APEC首脳会議で語られたアジア太平洋の奇跡──輸出・貯蓄・吸収力 video poster
2025年に韓国で開かれたAPEC首脳会議に合わせて公開されたインタビュー動画で、韓国の大学で客員教授を務め、オックスフォード大学の政治学教授でもあるクリストフ・ペルツ氏が、アジア太平洋の経済成長とAPECの役割について語りました。本記事では、そのポイントを日本語で整理します。
APECは「ゆるやかな外交フォーラム」
ペルツ氏は、APEC(アジア太平洋経済協力会議)は何よりも「フォーラム」であり、条約や法的拘束力のある義務を持たない場だと強調します。各種の合意はすべてコンセンサス、つまり全参加者の合意によって決まり、非常に緩やかな枠組みになっています。
この「緩さ」こそが、いまの分断された世界経済にはむしろ適しているのではないか、と同氏は見ています。主要な貿易圏の間で緊張が高まるなか、強い拘束力を持たない、外交的で合意形成を重んじる場だからこそ、前向きな結果にたどり着きやすいという見立てです。
またAPECは、アイデアが生まれ、その後ほかの場で具体化されていく「インキュベーター(孵卵器)」として機能してきたとも指摘します。今回の首脳会議でも、将来の貿易協力に向けた意思表示やシグナルが示されるのではないかという期待が語られました。
アジア太平洋の奇跡を支えた3つの要因
1980年代以降のアジア太平洋地域の成長は、しばしば「アジア太平洋の奇跡」と呼ばれてきました。多くの専門家がその要因を議論してきましたが、いくつかの基本的なポイントについてはおおむね共通認識があります。
1. 輸出主導の経済成長
第一の要因は、成長が輸出主導だったことです。企業は、とくに西側諸国からの需要に応えるかたちで生産を拡大しました。1980年代から1990年代、そして2000年代初頭にかけて、アメリカは市場を比較的開放したまま維持しており、その需要がアジア太平洋の企業を後押ししました。
この時期、中国本土や韓国、日本では、国家が経済に積極的に関与しつつも、世界市場のシグナルに耳を傾け、外部からの圧力から企業を守るのではなく、グローバルな需要に応じられるよう支援する方向に動いたとペルツ氏は説明します。
2. 高い国内貯蓄率
第二の要因は、非常に高い国内貯蓄率です。アジア太平洋地域の国や地域では、人びとが多く貯蓄を行い、その水準はしばしば同水準の西側諸国の倍近くに達していました。
この高い貯蓄が、教育やインフラなどへの投資の原資となりました。海外からの借入れや債務に過度に依存するのではなく、自国内の資金で成長に必要な投資を賄うことができた点が、大きな特徴だったといえます。
3. 好条件を生かす「吸収力」
第三の要因として、ペルツ氏は「運」とも言える外部環境と、それを生かす「吸収力」を挙げます。この時期は、エネルギーコストが比較的低く、世界全体も開放的で、アジア太平洋地域の財やサービスに対する大きな需要が存在しました。
同氏は「運は雨のようなもので、それを受け止めるバケツが必要だ」という比喩を紹介します。アジア太平洋地域は、そのバケツにあたる「吸収力」を備えていたというのです。具体的には、高い教育水準と識字率、そして継続的に投資を行う能力があったため、好条件を成長につなげることができました。
賃金抑制と成長の好循環
1980年代から2000年代にかけての成長には、賃金をある程度抑制する側面もありました。賃金が抑えられたことで消費は相対的に低くとどまり、その分だけ貯蓄が増え、再び投資に回されるという循環が生まれました。
こうして輸出、貯蓄、そして外部環境を生かす吸収力が組み合わさり、アジア太平洋地域では成長が成長を呼ぶ好循環が形成された、とペルツ氏はまとめています。
いま私たちが考えたいこと
グローバルな貿易摩擦が続く2025年現在、APECのような緩やかな枠組みが、将来の協力の「種」をまく場としてどこまで機能できるのかが問われています。ペルツ氏の指摘は、アジア太平洋の成功がただの「奇跡」ではなく、政策選択と社会の積み重ねによって準備された結果であることを思い出させます。
日本を含むアジア太平洋の国や地域にとって、輸出市場への接続、高い教育水準の維持、貯蓄と投資のバランス、そして外部環境を生かす吸収力の強化は、これからの成長戦略を考えるうえでも引き続き重要なテーマと言えそうです。
Reference(s):
Asia-Pacific miracle: Exports, savings and absorptive capacity
cgtn.com








