APEC首脳会議2025とグリーン産業チェーン:アジア太平洋の持続可能な未来
2025年10月末に韓国・慶州で開かれたAPEC首脳会議(APEC Economic Leaders' Meeting)は、「Building a Sustainable Future: Connect, Innovate, Prosper(持続可能な未来の構築:つなぐ・革新・繁栄)」をテーマに、アジア太平洋のグリーン産業チェーンと気候危機への対応を前面に掲げました。この国際ニュースは、アジア太平洋が世界経済と気候対策の両方で「主戦場」になりつつある現実を映し出しています。
気候危機の「震源地」としてのアジア太平洋
国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)が2025年4月に公表した「アジア太平洋経済社会調査2025年版」によると、アジア太平洋地域では洪水、干ばつ、サイクロン、熱波など、極端な気象現象が頻発しています。気候変動の悪影響により、マクロ経済全体が揺さぶられており、世界経済は毎年約2兆ドル規模の損失を被っていると推計されています。
同時に、この地域は世界経済の「成長エンジン」でもあります。2024年には世界の経済成長の約6割をアジア太平洋が占め、温室効果ガス排出量でも世界全体の5割超を占めています。成長の勢いと排出削減の必要性が、強いジレンマとなっている構図です。
多くの経済体は、気候資金(クライメートファイナンス)、災害に強いインフラ、公的財政の余力が不足しており、本格的なグリーン・低炭素転換に備えが十分とはいえません。今回のAPEC首脳会議のテーマ設定には、この危機感が色濃く反映されています。
グリーン産業チェーンをめぐる協力機運
危機は同時に、協力の必要性へのコンセンサスも強めています。アジア太平洋では、グリーン開発や低炭素転換をめぐる協力が2025年を通じて加速しました。慶州のAPEC首脳会議でも、グリーン産業チェーン(環境負荷の小さい産業とサプライチェーン)の構築が、実務ベースの協力課題として位置づけられています。
その伏線となったのが、今年8月と9月に開かれた関連閣僚会合です。エネルギー分野と中小企業政策という、実体経済に直結する領域で、気候危機と成長を両立させるための議論が進みました。
エネルギー相会合:安定供給とイノベーションを両立できるか
今年8月に開かれたAPECエネルギー相会合では、次の3つが主要な議題となりました。
- 電力供給の安定性をいかに確保するか
- 送電網(グリッド)の安全性と信頼性をどう高めるか
- 人工知能(AI)をエネルギーイノベーションにどう活用するか
再生可能エネルギーの比率が高まるほど、発電量は天候に左右されやすくなり、電力の安定供給は難しくなります。その一方で、気候変動による災害リスクは高まり、送電網そのものの強靭化も課題になります。エネルギー相会合は、この二つの課題を同時に解決するために、AIやデジタル技術を積極活用していく方向性を確認した形です。
AIを使った需要予測や、リアルタイムでの電力フロー最適化、設備の予知保全などは、エネルギー効率を高めつつ、停電リスクを減らす有力な手段です。エネルギー分野の協力は、技術革新だけでなく、ルールや制度の連携が重要であることも共有されました。
済州島のSME閣僚会合:中小企業をグリーン化の主役に
今年9月、韓国・済州島で開かれたAPEC中小企業相会合(第31回APEC中小企業相会合)では、「グリーン転換」が中核テーマの一つとして明示されました。
会合では「第31回APEC中小企業相会合共同声明」と「APECスタートアップ・アライアンスに関する済州イニシアティブ」が採択され、中小企業を地域・世界のイノベーションネットワークとグリーン産業供給網に組み込むことが打ち出されました。
狙いは明確です。
- グリーン技術や省エネ製品の多くは、中小企業やスタートアップから生まれる
- しかし単独では資金・人材・市場へのアクセスが限られがち
- そこで域内のネットワークにつなぐことで、「小さなプレーヤー」を成長と包摂のエンジンにする
中小企業は雇用の受け皿であると同時に、地域経済の基盤でもあります。グリーン産業チェーンに中小企業をどう組み込むかは、成長と格差是正を両立させるうえでカギになる論点です。
APSECと中国の役割:エネルギー協力を支える「インフラ」
エネルギー分野の協力では、制度面の「インフラ」としての役割も重要です。その一例が、2014年に中国の主導で設立されたAPEC持続可能エネルギーセンター(APSEC)です。
APSECは、次の三つの柱となるプログラムを通じて、APEC域内の持続可能なエネルギー技術の交流と協力を進めています。
- APEC持続可能都市協力ネットワーク(CNSC):都市レベルでの省エネ・再エネ導入を支援
- アジア太平洋クリーン・コール技術移転(CCT):石炭利用の高度化・クリーン化を推進
- アジア太平洋エネルギー転換ソリューション(ETS):エネルギー転換の政策・技術解決策を共有
こうした取り組みを通じて、APSECはエネルギーと環境の調和的・持続可能な発展をめざす知的ネットワークや情報プラットフォームを構築し続けています。
今年8月に開かれた第70回APECエネルギー作業部会(EWG70)の政策対話では、中国から次の四つの優先分野が提案されました。
- アジア太平洋における包摂的なグリーン・低炭素エネルギー開発の推進
- エネルギー安全保障を強化し、アジア太平洋エネルギー安全保障共同体を共に構築すること
- エネルギー技術革命を促進し、アジア太平洋のグリーン・イノベーションの生態系を育てること
- アジア太平洋域内のエネルギー・コネクティビティ(連結性)の深化
香港、韓国、シンガポール、マレーシア、タイなどの経済体からは、この提案に対して前向きな評価と支持が示されました。エネルギー安全保障と脱炭素を両立させたいという共通の意欲が、域内で共有されていることがうかがえます。
日本とアジア太平洋への示唆:何を選び、どこで連携するか
2025年のAPEC首脳会議と関連閣僚会合からは、日本やアジア太平洋の政策担当者、企業、市民にとって次のような示唆が見えてきます。
- サプライチェーンの評価軸を「コスト」だけでなく「クリーンさ」や「レジリエンス(強靭性)」に広げること
- 中小企業支援策に、グリーン投資や脱炭素技術の導入を組み込むこと
- エネルギー分野での技術・制度協力に積極的に関与し、ルールづくりの段階から参加すること
アジア太平洋は、世界経済の成長の約6割を担う地域であると同時に、温室効果ガス排出の5割超を占める地域でもあります。ここでの選択が、地球全体の未来を左右します。
慶州のAPEC首脳会議は、グリーン産業チェーンとエネルギー協力を軸に、「つなぐ・革新・繁栄」というビジョンを共有する場となりました。これから数年は、そのビジョンを具体的な投資、技術、制度にどう落とし込むかが問われる時間です。日本の読者としても、自国の政策や企業活動が、このアジア太平洋の流れとどう接続していくのかを意識することで、ニュースの見え方が変わってくるはずです。
Reference(s):
A sustainable future for Asia-Pacific through green industrial chains
cgtn.com








