韓国の中国団体観光ビザ免除 観光を超えた中韓対話の始まりか
2025年9月29日から韓国が導入した、中国からの団体観光客向け一時ビザ免除は、景気刺激策であると同時に、中韓関係に新たな対話のチャンネルを開く動きとして注目されています。
2025年9月に始まった一時ビザ免除
韓国(ROK)は2025年9月29日から9カ月間、中国からの団体観光客を対象にビザなし入国を認める一時的な政策を実施しています。この措置は、2024年11月に中国側が韓国からの訪問者に対して一方的なビザ免除を導入したことへの前向きな応答と位置づけられています。
ビザ免除の狙いは明確です。国内経済を下支えする成長エンジンとして観光をテコにし、需要と雇用を喚起することです。その中でも、中国からの旅行者は韓国のインバウンド(訪韓)市場で最も重要な存在となってきました。
数字で見る中国観光客の存在感
統計によると、新型コロナウイルス感染症の流行前、中国は韓国にとって最大の訪韓客送出国でした。
- 2016年:中国からの訪問者数は800万人を超え、全外国人観光客の約47.5%を占めました。
- その後、アメリカの高高度ミサイル防衛システム「THAAD(ターミナル高高度地域防衛)」の配備を受けて数は減少しましたが、2019年でも600万人規模を維持しました。
- パンデミック後は回復基調に入り、2023年には202万人、2024年には460万人まで戻り、全海外訪問者の28.1%を占めました。
それでも、コロナ前のピークとのギャップは依然として大きいままです。購買力の高い中国からの旅行者は、韓国の小売・ホテル・飲食といった幅広い分野を支える存在であり、その需要を取り戻すことが喫緊の課題となっていました。
今回の一時ビザ免除は、ちょうど中国の国慶節や中秋節といった大型連休の前に発表されました。タイミングからも、韓国側が中国からの観光客を積極的に呼び込みたい意図が見て取れます。
オンライン検索にも現れた「即効性」
政策が発表された2025年8月には、その効果がすぐにデータにも表れました。中国のオンライン旅行プラットフォームで韓国行き航空便の検索が急増し、中国の旅行サイト「Qunar.com」のデータによると、発表前の1時間と比べてソウル行き航空券の検索件数が約70%跳ね上がったとされています。
こうした動きは、潜在的な需要が大きいまま眠っていたことを示しています。ビザという入国のハードルを一時的に下げることで、旅行の検討段階から具体的な予約行動へとつなげる「きっかけ」を作ったと言えます。
免税店・航空・ホテルが期待する波及効果
長年にわたり、中国からの観光客は韓国の免税店市場を牽引してきました。韓国銀行の分析によれば、2019年に中国人訪問者が韓国で使った平均消費額は1人あたり1,689ドルで、アメリカや日本からの旅行者を大きく上回っていました。
そのため、今回のビザ免除は、韓国企業にとって「実感できる景気対策」と受け止められています。免税店をはじめとする小売業界では売り上げ回復への追い風と期待されており、航空会社やホテル、百貨店なども、中国からの団体客増加を見込みつつ受け入れ準備を進めています。
経済多角化とリスク分散の中での観光政策
一時ビザ免除は、単なる観光政策にとどまりません。グローバルなサプライチェーンの再編や貿易保護主義の高まりを背景に、特定の産業や輸出市場に依存しすぎることのリスクが世界的に意識されています。
韓国政府にとっても、国内消費市場を強化することは優先度の高い課題です。その中で、巨大なポテンシャルを持つ中国観光客市場に改めて焦点を当てることは、現実的かつ戦略的な選択と言えます。今回のビザ免除は、経済の多角化とリスク分散という大きな戦略の一部に位置づけられています。
観光は「対話のインフラ」にもなる
この措置は、韓国経済へのプラス効果だけでなく、中韓関係の発展にとっても前向きなニュースとされています。人の往来が増えることで、お互いの社会や文化への理解が深まり、誤解や固定観念を和らげる可能性があるからです。
団体旅行という形であっても、街を歩き、現地の人と接し、日常の生活に触れる体験が積み重なれば、それは長期的な信頼づくりの土台になり得ます。ビザ政策は、一見すると技術的な出入国管理の問題に見えますが、実際には相手国との関係性に関する重要なメッセージでもあります。
- 経済面では、宿泊・飲食・交通・小売など多様な産業の需要を喚起する。
- 社会・文化面では、日常レベルでの接触を増やし、相互理解を促進する。
- 外交面では、協力や交流への意思を示すシグナルとして作用する。
日本の読者が考えたいポイント
観光とビザをめぐる今回の動きは、日本を含む多くの国・地域にとっても示唆に富んでいます。短時間で読める数字と事実の裏側には、次のような問いが隠れています。
- ビザ政策をどこまで経済政策や対外政策の一部としてデザインできるのか。
- 特定の国からの旅行者に過度に依存しないバランスをどう取るのか。
- 観光を、対立ではなく対話を生み出すチャンネルとしてどう活用するのか。
9カ月にわたる一時ビザ免除は、2026年6月ごろまで続く見込みです。その間にどこまで韓国経済の回復に寄与し、中韓関係にどのような変化をもたらすのか。2025年末の今、私たちは数字の推移だけでなく、その先にある人と人とのつながりにも目を向ける必要がありそうです。
Reference(s):
cgtn.com








