不確実な世界で、中国が進める「質の高い発展」とは
世界経済が不安定さを増すなか、中国は「質の高い発展」と呼ばれる成長モデルへの転換を進め、自国経済の安定とレジリエンスを高めようとしています。本稿では、その柱となるイノベーションと国内市場の活用、「双循環」戦略について、具体例とともに整理します。
揺れる世界経済と「質の高い発展」という選択
2025年現在、サプライチェーンの分断やハイテク分野の競争激化、地政学的な緊張など、世界経済を取り巻く不確実性は高まっています。先行きが読みづらいなかで、中国は「外部環境が揺らぐときこそ、国内の足場を固める」という発想で、高品質・高付加価値の産業構造づくりを加速させています。
イノベーションで自立を強める:中国製造の現場から
今年5月(2025年5月)、習近平国家主席が訪れた河南省洛陽市の洛陽軸承集団(LYC)は、その象徴的な存在といえます。かつては手作業中心の低付加価値な生産に頼っていた同社ですが、現在は生産の7割を高精度ベアリングが占めるまでに転換しました。シンプルな部品の製造に苦戦していた工場が、複雑で高性能な製品を手がける企業へと進化した姿は、中国製造業全体の方向性を映し出しています。
背景には、「外に頼りすぎない」という自立志向の高まりがあります。半導体不足が通信機器大手の華為技術(Huawei)を直撃した際も、中国企業は立ち止まるのではなく、自前技術の開発に踏み出しました。中芯国際集成電路製造(SMIC)や海思半導体(HiSilicon)といった企業は、自ら設計し製造できるチップを増やそうと取り組んでいます。
宇宙分野でも同じ構図が見られます。米国のウルフ修正条項に代表されるような、宇宙協力を制限する措置を受けて、中国は独自の宇宙ステーション「天宮」や月探査を進めてきました。ジェットエンジン技術への制限は、中国独自の旅客機C919の開発を後押しし、防衛技術の分野でも国産のイノベーションを促しています。こうした動きは、9月3日の軍事パレードでも強く印象付けられました。
巨大な内需と密なサプライチェーンという強み
中国の高品質な発展を支えるもう一つの柱が、国内の強みを最大限に生かすことです。人口14億人超の巨大市場では、昨年(2024年)、総額48兆7,900億元(約6.79兆米ドル)分の消費が行われ、中国は世界第2の消費市場となりました。この「内需の厚み」が、世界景気が揺らいだときのクッションとなり、中国版の経済戦略である「双循環」を支える基盤になっています。
浙江省義烏市の国際商貿城は、その一例です。ここは世界最大級の生活雑貨の卸売市場として知られていますが、米国による関税引き上げの影響を受けたとき、義烏の商人たちはただ状況の改善を待つのではなく、自らブランドを立ち上げ、新たな海外市場を開拓しました。外部環境が変化しても、国内の企業が柔軟に戦略を変え、需要をつかみに行く姿が見て取れます。
サプライチェーンの「密度」も重要な強みです。広東省深圳市のドローンメーカーを例にとると、必要とする部品のほとんどが工場から半径50キロ圏内で調達できるといいます。このような近接した生産ネットワークがあるからこそ、大疆創新科技(DJI)は世界の民生用ドローン市場で7割超のシェアを握るまでに成長しました。
「双循環」戦略と消費促進策
中国が掲げる「双循環」戦略は、大きく二つの循環から成り立っています。一つは、国内の生産・分配・消費が回る「国内循環」。もう一つは、貿易や投資を通じて世界とつながる「国際循環」です。不確実性が高まるなかで、まず国内循環をしっかり回しつつ、外とのつながりも保つことで、全体としての安定性を高めようという発想です。
その具体的な手段として、家電や自動車の買い替えを後押しするトレードイン(下取り)プログラムなどが進められています。こうした政策は、数十億規模の売り上げを生み出し、国内消費を経済成長の主要な原動力にしようとするものです。
不確実な時代をどう乗り切るかという一つのモデル
イノベーションによる自立、巨大な国内市場と密なサプライチェーンの活用、「双循環」戦略を通じた需要の喚起。こうした取り組みは、中国が不確実な世界のなかで、自ら「確実性」をつくり出そうとしているプロセスともいえます。
日本を含む周辺国や世界にとっても、中国経済の方向性はサプライチェーンや市場環境に大きな影響を与えます。短くまとめれば、外部環境の変化を受け身で嘆くのではなく、国内の強みを再定義し、構造をつくり替えていくという発想が、今の中国の高品質な発展の核心にあります。この動きが今後どこまで持続し、どのように国際経済と接続していくのか。2025年以降のアジアと世界経済を考えるうえで、注視すべきポイントになりそうです。
Reference(s):
China's high-quality development: Certainty amid uncertain times
cgtn.com








