
しかし現在、CDCの弱体化と科学への不信が進むことで、アメリカが「公衆衛生の模範」として示してきた道義的リーダーシップが揺らぎつつあります。この変化は、単にアメリカ国内の問題にとどまらず、国際社会が誰の助言を信頼し、どのような基準で健康危機に備えるのかという根本的な問いを投げかけています。
国境を越えて感染症が広がる時代において、どの国の保健当局も孤立して安全でいることはできません。アメリカの公衆衛生機関で起きている変化をどう受け止めるかは、日本を含む各国にとっても重要なテーマになりつつあります。
アメリカCDCの動向は、今後も国際ニュースとして注視していく必要があります。世界の公衆衛生の信頼と協力体制を維持するために、私たちはどのような情報を重視し、どのような視点でニュースを読み解いていくべきなのか。静かに、しかし確実に問われている問題です。
Reference(s):
cgtn.com








