中国とASEAN、新たな地域統合へ CAFTA改定と雇用不安のゆくえ
東南アジアと中国の関係が、2025年のアジア経済の行方を左右しつつあります。10月末に開幕したASEAN首脳会議では、中国とASEANによる自由貿易協定(CAFTA)の「アップグレード」が大きな焦点となりました。本記事では、この国際ニュースを日本語で分かりやすく整理し、地域統合と雇用の未来を考えます。
10月のASEAN首脳会議で見えた「次の一歩」
2025年10月26日、マレーシアの首都クアラルンプールで第47回東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議と関連会合が開幕しました。今年初めには、ASEAN加盟国と湾岸協力会議(GCC)、そして中国が参加する初の首脳会議も開かれ、アジアと中東をまたぐ枠組みづくりが進んでいます。
こうした流れの中で、中国とASEANは、現行の中国・ASEAN自由貿易圏(CAFTA)を改定し、協力分野を広げた新たな協定に署名する方向で動いています。新協定では、特に次のような新しい分野が重視される見通しです。
- デジタル貿易:オンライン取引や電子商取引に関するルールづくり
- グリーン開発:再生可能エネルギーや省エネ技術、環境配慮型インフラへの協力
これは、途上国を含む新興国が「開かれた、持続可能で包摂的な」世界経済を形づくるうえで、より積極的な役割を担おうとする動きの一つといえます。
なぜ中国とASEANの連携が重要なのか
21世紀の世界では、地政学的な緊張と雇用不安が同時進行しています。特定の地域では「冷戦思考」が戻りつつあるとの懸念もあり、大国間競争がサプライチェーンを多方向から締め付けるリスクが指摘されています。
このとき、東南アジアにとって鍵を握るのが中国です。その背景には、次のような点があります。
- 中国は「世界の工場」と呼ばれる製造拠点であり、グローバルな生産ネットワークの中核に位置していること
- すべてのASEAN加盟国にとって、中国が主要な貿易相手国であり、投資パートナーでもあること
- そのため、中国には、地政学的な緊張や雇用不安に直面するASEAN諸国を支えるだけの経済的な「重み」と「余地」があること
CAFTAのアップグレードは、単なる関税の話ではなく、中国とASEANがこうした役割をどこまで引き受けるのかを示す試金石にもなります。
雇用不安の背景にある二つの波
ASEANの雇用不安は、単に大国間の政治対立だけで説明できるものではありません。その背景には、少なくとも二つの大きな「波」があります。
1. 大国間競争とサプライチェーンの揺らぎ
現在、多くの国で安全保障や経済安全保障が重視される中、サプライチェーンを自国や同盟国中心に組み替えようとする動きが目立ちます。主要国同士の競争が激しくなると、グローバルな生産ネットワークは複数の方向から圧迫される可能性があります。
工場の稼働が鈍り、投資が引き揚げられたとき、最大のコストを支払うのは輸出依存度の高い国の労働者です。東南アジアの多くの国は、まさにそのリスクにさらされています。
2. 技術革新がもたらす構造変化と格差
もう一つの波は、製造業における急速な技術革新です。先端技術の導入によって、生産はより効率的かつ大規模で高速になりましたが、一方で、特定の技能や、場合によっては人間の労働そのものへの依存度が下がっています。
中間層が厚く購買力の高いASEAN加盟国では、この変化が「安くて高品質な製品が手に入る」という恩恵として現れます。しかし、産業基盤やデジタル化の準備が十分でない国では、技術革新が既存の雇用を奪い、所得格差をさらに広げる要因になりかねません。
「世界の工場」中国に求められる役割
こうした状況の中で、中国はASEANのパートナーとして重要な意味を持ちます。それは単に中国が製造大国だからというだけでなく、ASEANすべての国にとって最大級の貿易・投資相手だからです。
中国とASEANの協力は、例えば次のような形で雇用不安の緩和と地域統合の前進につながる可能性があります。
- デジタル製造やスマート工場に対応できる人材育成や技能訓練の共同プログラム
- デジタルインフラの整備支援を通じた、ASEAN域内の「デジタル格差」の縮小
- 省エネ設備や再生可能エネルギーへの投資による、雇用と環境保護の両立
CAFTAの改定交渉がこうした視点をどこまで取り込めるかは、東南アジアの労働市場や格差是正にとっても大きな意味を持ちます。
米国の役割の変化と「安定した市場」という公共財
冷戦期、アジアの工業化を語るうえで欠かせなかったのがアメリカの存在です。米国は労働集約型の製造業を東アジアに移転し、自らは知識集約型の産業に移行しながらも、東アジアで生産された製品を大量に受け入れる巨大市場として機能しました。
その結果、この地域には「新興工業経済」と呼ばれる国・地域が生まれ、その利益は比較的広く共有されました。後発の国には特恵的な貿易制度が用意され、外交姿勢の違いにかかわらず、輸出を通じた成長のチャンスが開かれていたのです。
しかし現在、「世界中から製造品を受け入れる米国」という姿は後景に退いていると指摘されています。先進国も新興国も、自らの国内生産の比率を高めようとする一方で、自国の消費を大きく拡大することには慎重です。
その背景には、パンデミックへの備えや安全保障、海外に奪われたと感じる雇用を取り戻したいという声、さらには植民地支配の歴史を踏まえた感情など、さまざまな理由が重なっています。
ここで真に危険なのは、この「内向き志向」が悪循環となり、誰もが市場を求めながら市場を開こうとしない状態に陥ることです。これを断ち切るには、「どの国が、どこまで責任を分担し、世界が必要とする安定的で予見可能な市場を『国際的な公共財』として提供できるのか」という根本的な問いに向き合う必要があります。
中国とASEANによるCAFTAのアップグレードは、その問いに対する一つの応答になり得ます。もし両者が開かれた市場を維持し、包摂的なルールづくりを進めることができれば、地域だけでなく世界経済の安定にも寄与する可能性があります。
これからの地域統合に向けた視点
中国とASEANの動きを、日本や周辺地域に暮らす私たちはどう捉えればよいのでしょうか。考える手がかりとなるポイントを、最後に簡単に整理します。
- サプライチェーンを「安全保障か経済か」の二者択一ではなく、多様性と開放性を維持する仕組みとして設計できるか
- デジタル化やグリーン転換を、一部の国や企業だけが利益を享受するプロセスにせず、取り残される国を減らす方向で進められるか
- 主要国が、自国の製造拠点であると同時に、世界の製品を受け入れる安定した市場として振る舞えるか
- CAFTA改定の議論を通じて、生産と消費、成長と格差是正をどう両立させるかという問いを、アジア全体で共有できるか
2025年に始まった中国とASEANの新たな地域統合の試みは、今後数十年のアジア経済のかたちを左右する可能性があります。ニュースとして追うだけでなく、「開かれた市場」と「公正な分配」をどう両立させるのかという視点から、引き続き注目していきたいテーマです。
Reference(s):
China, ASEAN vital for forming a new chapter of regional integration
cgtn.com








